表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集8
333/433

タイガとシノンのから騒ぎ~シチューパーティーに行こう 1~

 十六の頃に、通信兵兼補助術師としてハウンドエッジ基地に所属し、「坊や」と呼ばれ続けて早五年。タイガは、昔の法律でも成人年齢にあたる二十一歳になった。

 しかし、今だに現役を退かない古参の兵士達には、相変わらず「タイガ坊や」と呼ばれている。

 タイガ本人も、ニックネームみたいなものだと解釈しているので、坊やと呼ばれて怒ったりはしない。

 最近のタイガの心配事は、部隊は違うが彼の後輩にあたる兵士の……安全に関する事である。

 その後輩の兵士は「ガルム」と言う名前で、タイガが色々と偽装工作をして入隊させた。主に、ガルムが朱緋眼保有者である事を隠している。

 ガルムは割とタイガに気を許しているらしく、自分達の同僚を集めて開催しているごった煮会(シチューパーティー)への参加を許可してくれたりする。

 ガルムは今年で十七になる。入隊して二年目だ。

 若いと言うだけで「その気のある奴」には狙われやすいのだが、ガルムは兵士としては不幸な事に、中性的な整った顔立ちで、明識洛(クオリムファルン)の男性としては身長が低い。

 最新の身体測定では、百六十八センチを記録している。それから全く身長が伸びていない。

 ごった煮会(シチューパーティー)でも、百六十センチ台で成長期が止まってしまったことを、嘆いていた。

 タイガが「小柄な分、体を支える筋肉は使いやすいだろ?」と、励ますと、「まぁ……。そう思えば良いんでしょうかね」と、納得したようなしていないような言葉を呟いていた。


 偵察兵は、四肢を使って物音を立てないように移動する事が多い。訓練所でも、偵察兵専用のトレーニング機がある。

 ボルダリングの壁の天井の先に存在する、大小さまざまな太さがあるアームだ。それにつかまって、無音のまま空中移動する訓練が毎回行われる。

 どんな隊より体を鍛える事を望まれるので、偵察兵達は、大概の場合、とても筋肉質である。

 ガルムも、軍服を着ていると低身長で小柄に見えるが、ちょっとでも腕をめくったりすると、両腕や両脚には、引き締まった太い筋肉の束が存在する。

 その筋肉は移動だけではなく、重い物を運んだり、俊足で音もなく走ったり、武器を持っていない時の素手での攻撃にも使われる。

 短く表現すると、偵察兵と言う連中は一般兵より「身体能力が高い」のだ。

 しかし、彼等がどれだけ鍛えているかを知っている奴等でも、調子に乗ったり、酔っ払って前後不覚になってたりすると、猛獣の檻に自ら飛び込もうとする。

 偵察兵の青年達に対して、外部の奴が肩に触れる以外のスキンシップを求めてしまったりすると、数日間視力が落ちるか、瞼が腫れて目が見えなくなるくらいの鉄拳制裁を受ける。

 耳の中に力いっぱい親指をぶち込まれて、数日間頭痛を伴う難聴になったり、人中を殴られて前歯が欠けた奴もいる。

 そんなわけで、偵察兵達に、「若くて手が出しやすそうだから」と言う理由でモーションをかけたりすると、しばらく仕事が出来なくなるダメージを負うのだ。

 それなのに、ガルム個人に対する痴漢は中々無くならない。

 彼が他の偵察兵と同じく、物酷く静かで狂暴である事を知らない、別の部隊の「その気のある奴」とかが、四六時中ちょっかいを出す隙を狙っている。

 その事についても、ごった煮会(シチューパーティー)の時に相談された。

「姿形で威嚇出来たら良いんですけどね……」と、誰かが鍋の中に投じた「ハルサメ」と言う透明なヌードルの様な物を噛みながら、ガルムは愚痴っていた。

 タイガはガルムの容貌をよく見てから、「前髪を短くしてみるのはどう?」とアドバイスした。

 ガルムの髪は白いので、ちょっと長くなっても本人も周りもよく分からない。なので、時々、顔だけ見たら、短髪の女性兵士みたいに見えることがある。

「短い状態を維持するのが難しんですよね」と、ガルムは述べてから、「ワックスで固めれば良いんですかね?」と聞いてくる。

「それでも良いと思うよ。唯……」と言いながら、タイガは周りを見た。

 他の連中は、スルメイカを咀嚼するのに苦戦して、夫々文句を言い合っている。

 それを確認してから、「シャワーの時に、前髪が長いのがバレないようにしたほうが良いよ」と、囁き声で忠告した。


 忠告はしたが、結局頭を洗う時に伸びた前髪が下りてきて、髪を拭く間、ルームメイトでもあり同僚であるノックスと言う青年に、「よぉ。ミスターセクシー」と揶揄われたと言う。

 それ以来、ガルムはワックスを使うのを諦め、不自然ではない程度に髪を短くするようになった。

 第一発見者が親切な奴で良かったね……と、タイガは思ってしまった。


 タイガはついでに思い出す。自分が新兵だった頃、シノンと言う諜報部隊兼補助術師の先輩から、「タイガ坊や。シャワールームは一人で入るなよ」と、普段に無く真面目な声で注意されたことを。

 現在では、百八十五センチと言う、安定した身長を得たタイガであるが、十六歳当時はまだ成長期の途中で、身長も百六十センチ台だった。

 おまけに太い筋肉がつきにくい体質だったらしく、いくら鍛えても体の線が細くて、魔力風に押されて体が吹き飛んだこともある。身体操作は慣れていたので、吹き飛ばされても足から着地する事は出来たが。

 なんだか、その当時の自分と、ガルムの様子がオーバーラップしてしまうのだ。

 タイガが周りの奴等に変な事をされないまま、男らしい顔つきと体つきになるまで無事に成長できたのは、主に善意的な先輩や同僚達の存在に因る。

 シノンの他に、ウィードと言う名の一般兵も、度々タイガの事を気にしてくれた。

 ウィードのほうが年上だが、彼はタイガと同期に入隊したので、彼等は今でもタメ口でやり取りをする仲だ。

 そのウィードは、去年、軍を去った。家業を継ぐことにしたのだと言う。同時に妻を娶った。その女性のお腹には、現在子供がいるそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ