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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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26.片隅に眠るもの

 フィンさん達の大騒動から、二年後の事になる。まだアプロネア神殿で療養中だった、アンさんのお見舞いに行って来た。そこで、彼女から話を聞く事が出来た。その時の話の内容を書いておこう。


 恐らく、アンさんの霊体が意識を失ってからの事だ。

 眠っている時に見る夢の中を漂っているような気分で、アンさんはぼんやりと流動の中を漂っていた。

 ――やぁ、久しぶりだね。

 其処に存在する者が、声をかけてくる。

 ――僕の事は覚えている?

 存在する者は、空間と溶けあっていた姿から、人間に近い形を取った。フード付きのローブを着た、鱗の皮膚を持つ人物の姿に。

 アンさんはぼんやりしながら、言葉を返した。

 ――綺麗だね。

 その存在は、期待通りの言葉を得られたと言う風に答えた。

 ――ありがとう。さて、君にはまだ案内人(ガイド)が必要なようだ。

 ――この空間の事は覚えてる。

 ――うん。だけど、それ以外にも、知るべきことはあるんだよ。ほら、まず、見てごらん。

 案内人はそう言って、空間の一方を指差した。


 幾重もの銀河の束を集めている「流転の泉」へ向かって、青白い炎を上げながら、球状の空間が飛んで行く。炎が上がっているのは、近くの恒星のエネルギー風を受けるからだ。

 アンさんは聞いた。

 ――あれが、方舟?

 ――そうだね。方舟と言えばそうだ。泉に着いた後で、彼等が蘇生できるかどうかは分からないけど。別の言い方をすると、蘇生をさせてくれる仲間思いの奴が居れば、生き延びる事もあるだろうけど。

 ――流転の泉からは、まだ来訪者が来るの?

 ――かも知れないよ。この星に「流転の泉が変われる要素がある」って、知られたらね。

 ――方舟が、流転の泉に着くのは何時?

 ――君は、もう少し休むことを考えたほうが良い。

 そう優しく諭されて、アンさんは少し考えた。

 確かに、自分は今、次に争いの種が来るのは何時かなぁなんて、考えてたな、と。

 そこで、案内人の言葉に同意した。

 ――そうだね。

 案内人は、流転の泉とは別の方向を指差す。

 ――今度は、こっちを見てごらん。

 そう言って指差された方向に、大陸中央部の砂漠で剣を振るっている、神気体の様子が見えた。


 その空間で観た、タイプスリーとガルムさんの戦いは、中々にグロテスクだったとアンさんは語った。

 ガルムさんに聞いた分も混ぜて、当時の様子を再現記録してみよう。


 ガルムさんが何度真空の刃で切り付け、体の一部を欠損させても、タイプスリーの体のパーツは、本体と近づくと、不格好ながらに融合してみせる。

 切り刻まれた指の形がガタガタになった手で、タイプスリーは神気体を掴もうとした。その手つきは、もう赤ん坊の動作ではなく、蚊を叩くときの人間のように素早かった。

 その手をすり抜けながら、ガルムさんは真空波による攻撃を続け、アンナイトに計算をさせていた。

 神気体が空中の高い所に飛翔すると、タイプスリーは後脚で立って、素早く両手を振るってくる。ガルムさんは、その額にめがけて刃を振り下ろした。

 タイプスリーの額に出来た傷から、水が滴ってくる。アンさんが打ち込んだ水の弾丸が、タイプスリーの体に残ってたんだ。

「目標を確認。回収する」とアンナイトの声が響いて、ガルムさんの背中に生えてる翼から神気が放たれた。

 水の弾丸から得られた「水」の魔力が、神気で作られた剣に追加される。神気の白刃は、滑らかで頑丈な物質的刃を得た。

 ガルムさんは、真空波ではなく、その刃でタイプスリーの胸から腹部を切った。大きく、岩石質の腹が切り開かれ、マグマ状の内部が見えた。

 その内部が外へ零れ出て来るのを察して、ガルムさんはタイプスリーの体と距離を取った。

 離れて見てみると、胸と腹の間に位置する場所に、魔力のコアがあるのが見えた。

「アンナイト!」と、ガルムさんは、剣を持っていないほうの片手をタイプスリーのコアに向けて、合図を出した。

 神気体の翼が素早く反応し、ガルムさんの神気体から「削除エネルギー」が放たれる。

 衝撃を受けたタイプスリーは、砂の地面に尻もちをつき、座り込んだ。両手を忙しなく動かして、エネルギーを防ごうとする。削除エネルギーの波を手に受けても、手腕を失っただけだった。

 タイプスリーは口から「変質した溶岩の様なもの」を吐き出し始めた。内部の機能を壊そうとしているエネルギーを、体の外に逃がそうとしている。

 ガルムさんは頭の上から泡立った岩みたいなものが降ってきて、数十メートル飛び退いた。だけど、削除エネルギーを発するのは止めなかった。

 そうしてるうちに、タイプスリーは身体の中身を全部吐き出しきって、動かなくなった。

 ガルムさんとアンナイトは、タイプスリーの胸と腹に開いた傷から、体の中に侵入した。そして、全力を込めた神気の剣で、まだ生命活動を続けようとするコアを、貫いた。

 その後、タイプスリーは身体が砂に変わって砕けた。力を使い果たした剣ごと。

 塵に還った魔獣と、一振りの奇跡の剣は、今でも、あの砂漠の中に紛れて眠ってる。

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