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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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18.長い夜

 異界の入り口が見分けられなくなる深夜、疲労感を覚えたマコトは、飛翔途中で見つけた無人の社に身を隠した。

 社の内部は一定の広さと、奥の間があり、格子に成っている扉の柵を覗くと、ご神体である銅鏡が祀られていた。

 ご神体を覗く事は、神様への不敬だったっけ。

 マコトはそう思って、ちらりと確認してしまった銅鏡から目をそらし、木造りの社の壁に寄り掛かって、鞘に納まっている太刀を傍らに、体を休めた。

 倭仁洛(ヤハトルーア)の各地には、空間に皹が入っているような「異界の入り口」が存在した。誰かがこじ開けたと言うより、何かの力の負荷で空間が裂けていると言う様子だった。

 恐らく、大地の赤子を摘出するための陣の影響だろう、と、マコトは見当をつけた。もう、術が完成してから丸一日は経過している。赤子の摘出は終わっているかも知れない。

 空間に負荷をかけたまま、術を解かない理由は?

 そう思い浮かべてみて、イズモ先生からの情報が無いと、それは分からないなと溜息を吐いた。

 ヤイロに出会う事が出来、ヤイロから詳しい情報を与えてもらったが、マコトは倭仁洛(ヤハトルーア)に来てから、一度もイズモからの通信を受けていない。

 儀式の間は時間が無かったけど、術が発動してからも、何か手のかかる事が起こってるのかな。

 マコトは考え事をしながら、立てた膝に両手を置いて顔をうずめるように目を閉じ、眠ろうと努力した。だが、何処かでコトコトと言う音が鳴っているのに気付いて、ぼんやりと目を開け、顔を上げた。

 不思議な歌が聞こえる。

「双子の影には片方無いの。どうして体が消えてかないの? 随分長くを走っているのに。どうした事か真っ当な様」

 コトコトと言う音は、段々近づいてくる。それは警戒心を抱かせる音ではない。木造りの自動細工が、歯車を鳴らしているような音だ。

 音は遂に、マコトの隠れている社を包み込んだ。

 マコトは其処に存在する何かに、頭の中で問いかけた。

 ――この空間は、何?

 すると、其処に存在する者は答えた。

 ――世界の隙間。初めましてだね、マコト・ロータス。

 ――あなたは誰?

 ――案内人(ガイド)だよ。初めて此処に来る影達を、道案内する役目を持ってる。まず、見てごらん。

 そう言われて、マコトは案内人の示す空間を見つめた。

 星の集まりが、何かに吸い込まれるように闇の中央に向けて集まり、光る雲の渦のようなものを作り出している。

 マコトは思った。

 ――これ、見たことある。

 ――だろうね。君達みたいな、双子の影達は、誰でも一度はこれを見ている。

 そう言う案内人は、いつの間にかマコトの目の前に居た。片手を足元の炎に向け、フード付きのローブを着た人間の姿をしているが、布から露出している手と首と頬は、鱗の様なもので覆われている。

 マコトは聞いた。

 ――あなたが案内人?

 鱗の皮膚を持つ者は答える。

 ――そう。君達と近い形を作ってみたけど、どうかな?

 ――なんで皮膚に鱗が生えてるの?

 ――それは……まぁ、気になるなら人間みたいな皮膚に変えられるけど。

 ――分かった。変えるのが難しいんでしょ? それなら、その皮膚のままで良いよ。蛇の鱗みたいで綺麗。

 ――綺麗か。ずっと前にも言われたな。

 ――誰に?

 ――君達が生まれるより前に、この空間に来た子にさ。あの子は影じゃなかったから、名前は言えないけど、白い髪と青い目の子だった。

 ――その子も、この星の渦を観たの?

 ――うん。頭の良い子でね、見た途端に、あれが「流転の泉」だって気づいたよ。

 ――私は分からなかった。

 ――事前知識が無いから、名前を知らないだけだよ。あの星の渦から、強い力が流れて来るのは分かるだろう?

 ――それは分かる。なんだか、ちょっと怖い力だね。

 ――それはね、流転の泉が毒されているからさ。

 ――誰かが泉に毒を流したの?

 ――正確には、あの泉は生れた時から毒を孕んでいるんだ。だから、泉は変わりたいんだよ。

 ――どうやって変わるの?

 ――綺麗な水を取り込むことでさ。

 その答えを聞いて、マコトはしばらく考え込んだ。目の前で、流転の泉は星の雲を集めながら渦を巻いている。

 マコトはまた質問した。

 ――綺麗な水って、あの渦が取り込んでるの星の事?

 案内人は、深く息を吸うような間をおいてから返事をする。

 ――そうだったら、良かったんだけどね。


 案内人の話は続いた。

「このテラと言う星に存在する生命体は、ずっと昔から観察者に見守られていた。人間が生まれるより、ずっと昔の事だ。その観察者達は、流転の泉の深くから来た者達だった。

 深くから来た者達の一部は、テラの生命体と融合する事を望んだ。彼等が体の中に強い毒素を含んだまま、あらゆる生命と融合した結果、このテラには「魔力」と呼ばれるものが存在するようになった。

 やがて、強いその力を持った者達は、「神」と呼ばれるようになった。生命達と星は、神の起こす現象を受け入れ、神と共生する道を歩んだ。

 今でも現存する古い血を継いだ者の一つが、龍族だ。彼等は神に従う事はない。大地が裂けても、山が火を噴いても、大地に水が溢れても、種族としての孤高を貫いた。

 やがて、人間と言う種が生まれ、彼等の一部も魔力を操るようになった。ヒト族が大地に繫栄して行く間に、「夢を見る者」達が現れた。

 実在する「神」を魔神と罵り、自分達の想像する、もっと崇高で……言ってしまえば、群を維持するために便利な「神」を考え出した。

 その「夢を見る者達」は、数の力と想像力によって、魔神達を世界から何度も負い出そうとした。

 であるが、完全に魔神を滅ぼす事は出来なかった。何せ、魔力と言う毒素は、深くから来た者達の融合した、テラそのものからも放たれているからだ。

 長い時間が流れて行く間に、ヒト族の中で、深くから来た者達の毒素を、別の力に変えられるものが現れるようになった。ある種の突然変異だ。それは、毒素を削除できる特殊な力だった。

 君も操れる、所謂『削除エネルギー』と言うものだよ。双子の影がこの力を持つことは珍しいんだ」

 そこで案内人は言葉を切り、マコトが口元に手を当てて考え込んでいるのを待った。

 やがて、マコトはこう切り出した。

「私が使ってる、邪気を切り払える力が『削除エネルギー』って言うものなの?」

 案内人は言う。

「そうだね。君に注がれている神気が、特殊な力を生み出しているんだ。君の(あるじ)は、だいぶ強い力を君に与えているんだね」

「私の(あるじ)って、マナムの事?」

「その通り。君は、彼の影なんだ。マナムが心を病みそうだったときに生まれた、彼を守るための守護者だよ」

 そう返事をしてから、案内人は告げた。

「そして、影は、光が無くなったら、消える者なんだ。闇に紛れてしまってね」

 マコトは、これから起こるであろう、ある種の未来予測を思った。

 それから、案内人の足元に燈っている炎に目を伏せ、小さく頷いた。

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