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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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17.駆け巡る夜空では

 アンは箒による飛翔、アンナイトは神気体の起こす飛翔現象を使って、「逃げすぎない距離」を保ちながら、巨大赤ん坊エニーズ・タイプスリーと追いかけっこをしている。

 タイプスリーも、岩砂漠の中に居た時は、まだ足元に余裕があったようだが、砂砂漠に差し掛かると移動速度が急に遅くなった。

「砂に足を取られるって、本当にあるんだね」と、アンは飛翔しながら振り返る。

「タイプスリーの総重量に対して、砂の圧を得られる手足の面積が少なすぎます。頭部の重みを支え切れていません」と、アンナイトはアンの後に続きながら解説する。

「うん。よく分かるわ」と言いながら、アンは動きの鈍くなったタイプスリーのほうに向きなおり、箒の上から、身の丈大の火炎球を投げてあげる。

 タイプスリーは本当の赤子のように、手を持ち上げて火炎球にじゃれついた。足のほうの重みが増して、ずるずると砂の中に埋もれて行く。

 守護者からの指示が無くなったタイプスリーは、身の危険を回避するより面白い物の方に興味を示す。

 腰のあたりまで砂に埋もれた所で、体重を支える圧が得られたようだ。そして、タイプスリーは火炎球を捕まえると、それを覚束ない仕草で口に入れ、飲み込んだ。

「ガルムく……じゃなくてアンナイト、火炎球の増幅を」と、アンは指示を出す。

「了解。増幅エネルギー充填。七十五パーセント。九十二パーセント。百パーセント。タイプスリー内部の火炎球を増幅」と、アンナイトは答え、丁度飲み下した火炎球が胃袋に行った辺りで、魔力を増幅した。


 ドォォオオオオオォォーン! と言う、大型の花火が複数炸裂したような音が響く。

 タイプスリーの腹部が一部砕け、外部に魔力を逃がす。赤ん坊は痛みを感じたように泣き叫んだ。その喉からも火柱のような火炎が放出され、それが治まると赤ん坊は泣き止んだ。

 岩石質の体は瞬間的に修復し、タイプスリーの体には損傷を与えられなかった。

「元素系魔術は効かないのかな」

 アンがそう言うと、アンナイトは「火炎によるダメージは得られない事は判明しました」と答える。

「色々試すか」と言って、アンは五つの指に水と風を纏わせて、抉るような弾丸を作った。「発射と同時に増幅を」と、アンナイトに指示を出す。

「了解。増幅エネルギー充填まで、八十七パーセント。九十八パーセント。百パーセント。準備完了」

「では、五連射!」と説明し、アンは水と風の弾丸を指から放った。


 ユニソームは、星空が煌めく下で行われている戦闘活劇を、唯ならない期待を持って眺めている。

 ガルム・セリスティアが戦線を離脱したこの状態で、アン・セリスティアと、何故か形状を保っている神気体が、どのような悪足搔きを見せてくれるのか。その事について唯ならない期待を持っていた。

 あまりの興奮のせいで、ユニソームのゲル状の体はぶよぶよ動き回り、周囲の光の粒子を取り込んで、体中に星が浮いているように光っている。

 少し前に、また彼等のほうの手が取られたばかりなので、何処かで取り返そうと躍起になっているのだ。

 バニアリーモの観察視点によると、リリスはアン・セリスティアの肉体を暗殺する事が出来なかった。

 遠隔から術を込めた弾丸で胸を撃ち抜かれて、死亡すると同時に体が砕けて消えたと言う。

「同胞よ。リリスは『治癒』を知っているはずだろう?」と、バニアリーモがカウサールに確認してきた。「胸に手を当てる動作が見られたのに、治癒をした気配がないんだ」

「生物的な不具合だろう」と、バニアリーモと一緒に、観察視点を見ているカウサールは言う。「心臓を撃ち抜かれた生物は、瞬く間に行動力を失う。リリスには治癒の術を使う余力が無かったのだよ」

「魔神であっても、生物学に囚われるのか?」と、バニアリーモ。「私には、どうにもリリスが『敢えて治癒をしなかった』ように見えてならない。彼女は、倒れる前に踏みとどまる余力はあったのだから」

「人間達の術の精度が上がっていたのかもしれない。亡骸を回収できなかった故、予想でしかないがな」と、カウサールは返す。

 何とも納得が行かないと言う風に、バニアリーモはゲル状の身体から生えている幾つかの目玉を、振り回して見せた。

 それから、カウサールは目玉を水平に九十度回転させて言う。「ユニソーム。あまり光を食うと、酔うぞ」

「実際、良い具合に酔ってきた所だ」と、ユニソームは気分が好いほうの酔い方をしている。「タイプスリーを見くびるなよ、セリスティア!」と、普段は上げないような大声を出す。

 カウサールは、どっちの同胞も頭の疲れる奴等だと思いながら、一時、観察室を離れることにした。


 永劫の者の一名が観察室を離れた事は、見張りの視点からアナン達に知らされた。

 これから魔神達の中で起こるであろう、一連の出来事を頭の中に叩きこんだカーラは、サブターナに手を引かれて「城」の地下に逃げた。

「こっち」と言って、サブターナは片手に炎を燈し、暗くて湿っぽい空間をどんどん奥に進む。やがて、初めにカーラが飛び込んでしまった、あの八つの目がある蜘蛛達の居る場所に出た。

 サブターナが蜘蛛達と目を合わせると、蜘蛛達はアイサインを理解したように円陣を崩した。其処に、小さく外の様子が見える不思議な穴が開いている。

「貴女が向こうに行ったら、もうこの入り口は閉じる。貴女が入り口を封じた事にして。外の人達にそう伝えて」

 サブターナは、必死な表情でそう訴え、カーラの手を、ぎゅっと握る。

「私、あなた達を信じてる。ううん、信じさせて」

 そう言われて、カーラは急に恥ずかしくなった。これから攻撃しようとしてくる、敵の情報を手に入れたと、何処かで思っていたのだ。

 魔神達が、そして朱緋色の瞳を持つこの少女が、どんな思いで自分に願いを託しているのかを、カーラは実感した。

 この子達は、敵じゃない。

「私……」と、カーラは言葉を返そうとして、何も思い浮かばなかった。だが、何故かキーナの事を思い出した。そして約束した。「あなた達を、守るよ」と。

 サブターナと言う少女は、涙をためた目をぎゅっとつむり、目頭を手首で拭うと、「さぁ、行って!」と、カーラの体を突き飛ばした。

 途端に、カーラは外の見える穴の中に吸い込まれ、気づいたときには最初に見た獣道の前に居た。其処を覗き込んでも、あの時見た暗闇は何もなかった。

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