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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集9
381/433

アリシャと金色のお姫様 4

 アリシャは、空間を抜ける間に念じた。あいつ等からマリンを助けるには、もっと強い力を持ってなきゃダメだ。

 絵物語に出て来る龍族のように、もっと大きい羽、もっと鋭い爪、もっとよく見える目と、頑丈な体。火を創り出す魔力と、それを吐ける喉と口。

 そう念じているうちに、「向こう側のエネルギー」で出来ている彼の体の形は、変形して行った。彼が望んだ通りに、より強靭なものへと。


 建物の床が崩れ落ち、何処かから放たれた火炎で、アジトは燃え上がり始めました。

 マリンの首を絞めていた者達も、火に驚いてロープから手を離し、その物自体が崩れ始めているアジトを、あちらこちらへ逃げ出しました。

 マリンは窒息からは逃れましたが、新しい危機が近づいていると知りました。絞めつけられていた時の反動と、火炎の起こす煙で、ゲホゲホと咳が出ます。

 彼女の居た場所は、どうやらビルディングの広い部屋の一室のようでした。三方は壁ですが、一方だけ広く窓があります。

 ガシャンと言う音がして、その窓が飴細工のように割れました。

 手足を縛られていましたが、マリンはガラスの破片を避けようと、身じろぎしました。

 ガシッと、硝子の無くなった窓に、巨大な爪が引っかけられました。次に、黒い羽毛のような物が生えた羽が見えました。

 マリンがじっと見ているうちに、ひょこりと、嘴を持った狐のような顔立ちの、大きな青い目がキラキラしている、思ったより可愛らしい黒いドラゴンが姿を見せました。

 可愛らしいとは言っても、その大きさは、マリンを一口で食べれていまいそうです。

 そのドラゴンの毛色は真っ黒で、マリンは「何処にも白い所が無かったために、可愛そうなことになった猫達」の事を思い出しました。

「マリン」と、そのドラゴンは、小さな子供のような声で話しかけてきました。「大丈夫?」

 そう言いながら、ドラゴンは部屋の中に這ってくると、鋭い爪で、マリンの手と脚を縛っていたロープを切りました。

「喉、痛い?」と、ドラゴンは聞いてきます。確かに、マリンは喉に手を当てていました。絞めあげられた痕が痛かったのです。

 ドラゴンは、青色の爪を近づけて来て、マリンの首に「治癒」をかけました。

「あなた……」と、マリンは言葉を発しました。「助けてくれるの?」

「うん!」と、ドラゴンは、随分元気に答えました。


 どんなに高貴なお姫様だって、ドラゴンの背に乗って空を駆け巡ったなんて言う記憶を持つ人は、そうそう居ないでしょう。

 まさに、マリン・ナーサリーは、その高貴なお姫様以上の幸福に出会ったのです。

 黒いドラゴンは、マリンに「首の後ろの毛に掴まるように」と指示を出すと、ふわりと空に舞い上がり、人間の女性が耐えられるくらいの速度で、優雅に空を遊泳しました。

 マリンは、澄んだ風を切って空を飛ぶ間、まるで空を巡る大気と一つとなったように感じました。飛行船に乗ってる時とは、全然違います。

 自分の皮膚で風を感じながら空を飛ぶと言う、本来は翼を持つ者達にしか許されない、生命としての喜び知ったのです。


 ドラゴンは、マリンを安全な人間の町に送り届けました。

 そのドラゴンとお別れをする時、マリンはこんな事を言ってみました。

「あなたの名前を教えて」

 そう言われて、ドラゴンはしばらく黙っていました。それから、小さな子供のように、「んーとね。たぶん、聞いたら、マリンは、僕のこと嫌いになる」と言います。

「嫌いになんてならないわ」と、マリンは笑顔で悪戯っぽく応えます。「だって、私がまた空を飛びたくなった時に、あなたが来てくれなかったら困るでしょう? だから、名前を教えて」

 ドラゴンは、青い目を瞬きました。

 その瞳の目頭には、アイラインのような赤い線が一筋入っています。

 その一筋の赤い色を見て、マリンは「やっぱり神様は偉大だわ」と確信しました。こんなに心優しい子が、悪魔の手先なわけがないと言う意味で。

 ドラゴンはしばらく黙ってから、名前を教えてくれました。


 アラダが見守る中、アリシャは方法を間違えずに、外を映している円盤の中から空間を辿って、「城」に帰ってきた。

 空間を通る間に、成長した姿に成っていたアリシャの体はすっかり元に戻って、人間の一歳児くらいの大きさに成ていった。その小さな体を、アラダは腕の中に受け止める。

「すっかり上手く行ったみたいだね」と、アラダは円盤を見上げて言う。

 其処には、マリンが親切な人の家に保護されて、地元の警察を呼んでもらい、自分の家に帰るまでが映し出されていた。

 

 おかしな税金の徴収方法を考えた人達は、悪いのは過激派が隠れているような世の中の形態にあると、責任をすり替えて、結局そのおかしな税金を取り立てるのを諦めませんでした。


 それから、随分とアリシャは幸せな生活を送っています。

 残念なのは、マリンが龍族では無かったことですが、歌っている彼女の美しさを見ていると、そんなのは、ほんのちっぽけな事に感じました。

 伸びやかなファルセット、美しいハイトーン、囁くようなウィスパーボイス、その中に時折混じる、太く響く力強い低音域。

 歌を歌ってもらったお礼に、アリシャは大人のドラゴンの姿に変化して、マリンを背中に乗せます。

 そして、暖かく涼しい夏の風が吹く上空を、一頻り飛び回るのです。

 そうです。アリシャの、幼い夢は、叶ったのです。

 今日も、アリシャと金色のお姫様は、明るい空の中を悠々と飛び回っています。

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