表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
271/433

13.打ち明けられた秘密

 ユニソーム達がサブターナ達の思惑を知れば、真っ先に「その(あるじ)を洗脳しよう」と、とても嬉しそうに提案しただろう。

 洗脳と言っても、魔術を使う必要はない。魔術や薬品に頼らずとも、時間をかけて教育する事で、洗脳と言うのは行えるのだ。

 しかし、自分達の創り出した「幼子」が、城の中で、自らの意思を可能にする主導権を握っていた等とは、思いもよらなかった。

 何より、自分達の足元で、敵に内々の情報を与えると言う()()が行なわれるなどと、思っても居なかった。魔獣や魔神達、そして「幼子」を信頼しており、言い換えれば、そんな知恵が回るはずがないと軽んじていた。

 灯台の下は暗いのだ。


 サブターナが後に引き連れ、長身の女性が守るように傍らに付き添う、神気を纏った少女を、「城」の者達は警戒しているようだった。

 魔性の者なりに緊張した表情を作り、武器を持っている者は得物にそえる手や触手に、力を込めている。

 石造りのように見える城の中の、大きな広間が目の前に迫ってきた。天井と壁の間には、斜めになるように、世界地図のタペストリーが張られている。

 広間の中に用意されて居たのは、三つの椅子。どれも銀色に光っており、どっしりとしている。本物の銀で出来ているなら、毎日磨かないと、こんなにピカピカではいられないだろう。

 サブターナは左の椅子に腰かけ、「座って」と言ってカーラに右の椅子を勧める。

 カーラが椅子に掛けると、鹿と人間を混ぜたような姿の、裾の広いドレスを纏っている者が、広間の別の出入り口から静々と近づいてきた。

「初めまして。カーラ・マーヴェル」と、その者は人間のように片手を差し出してくる。

「初めまして」と答えて、カーラは思わず手を握り返した。

 挨拶をしてきた魔神は、カーラの神気を読み取り、彼女が「魔性の者を全滅させることに、快感を覚える個体ではない」事を確認した。

「貴女が、此処に来てくれるのを待ち望んでいました」と、鹿のような魔神は、三つ目の椅子に座りながら言う。「私達の秘密を、理解してくれる人物として」

 彼女が着席すると同時に、三人を囲む結界が発生する。さっきまでカーラに付き添ってくれた長身の女性は、結界の外で、広間の出入り口を見回した。


「私の名はアナン。私達は、地上に『魔神と魔獣の住めるエデン』を創造するために、活動してきました」と、鹿のような女性は言う。「しかし、私達を導く者は、その先の世界までの展開を望んでいるのです」

 カーラは目を瞬いただけで、黙ってアナンの話を聞く。

「選ばれた人間達と動物達だけを隔離し、地上を大洪水で洗い流す計画です。その後の選ばれた人間達が、どのように行動するかを、彼等は観察したいのです」

「それだと、『地上に作ったエデン』も洗い流されちゃうでしょ?」と、サブターナが分かりやすく教えてくれる。「術でエデンを守る事も出来るけど、洪水がどれだけ続くかによっては、それも叶わない」

「それを危ぶみ、私達は彼等の意思からそれる事を決意しました」

「その……『彼等』って?」と、カーラは質問する。

「その名を唱えることは、許されて居ません」と、アナンは告げる。「彼等の観察網に、捕らえられるからです。ですから、以後の話では、彼等を『導く者』とおっしゃって下さい」

「はい」と、カーラは答え、考えた。

 名前だけじゃなくて、容姿とか、どんな存在なのかとかを聞きたかったんだけどな。それも言う事は禁止されているんだろうか。複数形って事は、何人かいるんだよね。

 その疑問を言葉にしないうちに、サブターナが話し始めた。

「それで、先生。私、ずっと前から考えてたんだ。この城のある場所を『エデン』に出来ないかな。みんなが思ってるような、広大な園じゃなくて良い。この『城』と、それを守る土地だけをエデンに……」

 それを聞くと、アナンは辛そうに眉の間にしわを寄せた。

「そうね。でも、それには、方法が必要だわ」

 アナンが何か言いかけた折、辺りを警戒していた長身の女性が、言葉を切らせるように結界のほうに手を向けた。

 広間に続く長い廊下の先から、誰かが走り込んでくる。

「伝令!」と、人間に似た使いの者は、床に膝を折り、角を生やした首を垂れて言う。「要因Aの下に、リヤが侵入しました」

「何てこと」と、アナンは口走る。「リヤは、私達の意思を知っているのでしょう?」

「導く者からの、勅令を受けたようです」と、使いは述べた。

 アナンは、やはり眉間にしわを寄せて瞳を閉じ、それからはっきり目を開けると、カーラに伝えた。

「私達は、『導く者』を排除するまで、演劇を続けなければならない。でも、要因Aを傷つければ、古い人類達は、我々を『敵』と見なすでしょう。あなた達は、無防備な要因Aについて、何か対策は?」

 カーラは「『要因A』って何ですか?」と聞く。

 アナンは答えた。

「アン・セリスティア」と。


 アンの身体が入院している病院に、見舞いが来た。長いカーリーへアーを背のほうに整え、花束を持った、シフォンのワンピースを着ている女性だった。

 女性は、ハイヒールの踵を鳴らしながら、アン・セリスティアの病室に向かう。外来患者が行き交っているフロアを抜け、階段を上がって、入院患者と看護師しかいないフロアに足を運ぶ。

 四人部屋の一つに、アンの名前を見つけた。名札の位置からして、アンは窓際のその部屋を一人で使っているらしい。

 舞台としてはとても上出来、と、リヤは思った。

 病室に入ると、二名の看護師が、眠った切りの病人の体を拭いている。

「お見舞いですか?」と、一人の看護師が声をかけてきた。

「ええ」と、リヤは答える。「お仕事のお邪魔に?」と聞くと、看護師達は笑顔で、「もうすぐ終わりますから、外でお待ち下さい」と応じた。

 リヤは病室の外に出て、廊下にあった長椅子に座った。

 何とも、気分の悪い仕事を命じられたものだ。ユニソーム達は、大陸を覆っている「変換エネルギー」を解除する事を、狙っているのであろう。術の核であるアン・セリスティアの息の根を止める事で。

 彼女は霊体でも行動できるが、生体エネルギーを交換してる本体を失えば、消耗してしまう。現在のように、霊体のままでも強大な魔術を扱える状態ではなくなる。

 それを見越しての、「暗殺計画」なのだろう。

 リヤは何処かで祈っていた。

 この演劇を続けようとしてる自分を止めてくれる誰かが現れて、奇跡のように要因Aを救うと言う展開を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ