タイガとシノンのから騒ぎ~シチューパーティーに行こう 3~
静かなバーで大人のドリンクを楽しんだ後は、ジャンクなほうで胃袋を満たしたくなる。
「ステーキハウスでも行くか?」と、シノンは合い方に聞いた。
「そうですね。ファストステーキって言う店、知ってます? 新しく出来たんですけど」と、タイガは返す。
「どんな店?」と聞くと、「前菜とかスープとか無しで、一品目から分厚いステーキが出てくる店です。一番安い肉で、十ルビーで食べれますよ」と、酔っ払ってるわりにはタイガの説明は明瞭である。
「へー。面白そうじゃん。どっち方面?」
「駅前の近くですね」
そんな事を言い合いながら、大人二人は繁華街を歩く。
「あ。タイガとシノンだ」と、聞き覚えのある声が呼び止める。振り返ると、ほろ酔いのナタリアが居た。
「おー。ねえさん。こんな夜中にどうしたよ?」と、シノンは急に何時もの調子で話しかける。
「新人達に、リキュールの飲み方を教えに来た」と、ナタリアは言い、恐らく人生で初めてリキュールを飲んだらしい、女性兵士達を指差す。
赤ら顔をした若い女性兵士達四人は、既に良い具合に酔いが回っていて、先輩達に両手の親指を立てて見せながら「イェー!」と歓声を上げる。
「ねえさん達は、シメはどうすんの?」と、シノンが突っ込んで聞く。
「スープ屋に行く」と、ナタリア。
「そっか。おおい。そっちの子、足元に気をつけてったほうが良いよー」と声をかけて、キャッキャしている女子達に手を振りながら、シノンとタイガは駅前に向かった。
鉄板が目の前に置かれているカウンター席で、ステーキの値段と焼き加減を注文すると、思ったより分厚い肉の塊が登場した。
「これ、リアルに十ルビー?」と、シノンは目を瞬いている。
「そうです。だけど、ソースは無しなんですよ。全部岩塩とコショーの味です」と、タイガは教える。
「ああ、なるほど」と、シノンは格安の理由を納得した。
「あ。タイガさんとシノンさんだ」と、また聞いた事のある声が聞こえた。
振り返ると、さっきまで話題にしていたガルム・セリスティア本人が、頬を赤らめた状態でステーキハウスに入ってきた所だった。
ノックスと言うガルムのルームメイトと、コナーズが一緒に居る。そんなに飲んでいる様子ではないが、三人ともアルコールのにおいがする。
「あらあら。頬っぺた赤くしちゃって」と、シノンは青年達を揶揄った。「そんな様子でうろうろしてたら、人攫いにつかまるよ?」
それを聞いて、タイガは声を抑えて笑ってしまった。女の子にも言わなかった気遣いを、何故ガルム達には発揮するのだと言う意味で。
「つかまり……ますかね?」と、ガルムは真面目に聞いてくる。
「そこは聞き返す所じゃない」と、ノックスがツッコミを入れる。それから先輩達に、「なんかこの少年、リキュール飲んだ事がなかったらしいんですよ」と説明する。
「初体験をさせたちゃったわけね」と、シノンが言うと、「させちゃいました」と、コナーズが挙手をしながらふざける。年齢的には彼が保護者なのだろうが、一番酔っ払っている。
「闇鍋パーティーメンバーが集結しちゃってんじゃん」と、シノンもふざけ返す。「君等もシメに来たわけ?」
「そんな感じです」と、コナーズは酔っ払い声で答えてから、鉄板の向こうに居る店主に「十ルビーの肉を三つ。ミュディアムで」と頼み、席に就く。
「シノンさんって飲めましたっけ?」と、ガルムはシノンの隣に座りながら聞く。
「そう言う事を聞くな」と、ガルムの隣に座ったノックスが何故か怒る。
「別に聞いても良いけど?」と、シノンは酔っ払い達に返す。
「何飲むんですか?」と、ガルム。
「世の中にはね、酒と一緒に、良質なノンアルコールドリンクを出してくれる店もあるって事」と、シノン。
「へー」と、ガルム。
「ほら、薄い反応しか出来ねーんだから。黙っとけ」と、ノックスは何故か怒る。
「ノックス君は絡み上戸なんだね」と、タイガが言う。
「えー? 絡んでませんよー?」と、ノックスは認めない。
「いや、さっきから、ずっと絡まれています」と、ガルム。「お陰で、全然酔えなかったんですよね」
「実際、今は意識ハッキリしてる?」と、タイガはシノンの席を間に腕を伸ばし、頬を桜色に染めているガルムの目の前で、手を振ってみせる。
「意識は……なんかもやっとしてます」
「もやっと?」と、タイガは冗談を聞いたように機嫌よく笑む。
「頭の奥がはっきりしないような。何となく声が大きくなってしまいそうなような」と、ガルムは酔っ払ってるわりにローテンションだ。
「割と自制しちゃうタイプか」
「タイガ坊や。俺を間にして、酒臭い息を吐き合わないで」と、シノンは酔っ払い達に文句をつけた。
ふざけ合っていた一団の所に、次々に肉の乗った皿が提供された。付け合わせの野菜すらない、本当にステーキのみ一品の皿だ。
夫々がカトラリーボックスからナイフとフォークを手に取り、酔っ払っていても食べやすい方法を編み出す。
予め肉を細かく切り刻んでから、一切れ一切れフォークで刺す者も居れば、マナーを守る者も居る。マナーを守っていても、カトラリーを持つ右手と左手が逆の者も居る。
「シノンさん。フォーク、反対じゃないですか?」と、ガルムが隣の人の手元を確認する。
右手にフォーク、左手にナイフを持っているシノンは、「俺、サウスポーだから」と言い訳をする。
「へー」と、またガルムが薄い反応をすると、ノックスがその肩を肘で押していた。
十ルビーの肉でも、脂身と赤身の混じり具合と焼き加減が丁度良く、美味い美味いと言って食えた。
酔っ払い達の「美味い」の声を横耳で聞きながら、他の客の肉を焼いている店主の顔は、少し誇らしげに笑んでいる。
「何か物足りない」と、シノンが言い出した。「旦那。追加で頼めるメニューってある?」
「ポテトフライならすぐ作れるよ!」と、勢いの良い感じで店主は答えた。
「じゃぁ、ポテトフライ一個頼む」とシノンが言うと、店主は「はいよ」と返事をし、片手のフライ返しで肉を焼きながら、片手で冷凍庫から一食分のポテトフライの袋を取り出して、籠に開けてフライヤーに掛けた。
「すげー。ちゃんとああ言う用意してあるんだ」と、絡み上戸が店主の手際の良さを褒めていた。




