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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集6
258/433

メリューと約束4

 玄関前に呼び出され、ぶきっちょな五芒星の形に刻まれた木っ端を二つ手渡されたアーサーは、手の中を覗き込むように見て、不思議そうな顔をした。

「これは何?」と、アーサーはメリューに聞く。

「お友達のしるし。ちょっとだけ小さいほうが、リニアの分ね」と、メリューは答える。

 リニアの分と言われたほうは、確かにアーサーの分より少しだけ小さいが、彼女が持とうとしたら両腕を使って抱え込まなければならないだろう。

「お友達には、しるしが要るの?」と、アーサーは疑問を問う。

「私は要ると思うの。約束の時は、必ず証になるものを作るでしょ? 結婚する時も、神様に誓って祈ったりするし。でも、私、神様を信じてないから、私の友達の約束は、その形が良いと思うの」

 よく分からない論法であるが、このぶきっちょな木っ端が「メリューと友達である証」なのだと信じるための形らしい。

「僕、信じるって、心の中の事だと思ってた」と、アーサーは言ってから、「でも、ちゃんと形があったほうが、カッコイイね」と付け加えた。

 アーサーが微笑んだので、メリューは自分の作品が友達を喜ばせられたと思って、嬉しくなった。

「うん。リニアにも、お話して渡してあげてね」と言ってから、メリューは笑顔で一生懸命に手をぶんぶん振って、「じゃぁね」と言ってアーサーの家を後にした。

 しっかり背後を付けて来ている保護者に、しっかり見守られながら。


 その日のうちに、メリューは「お友達の証」を七人に配った。

 その中には、ジークとシャニィとエルトンの分も含まれている。同じ町に住んでいる子供の、ネーブル・ドクとメビウス・アーチャーにも、同じような木っ端をあげた。

 本当の八歳の少年ネーブルは、「お前、器用だな」と言って居て、十二歳の少女メビウスは微笑ましそうにぶきっちょな木っ端を眺めて、「ありがとう。大事にする」と応えた。

 大人達のほうも、夫々が受け取った木っ端を見せ合っている。

「ジークさんのは、割と立体ですね」と、シャニィは()()()()の木っ端を手にして、少し悔しそうな表情をする。

「作った順番がちょっとずつ違うんじゃないかねぇ?」と、ジークは人差し指と親指でつまんでいた、より「五芒星の形っぽい」木っ端を装置の一部に置き、読み取り機を通過させた。

「何で友達のしるしの記録を取ってるんですか?」と、シャニィ。

「いや、これ、ちゃんと魔力籠ってるからな」と、ジーク。

「じゃぁ、割としっかりしたしるしなんですね」

「そうだな。もしかしたら……」

 ジークは何か言いかけてから、読み取り機から木っ端を持ち上げ、魔力を追ってみる。望遠ゴーグルの中に、自宅のソファーで昼寝をしているメリューが映った。

「ああ。やっぱ、本人の所まで追跡できるわ。無くしたら一大事だにぇ~」

 ジークはニヤニヤしながらヒューッヒュと笑う。

 シャニィも魔力持ちであるが、追跡が出来る程の技術はない。であるが、女の子の私生活を追跡できてしまうと言うのが、どれだけ危ない事かは分かる。

「それは……アシュレイさんとメリュジーヌ様にも、教えておいたほうが良いですよね?」

 シャニィが顔を強張らせると、ジークは「大人のほうはリカバリーできるが、子供等に配られたほうがどうなるか気になるな」と答える。

「見た目は唯の木っ端ですもんね……」と言いながら、シャニィは手元のしるしをまじまじと見つめ、「親御さん達に説明します?」と提案した。

「それしかあるまいて。通信機置いてる家には、俺から連絡しておく」

「じゃぁ、私は、通信機の無い家に説明しておきます。メリューちゃんが誰にしるしを配ったかは分かりますか?」

「アシュレイに聞くか……。それとも、町中全部追えばわかるかも。ちょっくら時間をくれぃ」

 そうやり取りをして、ジークは機器を操り、シャニィは暇になる間に出来る家事をしに戻った。


 その日の午後のうちに、シャニィはメビウス・アーチャーの両親に事情を話した。

 両親は「あの木っ端が、そんなに大事なものだったなんて」と言って、驚いていた。

 そして、何故か母親のほうが、自分のエプロンのポケットから、その木っ端を取り出した。

「もう少しで、捨てちゃう所でしたよ」と言いながら。

 何でも、メビウスが自分の部屋の机に片づけておいた木っ端を見つけた母親は、「またゴミを集めている」と思って、内緒で処分しようとしていたらしい。

 ゴミと言われてしまっているが、大人の目から見たらメビウスがもらった木っ端は、そんなに形の良いほうでもない。だが、シャニィがしっかり見てみると、確かにメリューの魔力が籠っている。

 メビウス本人は、狩場に弓の訓練に行っていると言うので、本人にも詳しく理由を教えてあげてほしいと頼んだ。

 子供とは言え、メビウスは十二歳だ。魔力に関する事では重要な情報を――つまり秘密を――守ると言う決まりくらいは、分かる年齢である。

 逆に心配なのは、ジークが連絡を取ったネーブル・ドクのほうだ。この町の医者の家系の子供である。

 医療に関する術に関しては真面目に受け取るかも知れないが、「友達のしるし」を通して、メリューの居場所や話してる事が分かってしまうと知ったら、好奇心を出しかねない。

 ネーブルの家の両親は、「絶対に悪戯はさせない」と約束してくれたが、親の前で良い子でも、子供と言うのは、心に悪意を住まわせていることがある。

 おまけに、本人はその悪意が悪い物だと認識していないのだから、可愛い女の子がお風呂に入っている所を、覗いてみたいと言う衝動に勝てないかも知れない。

 ジークと話し合って、ネーブルの両親は、息子にそれとなく「友達のしるし」を提出させ、取り上げておくことにした。

「これは十二歳になるまで、預かっておく」と親から一方的に言われた少年は、慌てた様子で「返して返して」と訴えたが、メリューの作品は、父親しか番号を知らない金庫にしまわれてしまった。

 ネーブル少年は、泣き喚いて、泣き疲れて眠ってしまうまで、床に転がってじたばたし続けたらしい。

 しかし、次の日にはケロッとして、自分がメリューから「ちょっとかっこいい形の木っ端」をもらったことは忘れていたと言う。

 子供と言うのは立ち直りが早いようだ。


 そんなわけで、メリューは友達だと思った者達に、大変な信頼と約束事を示すことになってしまった。

 アシュレイが、魔力追跡で自宅を覗かせないための妨害(ジャミング)装置を家に設置するのは、そんなに遠くもない内である。

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