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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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6.戦場・岩砂漠

 蛇、蜘蛛、ハゲタカ、そして……キマイラの大群と、戦う相手に困る事は無かった。少しは手持無沙汰も味わいたいものだが。

 ガルムは、神気体を地面から雲の下までの各所に飛ばし、群れ腐る敵対者を切り刻んで行く。

 長剣をナイフの使い方で操ると言うのは、手首に多大な負荷をかけたが、それを気にしている暇はない。それに、片手首が痛くなる前に、柄に両手を添えれば良いのだ。

 便利なもので、ガルムの扱っている長剣は、裂傷を負わせる真空波の他に、切りつけた箇所を炎で焼き塞ぐこともできる。

 長く使っていて切れ味が悪くなって来たと思ったら、一瞬鞘に戻して「冷える」のを待つと、次に抜き放った時は、切れ味が復活している。

 剣に宿っている炎を使う方法を覚えてから、アンの追い打ちを待たなくとも、魔獣に負わせたダメージを、修復されなくなった。

 後は、ジークさん達の集計が終わるまで、耐え忍ぶだけか……と、ガルムは考えた。

 アンも、同じような事を考えているらしく、全力で魔術を扱うと言うより、効率よく霊体を動かしていると言う風だ。

 仕事の時のねーちゃんって、きびきび動いてたんだろうな……と、ガルムは思って、目元と口元を笑ませた。


 その表情は、理由を知らない魔獣達からみたら、自分達を殺める事を楽しんでいる戦闘狂のように見えたのだろう。

 地面に集まっていた八目蜘蛛(ヤツメグモ)達が、ガルムの着地した場所から波のように引く。

 八目蜘蛛に関しては、ガルムも一通り知識がある。ノックス達が度々その生息地に偵察に行き、情報を収集していた魔獣だ。

 社会性に富み、彼ら独自の言語と文化を持つ、高知能の人間めいた魔獣だと聞いている。

 人間の表情も理解するのか、と気づき、ガルムは思う。後で調書を纏めて報告しなきゃな、と。

 八目蜘蛛達は、一匹の上に別の個体が登りつき、高さを得てガルムの神気体に頭上に飛んで来た。普通の人間だったら、頭上からの攻撃は不得手なはずである。

 ちゃんと学習してるんだな、と感心しつつ、ガルムは跳躍してきた蜘蛛の頭上に、神気体を移動させた。

 こいつ等の行動を不能にするには、目を全て潰し、呼吸器にダメージを与える事。生物としては、タランチュラなどの大型蜘蛛に近く、糸を発する事はない。

 知識を頭の中で思い出しながら、その通りに敵の目を撫で切りにする。しかし、呼吸器が何処にあるのかよく分からない。

 目を全てつぶされても、確かに八目蜘蛛達は怯まない。嗅覚で情報が分かるのだろう。

 何匹かの目を潰してから、どうしようかなーと考えていると、アンの方で大爆発が起こった。一定数集まっていた敵対者に向けて、姉が火炎流を放ったのだ。

 ダメージを受けた個体を、有無を言わせず塵に変換し、圧縮して一粒の砂にすると、邪気を浄化する。

「手際が良いな」と、アンナイトが声をかけてきた。「流石は戦歴のある『清掃員』だ」

「俺等も、あのくらい動けるようにならないとな」と、ガルムは返し、敵を薙ぎながらアンナイトに聞く。「こいつ等の呼吸器の位置は?」

「目の上の八の穴、それから口の上の二つの穴だ」と、アンナイトからの説明が来る。視野の端に図解付きで。

「面倒くさい。吹き飛ばそう」と、ガルムは提案し、神気体の片手を構える。

「それが一番効率的だろう」と、アンナイトは答え、今まで屠って来た敵対者に植え付けてある、神気を吸収し、エネルギー変換を起こす。

 キュンッと言う、レーザー砲がエネルギーを集中する時に似た高音を鳴らして、ガルムの片手から浄化エネルギー――別の言い方をするなら削除エネルギー――が放出された。

 もうこの力を使う時の反動にも慣れているため、初期の頃のように一々構える必要はない。

 光の刃は、地面の蜘蛛達の他に、空中に居たライオンの体を持つ鷹のような魔獣達も、面白いように消滅させて行く。

 生体エネルギーを削除する時、個体から肉の焼けているようなにおいが漂ってくるので、「ああ、生き物を焼いているんだなぁ」と言う、実感が残るのは否めないが。

 しかし、そんな事を憂鬱に思っていたら、自分のほうが「焼かれるイキモノ」になるのだ。

 くるりと振り返り、そこにいた「隙をついて接近してた」キマイラの群れにも、熱線を浴びせる。キマイラ達の体は、煤も残さず消滅した。


 蓄積エネルギーが七分の辺りまで減って、一頻り辺りを焼きつくしてしまうと、しばらく周りは静かになった。

 ――ガルム君。

 遠く離れた姉の方から、念話が飛んでくる。

 ――何がか近づいて来てる。アンナイトの機能では、補足できてる?

 ガルムは、アンナイトの情報映像に意識を集中してから、答えた。

 ――いや、レーダーには何も表示されない。

 アンはすぐに感づいた。

 ――ジャミングされてるね。もうすぐ、東の方から砂嵐が来る。その向こうに、何かいる。魔力に守られてる巨大な何か。

 ――怪獣と戦う事になるの?

 ――その可能性は大きい。結界は張れる?

 ――得意中の得意。

 ――よし。しばらく、潜伏。

 ――了解。

 そんなやり取りを経て、二人はそれぞれ岩陰に潜み、屍を埋める砂嵐が通り過ぎるのを待った。


 砂嵐が過ぎ去る頃、その巨大で未発達な姿の生き物は、岩石質の不気味な皮膚と目を光らせて、砂塵の壁の中から姿を現した。

 その生き物は、「おぎゃあ」とは鳴かなかった。「にやぁあああああ」と言う風に、井戸の底から呻いているように鳴く。

 ――タイプスリーだ。

 アンの念話が、心なしか緊張しているような声で言う。

 ――エニーズの新しい型だよ。って事は、居るのか。

 ――あ……。ああ、はい……彼女等がね。

 ガルムはすごく気まずい。

 ――俺は、見ないほうが良いかな?

 ガルムが見てしまうと言う事は、アンナイトも見てしまう。そして、アンナイトが見てしまうと言う事は、集団監視状態の管制室モニターに、その姿がはっきりと映し出されると言う事だ。

 アンをモデルにして作られた魔力的レプリカ、アーニーズの裸身が。

 ――出来れば、見てほしくないなー。

 アンは、低音で念話を飛ばしてくる。意識が暗く成っていると言う事だろう。

 ――アーニーズは私に任せて、ガルム君はエニーズのお守をして。

 ――オーケー。なるべく、アーニーズは視野から外す。

 そう約束して、二人は夫々の敵に向かって散った。

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