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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集8
334/433

タイガとシノンのから騒ぎ~シチューパーティーに行こう 2~

 男共が集まってパーティーをするとなると、どうしても蛋白質ばかり食べてしまう。ごった煮会(シチューパーティー)も例外ではない。

「おたまですくった物は必ず食べる事」と言うルールが設けられているが、野菜を皿の中に残したままお代わりを盛る奴もいる。

 そう言う奴等の皿に残った野菜達は、会の締めのほうで「苦い」とか「不味い」とか「これ何?」とか言われながら、不満げに食されることになる。

 シノンも、割と皿に野菜を残すほうだ。一度、「シュンギク」と言う苦い野菜の塊を皿一杯にすくってしまい、泣く泣く会の始めにそれを食べる羽目になった。

 その時は、ミルクシチューではなく、ビーフシチューの回だったのだが、ドミグラスソースの味に負けない苦味を放つ野菜は、非常に美味しくなかった。

「ものすごくビタミンありそう」と、深緑の葉っぱを噛みながら述べておいた。彼の性格上、どんな飯でも「不味い」とは言いたくなかったのだ。

 シノン本人も、折角面白いパーティーに参加しているのだから、出来れば美味いものが食いたいし、他の参加者達にも、「これうめぇ」と言ってがっついてもらえる食材を提供したいと思っている。

 なので、ごった煮会(シチューパーティー)に参加するようになってから、古参陣として、高値の豚や牛や鶏の肉を提供している。

 若手達に「うめぇこの肉」と言ってもらえた時は、結構達成感がある。

 だが、人数が居れば、「美味いもの」だけを提供するわけではない奴も居る。

 特に、コナーズと言う、たぶんタイガ坊やと同年代の、ごった煮会(シチューパーティー)の主催者の一人は、何時も変な食材を持って来て、闇鍋パーティーを作り上げる事を楽しんでいる。

 タコ足と言うものを切り刻んで投入した時は、大きな塊にあたってしまった奴が、一生懸命に口をもぐもぐさせながら、「全然噛み切れない」と文句を言っていた。

 さぁて、次回のパーティーでは何を用意しようかな、と、シノンは書類を見つつ、余計な事を考えていた。

 書類に書かれているのは、明識洛(クオリムファルン)国内の強邪気発生地帯が、五ヶ所にまで抑え込まれていると言う情報だ。ほんの五年前までは、これが八ヶ所から七ヶ所存在したのに、だ。

 ここ最近の動きとしては、軍が清掃局と連携して働くようになった事と、ガルム・セリスティアの操縦する「アンナイト」と言う名の兵器の活動が目覚ましい。

 目覚ましい分、ガルムは偵察兵として以外も常々能力を酷使されており、アンナイトの操縦中に意識を失う事も珍しくない。

 アンちゃんの一家って、苦労するタイプなのかもな。

 そう思ってみると、古参兵としてはガルムに「精のつくもの」を食べさせてあげたい。

 なのに、あの少年とも言える年齢の青年は、どうした事かごった煮会(シチューパーティー)では、あまり肉にありつけていない。

 その実情としては、ガルムはおたまで触れただけで鍋の中身が分かるので、肉ばかり拾わないように気を使っているのだ。

 堂々とステーキハウスとかに誘っても良いんだけどなぁ……と、シノンは考える。しかしだが、古参の兵士が若い兵士にちょっかいを出すことをよく思わない奴もいる。

 それに、ガルムは男の目から見ても、どっちかと言うと「可愛らしい」。骨格が男性の形なので、そんなに「儚げ」ではないが、肩を覆う服を着たりして誤魔化せば、素顔のまま女形にも成れそうだ。

 そんな「可愛らしい」後輩を、特別扱いしたりして、俺がいじめられないとも限らないしなぁ、とシノンは保身を考える。

 あの少年も外見だけで考えれば、兵士になんてならなくても良かっただろうに。魔導科に通う予定だったらしいし、どこの会社を受けても気に入られただろうな。

 シノンは書類から目を上げて、時計を確認した。そろそろ、諜報部隊の集会時間が近づいている。

 書類の他に、非合法な魔獣の取引現場の様子を押さえた記録用水晶を持って、シノンは会議室に向かった。


 適当な日に休暇を申請しておいたら、タイガの休暇と被った。おまけに、どちらも用事があるわけではない。そうなると、「飲みにでも行くか?」と言う話になる。

 タイガは好い塩梅に辛党なので、飲みの誘いを断ったりはしない。

 シノンは下戸なので、リキュールを飲む人間と遊びに行くときは、何時もノンアルコールを飲んでいる。だが、リキュールを飲んでる奴よりハイな時もある。

 基地の近くにある繁華街で、美味いリキュールとノンアルコールカクテルを静かに飲める店がある。

 初老のマスターが、優雅にカクテルを作ってくれて、間接照明と暗めの明かりが燈っているだけの、気の利いたバーだ。

 昼間のシノンを知ってる奴だったら、大声で騒げないようなクラシックなバーに出入りしてるなんて想像しないだろう。

 シノンは「歩くサイレン」と言う二つ名……(もとい)、諜報員としては蔑称を持っているくらいだからだ。

 ノンアルコールカクテルを頼んでから、シノンは後輩に話しかける。「で、坊やとしては最近どうよ?」と。

 タイガは、何時もの坊や呼びを笑顔で受け流しながら、「そうですねぇ……」と話し始めた。


 それはアヤメから聞いたと言う伝聞の話だった。マダム・オズワルドから、ガルムを見守る会に引き込まれたので、これから頻繁に貸し出し厨房に行く事になるだろうと。

 それを聞いて、シノンは声を抑えて笑った。

「美少年はモテるねぇ」と、サーブされたコップを受け取って、甘いレモンジュースを炭酸水で割った物を口にする。

「タイガ坊やの体験としては、あのくらいの年頃って、どんなこと考えてた?」

「仕事の事ですね」と、タイガは面白みのない返事を返す。「まだ、世間で成人年齢が下がってからそんなに経ってませんでしたから。真面目な大人になろうと思って、だいぶ背伸びはしてました」

「ジョブワームだもんな、お前」と、シノンは上機嫌で言う。「なんかさ、放っておけない気分にさせる奴って、居るじゃん」

「どんな人ですか?」と、タイガもサーブされたコップを受け取って、ジンをベースにした塩味のあるリキュールを口にする。

「いやいやいや、彼の入社時は、お前も気にしてただろ? その……ガルム君をさ」

「まぁ、色々世話は看なきゃならなかったですね。結構訳アリな少年だったので」

「あの職場で訳アリじゃない奴なんて一握りだよ」

「シノンさんは、ガルム君が気になるんですか?」

「なるよ。真っ当な人生を歩んでほしいと言う意味でね」

「真っ当な人生かぁ……。そう言えば、ルイザさんに申し込み(プロポーズ)はしたんですか?」

「うーん。数々の男共が恋に散る姿は確認した」

「と言う事は、まだなんですね?」

「無理矢理申し込んで、女王様にフラれない事が、一番身近に置いてもらえる要素だって分かっちゃったのよ」

「尽くす愛は大変ですね」

「尽くすって言うか、俺の中にある愛情を捧げまくってる」と、シノンは言い切る。「だけど、何一つ真面目に受け取ってもらえない。俺ってそう言う星の下に生まれたのかも」

「お察しします」と、ハートブレイクを繰り返して居る先輩に、タイガは優しく声をかけた。

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