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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第十章~取り返した未来~
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8.夕焼け空のブランコの上

 空は随分晴れて居た。

 鉛色の皮膚を持つ「歩兵」の放つ銃弾を、身を翻してかわし、朱緋色の瞳を持つ神気体は片手からエネルギー砲を発する。圧力で一ヶ所に寄せ集められた「歩兵」達に、ユーリの神気体が「風化」の術を放つ。

 恐らく何等かの人形である歩兵達は、身を粉にされて砕け散った。

 目に見える範囲の「歩兵」を始末してから、ガルム・セリスティアの操る、朱緋色の瞳の神気体は目の力を使って町中を霊視する。

「最終地点。救助可能生存者数は零。術式を組む。ユリアンは所定の位置に」と、ガルムが発音する。

「了解」と、ユーリの応答が聞こえる。彼の操っている神気体が、位置確認の後に転送された。

「ガルム・セリスティア」と、アンナイトの声が聞こえる。「『歩兵』の進行方向が変わっている。町の外へ向けて退避しつつある」

 それを聞いて、ガルムは「何故、今になって?」と、問う。

「情報を持って退避しようとしている可能性はある。見逃すか?」と、アンナイトは問い返す。

「反撃の準備を成される確率は?」と、ガルム。

「無くは無いだろう。布陣を敷く間に、『歩兵』の削除を勧める」

「出来ればやっておく」

「曖昧な判断は勧めない」

「十九時間働き続けた人間の判断は曖昧なもんだ」

 ガルムの、若干イライラしている言葉を聞き、「本機の許可範囲内で『歩兵』の追撃を行なう。ガルム・セリスティアは術式の構築に集中を」と、アンナイトは打開策を提案した。

「そいつぁ、ありがたいね」と、言葉を返すガルムの耳元に、ユーリの声が聞こえてくる。

「ポイントに到達しました。そちらから『目視』は出来ますか?」

 ガルムは建物や邪気を透視して、手はずの場所にユーリが居る事を目視した。

「確認した。布陣を敷くまで結界を維持、待機」

「了解」

 それだけのやり取りをしてから、ガルムは町から外へ向かう、一本の道に向かって飛翔した。


 町の各所の通りから、恐らく外部へ向けて逃げ出そうとしている「歩兵」達を狙って、ガルムの神気体の翼から電撃が放たれる。それは唯の雷ではなく、電圧を持って「歩兵」達を塵にする。

 一時的に「歩兵」達が通りから散った。その隙に、ガルムは通りを作っている道の上に、叩きつけるように神気体の手の平を置いた。

 ガツッと、鈍い音がして、手の平と同じ形の神気が道に植え付けられる。白く光る障壁が来る道と行く道を塞ぎ、町から逃げ出そうとしていた後続の「歩兵」の行く手を無くした。

 町の中に取り残されたほうの「歩兵」達は、最後の足掻きと言う風に、隊列を組み、自動小銃を構え、弾幕を作る。

 弾丸が神気体の位置に届く前に、ガルムは別のポイントへ向けて神気体を瞬間移動させた。


 小さな細い路地は無視して、町から外に出る二十四の通りを、先の方法で全て封じた。順番としては、常に一定の方向から三角形を描くように移動しながら。

 最後の通りを封じた時に、ガルムは心の中で「よし」と呟いた。

 続いて、通信をユーリの居る場所に繋ぐ。

「ユリアン! 術式の展開を!」

 そう呼びかけると、ユーリは深く息を吸ってから、「了解。術式、展開」と復唱した。

 デルタの術の中央にある、ビルの屋上に瞑想の姿勢で座していたユーリは、胸の前で向かい合わせた手の中で練った神気と霊気の塊を押しつぶすように、両手を合わせた。

 甲高い、ブレーキ音が「戻ってくる」ような音を発しながら、術師を中心に、二十四の地点へエネルギーの放出が起こる。

 そのエネルギーはガルムの神気と調和して、町中を浄化エネルギーの中に包み込んだ。場に強烈な光が満ちる。

 次の瞬間、二人の神気体も、「歩兵」達も、邪気で崩れ落ちかかっていた建物の部類も、全てがその場から掻き消えた。


 逸歳洛(ツァミッシャーダ)の軍部から、問題の町が「熱と化して消滅した」と言う情報が、明識洛(クオリムファルン)の軍部を経て、ハンドエッジ基地の参謀達に告げられた。

 情報を任されている者が報告をしている。

「残存魔力を分析した所、まるで邦零大洛(ソルアーニム)の『弾丸』が、さらなる高純度エネルギーを持ったような反応がありました」との事だ。

 参謀達は考え込んだ。

「エネルギー変換の暴走だろうか?」と、ある者が言う。

「暴走であれば、『高純度のエネルギー変換』には成り得ないのでは?」と、別の者は言う。

「ユリアン・ラヴェルと、ガルム・セリスティアの術的相乗効果が原因では?」と、また別の者も言う。

 皆、あの町は「浄化フィールド」を創り出した時のエネルギーで消滅したのだと考えていた。

「操縦者二人の意識は回復したか?」と、ある者が、情報を持っている部下に問う。

「いいえ。両名とも、昏睡状態が続いています。しかし、生体エネルギーは失われて居ません」

「となると、神気体が分解したわけではないな」と、またある者が言う。

「ジークフリート氏の情報については?」と、別の者が提案する。「『怒り人』の空間干渉能力による、別空間への転送は考えられないか?」

「それは十分あり得る」と言って、また別の者が、部下に問う。「残存魔力の移動経緯は、何処まで追えたかな?」

「ガルム・セリスティアが『異空間移動』を行なった時の波形と、よく似ているものが得られました」と、部下は答える。

 全員が注視するモニターに、少しずつ下方移動をしながら、横方向への複数回の移動をしている波グラフが現れた。

 部下は説明する。

「ガルム・セリスティアの報告によると、このグラフに記された下方移動と水平移動は、サクヤ・センドの記述にある『世界の隙間』に移動したときに発生する現象だそうです。

 若干の過去軸への移動と、空間移動を繰り返し、常に『別空間の未来に干渉しないよう』に移動するものだと」

 参謀の一人が言う。

「二人を探し出せるか?」

 部下は冷静に答えた。

「尽力します」


 物凄い眩暈と共に、ガルムの神気体は目を開けた。脱力した状態で、空間の床に横たわっており、気を抜けば、再び不快な眠りの中に引きずり込まれそうだった。

「アンナイト。神気体の状態は?」と問うても、応答がない。

 自分の状態を見ようと、神気体を人間の体のように操る。衣服部分も身体部分も、何処にも欠損は無いようだ。しかし、背のほうを見ても翼が無くなっている。

 アンナイトの存在だけが消えている。逆を言えば、アンナイトの機能が届く位置から隔てられてしまったのだ。

 周り見回すと、少し離れた所にユーリの神気体があった。左腕を下にして、倒れ込んでいる。

「ユリアン」

 声をかけ、ガルムはふわふわしそうな関節をゆっくり動かして床を這い、ユーリの傍らまで移動すると、体を起こして膝をついた。

 神気体にも、脈拍と言う反応は発生する。ガルムはユーリの神気体の首に触れた。静かに、脈は打っている。

 ガルムは安心したように息を吐き、目を瞬いた。一体、此処は何処だろう。

「目が覚めたの……?」と言う、語尾に力のない声が聞こえた。その声の方から、空間全体に「波」が広がる。

 空は永遠の夕日が差して居るような茜色に成り、地面には日射しを受けて朱に染まる花々が咲く。その花畑の一角に、子供が寝そべられるくらいの、木製のブランコが現れた。

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