表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集5
207/433

永劫の者と要因A 4

 エムツーが城を去った。

 それによりサブターナを処分しようと言う気運が、魔神達の中で高まり出した。アダムが逃亡した以上、その番いになるためのイブに価値はないと言う、中々獰猛な考え方だ。

 最終的には贄とされる人類の祖など、いくらでも代わりが利く。今までのように高水準の知能を与える必要などない、ヒト族としてまともに生殖活動が行なえて、子供が三匹残せればいのだろう? と。

 そう提案したのは、短気なランケーク族だった。

 短気であるからこそ、長い時間をかけて他種族の子供を育成するなどと言う、「暇」を掛けるのがじれったいのだろう。

 しかし、バニアリーモ達は、「原始人のように振舞う人類の祖では、エデンでは子孫を残すほど生き残れない」と知っている。

 何せ、そのエデンを作った後、イブがセトを産んで、セトが子孫を残し老人になる頃に、大地の上を大洪水で洗い流す予定なのだから。

 セトの子孫ノアには、「方舟(アーク)」を作ってもらい、其処に全ての動物の番いと、ノアの妻と子供達と子供達の恋人を匿う。

 方舟(アーク)を作るためにも、動物の番い達をその中で眠りに就かせるためにも、イブの子孫達には、最低限の術が伝えられて居なければならない。

 そして、ヒト族を「自分の食餌」と考える可能性がある魔神達に、対抗する力も必要だ。

 故に、エムツーとサブターナには、深い教養と知識を授けていたのだ。

「心無い思考と言えばそうだな」と、カウサールは言う。「他種族に対して、共感を持てないと言う気質は、ランケークが海の種族であるからだろうか」

「ランケークは、大洪水の後でも生き残れるからな。彼等は彼等で、『自分達こそが、新しい舞台で生き残るに相応しい』と妄信しているのだろう」と、バニアリーモは答えた。

「それでは演劇は進展しないな」と、カウサール。

 カウサールの言う事は、的を射ている。折角舞台を用意して、「創世神話」と言う群像劇を起こそうとしているのに、生き残るのがヒト族ではなくランケーク達では、全く面白みがない。

 もし、群像劇が「創世神話」に記載されている通りに上手く運んで、大洪水を起こした際、もし、セトの一族が生き残る事が出来なかったら。

 最終的に、地上にランケーク族が繁栄する事になってしまうのだったら、それは結果として受け入れられる。

 しかし、劇が始まる前から俳優達を殺戮し、結果的に台詞も覚えられない猿を舞台に上げる事になっては、群像劇を作る意味はないのだ。

 最悪の事態になった時は、ヒト族の種を他の星に持って行って、星そのものの環境を変える所から、もう一度「再演」を行なおうと言う了解は、三名の永劫の者達の間で決まっている。

 ランケーク族だけが生き残ったテラがどうなるかは、永劫の者達にとっては興味の範疇ではない。

 様子を見るにしても、大動物博物館が出来たとして、波の中で荒ぶる魔獣や魔神達を時々観察しに来るだけになるだろう。


 永劫の者達の保護と、サリアとマァリ、そしてアナンの存在により、城の中でのサブターナの安全は守られている。心の安全のほうもだ。

 まだ八歳の幼子が、自分の住んでいる場所で命を狙われているなどと言う、恐怖を知る必要はない。

 そう考えていたのだが、サブターナ本人は、何処かで不安を察していたらしい。

「時々、誰かが背中の方から、近づいてくる感じがするの」と、サブターナはサリアに訴えた。「すごく怒りながら」と。

 サリアは、その言葉を聞いて顔つきを変えた。詳しい内情は知らされていないが、サリアにもサブターナの地位が危うい事は、それとなく伝えられているのだ。

「じゃぁ、私達、なるべく一緒に行動したほうが良いね」と、サリアは提案し、実際にサリアはサブターナにつきっきりになってくれた。

「番いを無くしたイブ」に苛立ちを覚え、隙があればその苛立ちを晴らす方法を試そうとしていた、一部のランケーク族と、さらに一部のフォリング族は、サブターナに保護者がついてから鳴りを静めた。


 サブターナが、以前から観ていた悪夢がある。自分の知っている「みんな」が、蒸発して消えてしまうと言う夢だ。

 去年から断続的に、それと同じ悪夢を「大地の赤子を知る外部の者」達に見せている。主に、邪気や神気の塊である守護幻覚達や、その者達から影響を受けている魔術師達に、だ。

 勿論、その中には要因Aも含まれている。

 だが、バニアリーモは霊体であるのに睡眠をとる要因Aが、一度も「悪夢にうなされて飛び起きる」所は発見できないでいる。

 数ある目玉をいくら集中させて観察していても、要因Aが睡眠をとる時、バニアリーモはその存在を感知できなくなる。

 眠る前に霊体があった場所とは違う、何処か別の空間に移動していると言う事は分かったが、魔力の名残を読んでも、その行く先を知る事は出来なかった。


 ある日、城の寝室で目を覚ましたサブターナは、起きた時から上機嫌だった。

「良い夢でも見た?」と、サリアが声をかけてあげると、サブターナは「この頃、青い目のお姉さんの夢を見るの」と、楽しそうに告げた。

「白い髪と青い目のお姉さんが、膝枕をしてくれて、私の髪を撫でるの。花みたいな香りが周りに漂ってて、すごくリラックスできるんだ」

 その言葉を感知したバニアリーモは、サブターナの体の周りに残っている魔力を分析した。

 要因Aの放つ、浄化の力が残っている。

 いよいよ、要因Aが仕掛けて来た。バニアリーモはそう察し、緊急でユニソームとカウサールを呼び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ