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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第八章~何時か聞いた君の~
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25.思っても見ない

 開発者達は、納得している者も納得していない者も、新しいタイプの「弾丸」の製造に(いそ)しんでいる。

 聞かされた話は、退屈なものだった。

 二年後に、他の銀河系団からの、決して友好的ではない来訪者が来て、世界が滅びそうになると言う事だ。

 つまり、テラを侵略する宇宙人が襲来すると言う事である。

 それを聞いたとき、何人かの開発者は思わず吹き出していた。

 情報は陳腐なものだが、その知らせを受けてから「弾丸」に込めるための術の変更が求められた。

 求められたのは、国家に飼われている「朱緋眼保有者」が使えるものと同じレベルの、強力な浄化エネルギーだ。

 一つ一つの弾丸に、生きた爆弾と言われる彼等と同じ、高出力のエネルギーを詰める。

 爆発力であれば、増幅エネルギーを圧縮して詰めたほうが効率的なのだが、何故か「宇宙人」達には浄化エネルギーのほうが効果があるとされている。

 もちろん、遥か彼方の銀河星団……と成れば、もう宇宙人達はこの星をめがけて出発しているのだろう。

 開発者達に望まれた方法としては、この星を戦場にしないことが条件づけられている。

 そうなると、迎撃部隊も宇宙空間に行かなければならない。

 しかし、この星ではまだ宇宙空間で人間が生きられる技術は開発されていない。

 その部分がどうなるのかは、何故か「極秘情報」とされており、開発者達は唯ひたすら、せっせと弾丸の製造に労力を割いた。


 やがて、浄化エネルギーの「爆発のさせ方」が分かってきた。

 最初は浄化エネルギーを弾丸の中に飽和させることで爆発力を出していたが、内蔵した浄化エネルギーを増幅エネルギーで補う事で、「爆弾のような炸裂をする浄化エネルギー」と言うものが作られた。

 東の大陸で「弾丸」を製造するようになってから、早半年が経とうとしている。

 季節は冬に差し掛かり、極寒の地である邦零大洛(ソルアーニム)では、保温のための術を使い、室内でも厚着をするようになった。

 裏起毛の上着を脱げるのは、開発施設の中でも「防寒」の術が効いている場所だけである。


 学業を卒業してから新人開発者として「弾丸」作りに参加していた人物がいる。

 ニーム・アルドレッドと呼ばれている、本名なのか偽名なのか分からない名前の人物だ。褐色の肌をしていて、科学者にしては体格が良い。

 なんでも、西の大陸のユニバーシティで「エネルギー増幅理論」と言うとても分かりやすい名前の研究成果を残し、何故か東の大陸に引っ越してきて、邦零大洛(ソルアーニム)で「弾丸」を作っている。

 彼の「エネルギー増幅理論」を基に「弾丸」の製造は進んでおり、そして恐らく西の大陸でも、彼が残してきた同じ理論を使って、「弾丸」が作られているのだろうとされていた。

 ニームは少し変人で、「防寒」の術の利いていない部屋を好んだ。

 寒い部屋で厚着をして、遠い位置でストーブにあたり、淹れたてのココアやコーヒーを飲むのが好きなのだ。

 その変人は、時々開発者仲間から「母国を裏切っている意識なんてないのかい?」と聞かれる。

 西の大陸の大国を裏切っている気はしないかと言う意味だ。

 ある日、寒い部屋で、ストーブにあたりながら手を温めていた同僚に、やはり「母国を裏切っている気はしないのか」の話をされた。

「別に」と、変人は熱々のココアにマシュマロを浸しながら返す。「今の僕の国籍は邦零大洛(ソルアーニム)だからね。母国って言ったらこっちだよ」と言ってから、適度にふやけたマシュマロを食う。

「何か、向こうで嫌な事でもあったのか?」と、同僚はさらに聞いてくる。

「うん。あった」と、あっさりニームは認める。「すっごく嫌なことがあった。嫌すぎて言いたくない」

「思い出せとは言わないよ」と、もう一人の別の同僚も言う。「だけど、ユニバーシティを卒業するくらいなのに……向こうで仕事は見つからなかったのかい?」

「それって、結局思い出せって言ってるよね」と、ニームは不満を言ってから、「あっちの方じゃ、頭を使わせてくれる仕事が見つからなかったんだよ」と述べ、ココアを啜る。

「研究者になる道は?」と聞かれて、ニームは「閉ざされていた」と返す。

 どうにも要領を得ない話だが、どうやらユニバーシティで後々重要な発明に至る研究をしていても、西の大陸では褐色の肌を持つ者に、あまり「頭脳労働」をさせないらしい。

「人種差別か」と、同僚の一人が言うと、ニームは眉を片方、ピクリと持ち上げた。

 彼の表情が硬くなったのを見て、同僚達は言い当ててしまったことを知った。気まずそうに、咳払いをする。

 ニームは黙ったままカップの中のココアを全部飲み、お代わりを作るために金属のポットを持って、部屋の一角にある水道の蛇口をひねる。

 凍り付かないように水滴を滴らせていたカランから、冷水が流れ出した。


 そんなニームは、度々、睡眠中に夢を見る。毎日同じと言うわけではないが、かなり高い確率で同じ夢を見る。

 白い雲を持った青い星が紺色の空間に浮かんでいる夢だ。その星はとても美しく見えて、こんな星には、きっと素晴らしい生き物がいるに違いないと思わせる。

 その星の夢を見た朝は、今日はたぶん良い事があるだろうとニームは思っていた。

 その夢が、未来の方角から飛んできている、ある種のエネルギーに因るものなのだとは、ニームは考えない。

 西の大陸の一部と、東の大陸には「魔術」と言うものがあり、電気文化圏を除いては、当たり前のように「魔術」が使われている。

 が、ニームは実用的な部分でしか魔術を信じていなかった。

 外部の寒さや熱を遮断して、小さな暖房で部屋を暖めたり、マッチを持っていなかったときに指先から火を熾したり、水晶版を通して遠くの誰かとやり取りをしたりすると言う、便利な使い方以外は。

 だから、西の大陸で『邪気と呼ばれるエネルギーを変換する事による爆発的なエネルギーの増幅方法』の存在を発見して確立しても、「爆発を起こすだけの使い方」以外は興味がなかった。

 ニームの希望としては、そのエネルギーが圧縮魔力に代わって縮力機関を動かす原動力になり、ロイヤリティが入って来れば良いなと思っていた。

 だが、西の大陸でも東の大陸でも、何故か「開放した時ものすごく大きな爆発を起こす」事だけが注目されて、今現在、「弾丸」を作る事に成ってしまっている。

 中々、思うようには成らないものだ。そう思いながら、ニームは開発に携わり、寒い部屋で暖を取る楽しみを満喫している。

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