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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第七章~紐解くときに~
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4.戦場・乾燥原

 特に干上がっていた地面に降り立ち、キーナはすべきことを探した。異界への入り口を塞ぐ事も大切だが、眼前にある環境が壊されようとしているのを、見捨てられない。

 ハンナに通信を送ろうとしたが、砂音が聞こえるだけで、術は起動しない。

 何かが阻害している?

 そう考えて、ハンナからの情報は期待できないと察した。

 もし余計な事だったらごめんと、頭の中でお詫びを言ってから、キーナは空に雲を集め、小雨を降らす。

 細かな水が、カチカチの地面を流れ、皹に入り込み、次第に周りは湿度のある土の香りがし始めた。

 そんな局地的降水を起こして居たら、奴等が気づかないはずがないが。


 ユニソームは、守護幻覚の一人が「慈雨」を降らしているのを観察して、突き出した目玉をぐるぐるさせた。

「この守護幻覚は『(あるじ)』より感傷的な個体のようだな」

「感傷的と分かるなら、打つ手はあるだろう」と、何時も地上を観察している同胞――バニアリーモ――が述べる。

「あるさ。少し悲劇を作り出してみよう」

 そう言って、ユニソームはキーナの着地した場所の近くに住んでいる人間達の村に呪詛を送った。


 ある家の両親は、洗濯物で遊んでいる子供達を見て、突然腹立たしくなった。イライラするのは常日頃からだったが、その時は特に腹が立った。

 何故か、自分は何時でもお前達を叩きのめせるのだと、子供達に主張しなければ成らない気がした。

 悪戯をしてニヤニヤしている子供達は、自分を見下して反抗しているのだと言う気持ちが、一気に高まった。

 そして、頭に閃いた行動をとった。まずは、怒鳴り散らした。子供はまだちょっとだけ笑っている。

 冗談だと思っているのか?

 そう思うと、更に苛立ちは募る。

 すっかり自分は親としての尊厳を保てていないんだと思った。

 それならば、もっと自分達が「本気で怒っているのだ」と言う事を証明しなければならない。

 なので、手を上げた。突然頭を殴り飛ばされた子供達は、ショック状態になるか、びっくりしている。

 そうだ、もっと驚け。

 両親はそう思った。

 私達は、お前達を産んだ、圧倒的に力の優る「創造神」なのだと言う、ある種の驕りが心に蔓延し、頭の中には伝達物質が過剰に溢れ出た。

 もっと子供を驚かせるために、父親は斧を、母親は肉切り包丁を手に取った。

 十二人いた子供のうち、勘の良い二、三人はすぐに逃げ出した。ショック状態で泣きじゃくっている子供と、父母が何をしようとしているか分からない子供はその場に残った。


 三人の子供達は、悲鳴を上げることはなく黙って逃げた。その方が追手が来た時、姿を眩ませられる。だが、その足の向く方向は、キーナの居る方向にしっかり合わせられている。

 悲鳴は、その子供達の逃げて来た家の方から聞こえてきた。逃走が後手に回った子供達も、数名が家から逃げてくる。

 子供達は、父母の異常をキーナに訴える。

 キーナは、何故プラズマ体を纏っている自分の姿を、子供は達はおかしく思わないのかと言う、少しの疑問を持ったまま、導かれた村のほうに進んだ。


 家の床は血にまみれている。

 最初の手にかかった子供は、肉切り包丁で片腕を切り落とされ、斧で片脚を切り落とされていた。

 出血量がひどいが、もし助かれば物乞いとして使えるな、と、母親の頭の中に「次の生産性」を考える思考が働いた。

 父親のほうは、暴力を振るう快感で、正常な意識は麻痺しているようだ。

 恐怖で身動きが取れない子供達に、「騒ぐな。それに、動くな」と、まるで強盗のような事を言ってから、また一人選び出し、髪を掴んで引きずって、土の床に寝そべらせた。

 父親が斧を振り上げる。ダンッ! と言う音と共に、子供の足は切り落とされた。

 子供は激痛からの悲鳴を上げる。その口に、母親が絞ってもいないm水濡れのタオルを塊にして突っ込む。声を出させるより、窒息させたほうが良いと言う風に。

 それを見ていた、やはり二人ほどの子供が、外に走り出して行く。

「逃げるな!」と、父親は恫喝した。

 残った子供達は、恐怖で手足を縛られ、その場にうずくまった。


 三人目の子供の髪の毛を父親が掴んだ時、キーナは子供達に導かれ、用意された舞台に舞い込んだ。

 粗暴を行なっている二人の人間の意識に、異様な魔力的影響がある事を察した。

 正常な意識を回復する手段は?

 一瞬そう考えたが、良策を思いつく前に、子等の父親と母親は、自分達の快楽の邪魔になる人物を殺傷しようと、夫々の得物を手に、じりじり近づいてきた。

 肉切り包丁が振り回されるのに気付いて、キーナは母親の前から飛びのいた。その背後から迫っていた父親が、斧を頭の上に構える。

 重い刃が振り下ろされる前に、キーナはまた身を翻す。斧は土の床にぶつかり、床を少しだけ抉って跳ねた。

 床が傷ついた。

 父親はそう思った。

 この見知らぬ女が来た()()だ。この女は排除しなければ。

 そのような考えに支配された父母は、標的を子供達からキーナに替えた。

 近距離戦闘しか行えない、場の不利を考えたキーナは、残っていた子供達の手を乱暴につかむと、「こっち。逃げるの!」と言って、外に飛び出した。


 雨の降る外で、子供達の父母は魔力の炎で目を焼かれ、腹部への打撃により行動不能になった。

 肉切り包丁と斧の襲撃を退けたわけだが、一息ついたのも束の間、一定数あった家々の中から、次々に子供達も親達も逃げ出してくる。

 家の中からは、正気を失った誰かが、手に手に刃を持って、逃げ出した家の者達を追ってくる。

 キーナは自分一人の手でどうにかなるかを考えた。

 そして、雨の降り注ぐ天空を見上げる。

 片手を天に伸ばし、「清浄化」の力を集めた。


 その様子を見て、守護幻覚がエネルギー変換を起こそうとしている、とユニソームとバニアリーモは気づいたが、その結果がどうなるかを黙って観察した。

 降り注ごうとしていた雨が、天に伸ばされたキーナの手に集まり、一握り程の丸い水の塊になる。

 キーナはまだ出力を上げる。

 水の塊は、気体に変化しながら、周囲に広がって行く。

 わずかに残った水の粒を掴んで、キーナはその拳からエネルギーを放出した。

 辺りの狂人達が、次々に気を失って行く。

 ユニソームはそれを見て、発声器官から「フォ」の音をもらした。「実に上手い進化を遂げたようだな」

「同胞よ」と、バニアリーモが注意するような声音で言う。「強敵を作り出し過ぎではないか?」

「育ててから叩き潰す快感と言うものを、味わってみたくてな」と言って、ユニソームは飛び出ている目玉をふわふわさせた。

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