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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第八章~何時か聞いた君の~
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5.面影の来た場所

 術的には居るはずがないのだが、細かく調べないわけに行かない。

 ジークは「アンの魔力波が残っている場所」を幾つかピックアップして、それ等の土地の視覚映像を収集していた。

 東の大陸中央の「二重デルタ」の術を使った砂漠での名残、かつてアンが清掃員として仕事をした邪気削除の名残、海峡を挟んだこっちの国で、アンがメリュジーヌと戯れていた頃の魔力現象の名残。

 それ等のデータを細かく追って行くうちに、「アンそっくりの人間のようなもの」を見つけた。

 それを発見した時、口に含んでいたガムを思わず飲み込みそうになって、むせた。ガムの包み紙で噛んでいた物を包んでゴミ箱に投げてから、ジークは改めてその映像を観察した。

 白い髪と青い瞳を持っていて、十八歳くらいだった頃のアンとそっくりだ。キッチンで包丁を持って、野菜を刻んでいる。

 幼い少年が背後から声をかけて来て、その女性は包丁の扱いを誤った。刃の先に指を引っ掻けてしまったのだ。だが、その指は切れる事はない。

 包丁が鈍っていると言う様子ではない。石にぶつけたようなカツンと言う鈍い音がして、刃のほうが少し欠けた。

 少年は「大丈夫?」と、女性に声をかける。

 アンとそっくりの女性は、「ベス。大丈夫。大丈夫? 包丁」と聞きながら、刃の先を向けないように少年にキッチンナイフを渡す。

 八歳くらいの少年は、じっくり刃の先を見て、「ちょっと欠けてる」と答える。

 どうやら、このベスと言う女性は、先の「大戦」で登場したアンのレプリカ魔獣、アーニーズの生き残りらしい。


 行方不明になる前のアンの証言では、六体残っていたアーニーズは、アンナイトの魔力感化で意識を乗っ取ってある。魔力感化が活きている内は、マナムと言う少年を保護する意識が働くはずだ、と言う事だ。

 しかし、観察しているうちに、「ベス」は既に魔力感化の影響を受けていないような気がしてきた。

 マナムにべったりになって行動を見守るわけではなく、ベスが一人で行動する時は、マナムを視界に入れていない。魔力感化が影響しているなら、もっと「憑りつかれているような執着」を見せるはずだ。

 術のコントロールが上手く行ってるのか? と思って、ベスの意識構造を読んだ時、ベスが明確に「自分の意思を持っている」事が分かった。

 ジークはしばらく思考してみて、「そっちはそっちで丸く収まっていると言う事だろう」と結論付けた。

 それより、ジークは気になる事がある。アーニーズを作った者が何処にいるかだ。「大戦」の後、サクヤお嬢ちゃんから話を聞いたときは、「それはトップシークレットです」と言われてしまった。

 目的が少しずれるが、調べておこう。

 そう思って、ジークはベスの持っている体組成構造と魔力構造から、根源の発生を追って行った。


 三方を天然の城壁である山々に囲まれ、南側の一方は道もない森林地帯、その間にある僅かに拓けた場所に、石レンガ造りの城がある。

 其処は、「向こう側のエネルギー」によって、ジークの観察網を回避している場所だった。魔力を追う事が出来なかったら、侵入は不可能だっただろう。

 広い山野の中にある、廃墟と化して居た城を「状態回復」で直し、増築を重ねた建物に、魔獣や魔神が出入りしている。

 珍しいものを見るように、ジークはゴーグルに映っている映像を拡大したり縮小したりしながら、外的視点を観察した。

 その土地の中にシャドウを発生されられるかも試してみた。何時も通りに奇抜な恰好をしたシャドウが、隔離されている空間に現れる。

 場を満たしているエネルギーは、シャドウに危害を加えてこない。まだ魔力組成が読み取られていない、新種の力だからだろう。

 そう見当をつけてから、ジークはシャドウを操って城の中を歩いてみる事にした。


 見張りと、「知らないやつが居る」と気づいた者の前からは、瞬間的に姿を消して、別の場所にシャドウを発生させる。そんな事をしていると、城の中が騒がしくなり始めた。

 どうやら、ジークのシャドウを見つけた魔神達の間で、「幽霊が居るのかも知れない」「邪霊ではないのか」と言う話が持ち上がっているらしい。

 状況を何となく面白がりながら廊下を渡ると、広間のような場所が見えて来た。

 其処が「祝杯の間」と呼ばれる、会議や催し物や祝賀会を行なうための広場である事を、ジークは知らない。

 その時も、三つ並んでいる椅子に座り、鹿と人間を混ぜたような女性と、朱緋色の瞳を持った十歳くらいの少女と、見知った顔が話し合いをしていた。

 カーラ・マーヴェルだ、とジークは気づいた。


 物陰に身を潜めながら、聴覚を研ぎ澄ませてみると、彼女達は「向こう側のエネルギー」の有効な使い方を相談しているらしい。

 主に、人間に害を与えないエネルギーに変換する方法だ。

「浄化とは、別種のエネルギーにしたいの。削除エネルギーにまで変換してしまうと、私達には強すぎる」と、少女の声が訴える。

「うん。人間にも無害だけど、魔獣や魔神達にも影響を与えない力……って事だよね?」と、カーラが確認する。

「そうなりますね」

 そう大人の女性の声がした。恐らく、鹿と人間を混ぜてあるような、あの魔神の声だろう。

「私達も、難しい注文をしている事は分かっています。ですが、あなた達は、もう、その力の使い方を開発しているようですね。其処に隠れている誰かのように」

 そう言われて、カーラが「え?」と聞き返す。

 これはまずいなぁ、と、ジークは思った。

 不信者扱いされたまま消えたら、次は侵入出来ないかも知れない。

 出来るだけの誠意を見せるために、両手を上に上げ、武器を持っていない事を示し、ジークは物陰から広間のほうに歩を進めた。

「内緒話を聞いてしまったことは謝る」と言いながら、ジークのシャドウは苦笑いを浮かべる。「だから、もうちょっと、ゆっくり見物させてくれにゃいかにぇ?」

 誰より先に、女性の声の魔神が返事を返した。「私達も、貴方に消えてもらっては困ります。こんなに優秀なサンプルにすぐ出会えるなんて、思って居ませんでしたから」

 これは、俺も研究材料にされるのかな? と、ジークはちょっと考えて、「まぁ、それで良いにょで」と返した。

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