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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集7
299/433

物語を送ろう~ガルムの所へ 2~

 それまでの経緯と、身の潔白さを述べたガルムの言葉により、コナーズは自分が瞬間的に抱いた印象についてを頭の中で改めた。

「アンねーちゃんのおとぎ話から、ノックスの身の上になって、云々と」

 そう呟くと、「云々で済ませないでくれ。笑かされてただけなんだ」と、ガルムは一番誤解を招きそうな所を強調する。

 コナーズは「分かったよ」と言いながら首の後ろを掻いてみせ、「しかし、そのおとぎ話はねぇ……」と語り始める。

 流転の泉と言われる情報は、上官や国家規模の役職を持った者達の間で、トップシークレットとされており、例えおとぎ話としても、あまり他人に言いふらさないほうが良いと。

 それから、「アンねーちゃんの近況は?」と聞いてくる。

「意識が戻って、元気に暮らしてる」とだけ、ガルムは答えた。

「その実、ノックスをアンねーちゃんに紹介する気はある?」と、コナーズ。

「無い」と即答すると、「なーんーでー?」と、ノックスから野次が飛ぶ。

「だって、自分のばーちゃんに胸があるかとか見てる奴だよ?」と、ガルムは文句を言う。「そんな奴を兄とは呼びたくない」

「ああ。あの二百歳のばーちゃんね」と、コナーズも訳知り顔だ。「じゃぁ、俺も面白い話をしてやろう」

 そう言って始まったのは、ある英雄の冒険譚だった。


 ずーっとずっと昔の事です。ある所に、剣と魔法を修めた流浪の者が居りました。その者は、異国の姫を悪龍の群れから守り、栄誉を称えられて、姫を守る騎士として王家に仕える事に成りました。

 しかし、それをよく思わない者の手で、英雄は汚名を着せられました。悪龍を操っていた者こそが、その英雄であると言う言いがかりです。

 英雄はその疑いを晴らそうとしましたが、汚名を着せようとする者達は既に根回しをしており、悪龍に囚われていた姫でさえ英雄を罵りました。

 自分をさらった悪龍は、英雄が操っていたのだと言い聞かせられた姫は、唯の流浪の者が、自分の身の周りで騎士として仕えるなどと言う事が許せなかったのです。

 だからこそ、英雄を厭う理由が出来た時、大喜びでその話を信じました。

 皆で口裏を合わせて英雄を追い詰め、断罪の場に引き出させようと目論みました。

 しかし、英雄は牢に閉じ込められる前に、魔法を使って異なる世界に姿をくらましました。そして、姫を助けるために封印した悪龍の魂を、自分の来た世界に呼び戻しました。

 悪龍は、今度こそ、姫を血の贄にして、自分達にかかっていた呪いを解きました。悪龍達は、英雄を貶めようとした王国の者達が、ずっと昔に滅ぼしたはずの魔導の国の生き残りだったのです。

 王国は、英雄と魔導の国の者達によって滅ぼされました。

 魔導の国の者達は、約束を守った英雄を、魔導の国の英雄として迎え入れ、龍の姿から元に戻った、長の娘と婚姻を結ばせました。

 二人の間に出来た多数の子供は、魔導の国の長の血筋を継ぐほかに、旅に出て各地で血を継ぎました。

 その魔導の国の血筋の一つを受け継いでいるのが、我々「フィエル」の名を継ぐ者達なのです。


 そう話し終えたコナーズは、面白そうにニヤついている。

 話を聞いていたガルムとノックは、まだ話は続くんだろう? と言う風に、次の言葉を待っている。しかし、コナーズはニタニタしたまま話を続けない。

「そこで終わりかい」と、ノックスがツッコミを入れた。「結局、その『フィエル』って誰よ?」

「俺の家の……曾祖父くらいまでが、受け継いでた名前」と、コナーズ。「なんにしろ、浮世では混血が加速してるだろ? フィエルの名前を冠せたのは、俺のひいじいちゃんまでって事だ。

 なんか、血筋の中に女しか生まれなかった時期もあって、娘達をどんどん嫁に出したのに、家を継がせるはずの長子の娘が病でぽっくり……って事もあったらしくて、『フィエル家』は断絶したんだ」

「へー」と、ガルムは薄い反応をする。だが、「自分の家の伝説を、ちゃんと伝えてるってすごいじゃん」と、褒めた。

「まぁ、眠る前に必ず聞かされる、呪いみたいな話だったけどな」と言って、コナーズはハハッと軽く笑う。

 それから、「で、俺にも僅かばかりか、その英雄と魔導の血が流れてるんで、魔術が使えるってわけ」と続けた。

 それを聞いて、ノックスは自慢の黒髪をバリバリ掻く。「俺も、ばーちゃんの血が流れてればな……」とぼやきながら。

「え? あの二百歳のばーちゃんって、ノックスの血縁じゃないの?」と、ガルムは言い出す。

「いや、血縁だけど、俺の直系のばーちゃんは、二百歳のばーちゃんの妹らしいんだよね。ほら、二百歳のほうは、十五歳の時点から老化もしてないけど、成長もしてないわけで」

 ノックスは言いにくい部分の言葉を濁す。

「で、そのばーちゃんの妹だったかは、二百歳のばーちゃんほどの能力がなかったんで、子供を残す役目を任されて、普通の人間と結婚して行って、その末裔が俺とその兄弟って事」

「だから判定Cなのか」と、コナーズは言う。「新聞に載るほど有名な魔女の家の血筋なのに、何故? って思ってた」

 それを聞いて、ガルムは今まで興味がなかったルームメイトの魔力値判定が、「Cレベル」である事を知った。

 魔力は持っているが、それをコントロールできず、術師としては使い物にならないのが「Cレベル」である。

「それでもって」と、コナーズが言い出す。「ガルム。この順番だと、次はお前が、お前のお話をする番なんだけど?」

 ガルムは言葉に詰まった。何を言おうか考えて、「そんな順番を期待されても、面白い話はないって」と述べた。

「今まで聞いた感じだと、アンねーちゃんとは別パターンの過去を持ってそうな感じだったけどな?」と、ノックスは余計な事を言う。「アンねーちゃんと一緒に暮らす前は、どんな人生だったんだよ」

 ガルムとしては、孤児院時代の「雑言と罵声と体罰の日々」は、黒歴史である。

 さぁ、どう誤魔化そうと考えて……考えた結果、誤魔化す言葉は思いつかなかった。

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