14.度重なる来訪
マナム達と離れてから、イズモはさっきから待たせていた通信の術に返事を返した。
「難は逃れた。ジーク。何の用だ?」
「いけずな返答ありがとさん」と言ってから、ジークは本題に入る。「いきなり進路が正確に成った理由はなんだ?」
「マコトのおかげだよ。飛翔を手伝ってもらったんだ」と、イズモ。
「ふーん。お前さんは、若干他の使者より能力が劣るからな」と、ジーク。「良い助手が出来てよかったじゃないか」
「能力が劣ってるかな。移動手段は劣ってると思うけど」と、イズモは悪口を意に介さない。「大陸の東側から直線的に『願祷洛』に行くには、空を飛ぶしかない」
「島国の上を移動する間は、ずっとお前さん単身の能力で飛翔してたのか?」
「もちろん」
「だったら、やっぱりお前さんは能力的に劣るよ。コースもガタガタだったし、移動は極遅いし」
「龍族と比べないでくれ。いくら混血でも、私はどのみち人間だもの」
「他の使者もみんな人間だけど」
「その中で、空を飛んで移動してるのは?」
「お前さんだけだな」
「それじゃぁ、比較対象が無いじゃないか」
「うーん。そこは、俺がお前を認めたくない理由を並べて良いか?」
「基本的に、お前は私に反感があるわけだね」
「まぁにぇえええ~」
そう会話をして、ジークはいつものヒューヒュッヒュと言う底意地の悪い笑い声をあげる。
「因みに、アン・セリスティアは、現在休暇中。一週間前から体のメンテナンスに行ってもらってる。三週間後には戻ってくるはずだ。彼女が帰って来るまでに、デルタは作っておく必要がある」
「焦る理由は?」
「焦ってない。順調に進めるためには良いパフォーマンスをしておかんとな」
「それで、どっちなんだ?」と、イズモは聞き返す。「アン・セリスティアか、メリュジーヌか」
「術の最終決定はアンの仕事だ」と、ジークが返事をすると、「いや、お前が『仕えたい女』だと思ってるほうは、どっちなんだ?」と、イズモは真面目なトーンで聞いてくる。
ジークは少し黙って真面目に考えそうになって、「いやいやいやいや」と、とぼけた声を出す。
「俺が仕えてるのはメリュジーヌ。あのすっとぼけた魔女に仕える奴が居たら見てみたい」
「私としては、アンの名前を出す時のお前の声音が、ちょっと嬉しそうに聞こえるんだが」
「空耳か何かじゃないか?」
「そう言う事にしておこう」
イズモはそう答えてから、三週間あれば余裕で願祷洛に到着できることと、現地にある自分の家に着いてから、マコトに理由を話すことにしてあると言う旨を告げた。
村には食料品店が無かったが、個別の家々に「旅の者だが、食べ物を売ってもらえないだろうか」と声をかけると、鶏を飼っている家では卵を、雌牛を飼っている家では乳をもらえた。
何も飼っていない家でも、貯蔵のためにとっていたパンや脱穀した生米を安価に分けてもらえた。
社に泊まるのをやめてから、まともなものを食べていなかったあの双子に、久しぶりのご馳走を食べさせてあげられるだろう。そう思いながら、二人を待たせていた場所に戻った。
そして、イズモは「ご飯を用意するには、先に片付けなければならないものがいる」と言う事に気づく。
マナムとマコトの虜になった犬百足の群れの外側に、また別のおかしな化物が集まっていたのだ。
犬百足達は必死に双子を守ろうとしていた。
稚児衣装の双子は、犬百足達に囲まれたまま、イズモが帰ってきたことに気づいた。しかし、さっきの事を思い出して、大声で呼びかけると言う事はしなかった。
マナム達と犬百足を囲んで居たのは、赤い半円型の体に七ヶ所黒い点がある、一見したら「巨大なナナホシテントウムシ」だった。
大きさ以外で特異な所と言うと、半球状の背の下の四ヶ所に頭らしきものがあり、その頭の一つにつき二つの目がついている。
付け加え、アブラムシではなく、群れの縁に居た犬百足を組み伏し、上に乗りかかって、その四つの頭の内の三つの口で、バリバリと犬百足を食っていた。
生半可にまともな形をしていると、いっそ気味が悪いな。
イズモはそう思って、その巨大な天道虫の数を数えた。子供達と犬百足を囲むように、六匹いる。
恐らく、霊的な勘はマコトの方が優れているだろうと察し、イズモは彼女の頭の中に声を送った。
――落ち着いて、妖怪を刺激しないで。
マコトをはその声を聞いてハッとした顔をし、頷く。それから、送られてきた霊的な力を辿って、イズモの頭の中に返事を送ってきた。
――こいつ等、祈祷が効かないの。
――だろうね。君達の力は、たぶん一頭につき、一個の頭にしか届いてないんだ。
――どう言う事ですか?
――よく見て。このでっかい天道虫には、頭が四つある。四つのうち一つの頭だけ、術が効いてる。
そう聞いて、マコトは傍らで縮こまっていたマナムの手を取った。




