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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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20.最後の手紙

 親愛なる、ササヤとサクヤ。

 私の可愛い二人の娘。この文章が、君達に遺せる私の意思の最後になるだろう。安心してくれ。これを綴っているのは、屋敷の結界の中だ。

 君達にも伝えていなかったが、この屋敷では守護と隔離の術が、常に働いているんだ。ササヤがこの屋敷に来てから、「世界の隙間」に導かれなくなったのは、その術の影響だろう。

 君達がこの文章を読む時には、私は既に命を絶っている。そうしなければならない理由は、私の亡骸を見ればわかるだろう。

 五十年以上、この星の歴史と、君達のような「誰にでも見える幻覚としての双子」を持つ者達を見て来て思うのは、その片割れが目の前から消える事で、後の人生に絶望してしまう子供達が、現れるのではと言う憂慮だ。

 それが杞憂である事を願うよ。片割れは、居なくなるわけではない。本来の自分の中に戻るだけなんだ。

 だから、その試練を乗り越えた君達は、一人の少女として生きているだろう。だけど、私はあえて、君達を二人だと思いながら、この言葉を伝えたい。


 彼女の事を知ったのは、ずいぶん昔だ。明識洛の清掃局で働いている、「とても優秀な新人局員」としてだ。彼女は、当時十歳だった。

 十歳の少女が、その頃から始まっていた「明識洛での異常事態」を次々に終息させていると聞いて、私と情報屋の仲間達は彼女に興味を持った。

 特に、福祉シティを襲った胚種病を、「十歳の少女が単身の能力で封じ込めた」と言う話題は、私達を熱狂させた。

 実際には、彼女はひどく辛い決断をするしかなかったんだ。

 福祉シティを術で隔離して、其処の中で死んだ者も、生き残っていた者も、ほとんど全ての生命を火炎で焼きつくした。

 その後、隔離の術の内部を浄化して、邪気として放たれるはずだった霊的なエネルギーを消し去った。彼女が行なったのは、そう言った、執行人としての仕事だった。

 その事件と、その処置に関して彼女を責めることはできない。

 本来は、国や軍が成すべき事態の収束を、一人の少女が成し得てしまったと言うだけなんだ。

 汚名を着るのが、国か個人かの違いだけだ。そう言う、自分の名を汚す仕事を、彼女はずっと続けていた。

 国に飼われる朱緋色の瞳を持つ者として、国が着るべき汚名を肩代わりしていたんだ。

 私が、彼女に対して弁護できるのは、そんな所だ。


 彼女の事を知り、調べて行くうちに、明識洛での異常の増加が目に付くようになった。そして、異常の周りには、必ず彼女が居た。

 誰かが意図的にそうしたのか、それとも、彼女自身が異常を片づけるのに適任だったから、その場に配備されたのかは、当初、判断が難しかった。

 だけれど、アーヴィング領の鉱山を襲った事件を耳にした時、私は確信した。

 誰かが、この少女を「天地創造」を邪魔する悪役として育てていたのだと。しかし、彼女の力は、最後にねじ伏せられる悪役には留まらなかった。

 彼女は、全ての汚名を着て殺されるだけのたった一匹の人間ではなく、友人も、仲間も、家族も持っていたからね。

 その友人と仲間と家族は、皆、彼女を助ける事を選んだ。彼女には、そうだな……人徳って言うものだがあったんだ。

 心を殺せと教育されていても、彼女の心は死ななかった。彼女は「愛情」と言うものの形を知っている。

 きっと、彼女はたくさんの思いやりを、心に秘めていたのだろうね。それがもし、彼女の意識の中に現れるようになった、「町」の存在に因るものだったら、彼等も、きっと救われるだろう。

 強大な魔力の放出で壊滅した町の中から集まり、彼女に呪いと言える朱緋色の瞳を与えた者達だ。彼等は、事故のあった時は、彼女を恨んでいたのかもしれない。

 子供としての防衛本能か、もしくは、彼女の秘めていた心に根差したものなのか。彼女は意識の中に町を作った。

 唯の贄として消費されるはずの、彼等の存在と人格を認めて、死した者達が其処で人間として生きて行けるように。

 彼等はどうやら、その住まいをひどく気に入っていたらしい。


 何故、最後の手紙で、彼女の事を長々綴ったのかを説明させておくれ。

 彼女には、これからも助けが必要だろう。後に残る事になる君達には、その仕事を任せたいんだ。彼女と、彼女に関わる事になった者達が、良き方向に生きて行くための仕事をね。

 特に、ササヤ。君は、随分と彼女に執心していただろう。その気持ちは、大切にしなさい。あまり纏わりついてもいけないけど、自分をすっかり信頼してくれる本当の友達を得た事が分かるだろう。

 私は、君達に話しかける形で、彼女と言う人物が、信頼するに能う存在だと説いているつもりなんだが、その点は伝わって居るかな?


 私が君達をこの国に連れて来たのは、第二期衝突期を起こすための儀式としての意味合いと、もう一つある。

 君達が、私が受け継いだ研究を、更に受け継いでくれる能力を持った、利発な子だと思ったからさ。私が居なくなった後に、世界を選択する能力が、君達にはある。

 君達の決断は、誰に操られるものでもない。自分が信じた通りに、成すべきことを成しなさい。

 その意志の力を、失わないように。

 そして最後に一言。私を父と呼んでくれて、センドの名を継いでくれて、とても嬉しかった。ありがとう。そして、さようなら。

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