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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集5
204/433

永劫の者と要因A 1

 要因Aであるアン・セリスティアは、十八年前に生まれた「天然物」の朱緋眼保有者である。

 自ら贄を用意したわけではなく、彼女が大量の魂を吸収する事になったのは事故なので、そう言った意味でも天然物である。

 その頃から、ユニソーム達は彼女が「エデン計画」の支障に成るのでは……と憂慮していた。

 その憂慮の発端は、アン・セリスティアが保有していた「生成と消滅」の力が、創世記が作られた後の「救世主」としてスーパースターを夢見た彼と、酷似していたからである。

 水の無いカップの中に水を生じさせ、皿の上に焼き上がったパンを発生させる。法則性のない「向こう側のエネルギー」にあてられた者から、体を変質させているエネルギーを削除できる。

 ユニソーム達の心配を他所に、アン・セリスティアは朱緋色の瞳を持つ者として清掃局に従事し、自分のエネルギー削除能力を、どんどん鍛えて行った。

 古代の()の人と違ったのは、彼女が生成の能力を見せびらかさなかった所だろうか。

 アン・セリスティアと言う個体の感覚では、空っぽになったグラスから水が発生してはならないし、石がパンになってはならないのだ。

 当初の憂慮が消えると、バニアリーモは要因Aを「面白いパターン」だと思って放置した。

 一体、莫大なエネルギーを得た人間の娘は、どのように生きていくだろうと。


 彼女は、十歳で清掃局に登録してから、熱心に働いていた。仕事に関しては真面目だが、何事にも生真面目と言うわけではなく、時には局に対して隠し事もした。

 清掃局は、報告されたら記録するしかない。全てを明かすことは局への甘えであり、そこで気丈に成れないものは厄介者とされる。

 それを感じ取って居たアンは、何処かの龍族を助けても清掃局には何も言わなかったし、弟を引き取る事に関しても、公的な手続きで必要な部分以外は誰にも言わなかった。

 布石を置いている、とバニアリーモは感じた。

 セリスティア本人は、気づいていないだろう。その「無言の行動」の中に隠されてる、いずれへの影響を。

 バニアリーモは、やがてこの娘が、「敵」として、永劫の者達の作ろうとしている舞台を、邪魔するだろうと決定づけた。

 だが、特に「この個体の意志が弱いうちに消滅させておこう」とは、思わなかった。

 考えようによっては、要因Aは、戦闘狂のユニソームが、大喜びしそうな強敵であったからだ。簡単に贄に出来る、雑魚ばかりを相手にしても、つまらないだろう。

 たまには、知恵を働かせて立ち向かわなければならない、大きな障害が無いと、この長い寸劇も中だるみになってしまう。


 バニアリーモは計算をしない。危険でも面白ければ放っておくし、危険でつまらなかったら排除する。つまり、スリルと言う感覚が好きなのだ。

 この個体は、そこそこ我々の存在に気付いているが、放っておいたらどんな手に出るだろう……と言う、好奇心に駆られた時は、危険個体でも放っておく。

 そう言った点では、アン・セリスティアは、今までの異変を全て把握できるくらいの情報を持っている。しかし、それ等を関連付けるきっかけを欠いている。

 古い人類の手から逃れるために、眠りに就いたからこそ、彼女は「地の底の赤子」も、「それを観察している我々」の事も、すっかり理解できる要素は得ているのだ。


 千年史を思い出してみよう。バニアリーモはそのような思考実験を試みた。

 魔神達は、繁栄期、衝突期、閉塞期を経て、現在再生期に居る。別の言い方をすれば、蘇生期だ。

 主にユニソームの呼びかけによって、異空間に作った「城」と言う住まいに集まり、仲が良かれ悪かれ「エデン計画」のために働いている。

 短気で、気に入らない者には何にでも墨を吹きかけるランケーク族と、高飛車で、「舞台」が海に囲まれている事にご立腹のフォリング族を纏めるのは大変だ。

 数の居る魔神の中で、攻撃性のある身体能力に勝っているこの二つの種族は、今は「城」で会議など開いているが、その内に戦線に出て、魔獣達と一緒に命を張ってもらう予定である。

 魔獣達も、少なからず使えるものが成長してきている。社会性を持ち、知能が高く、攻撃力に勝る八目蜘蛛(ヤツメグモ)や、知能は単調だが、その代わりに恐れを知らない石蜻蛉(イシトンボ)

 蜂蜘蛛は失敗作だったが、今もどこかで巣を形成し、生息しているらしい。彼等の思考に操れる隙があれば、ユニソームに蜂蜘蛛を操らせてみても良いだろう。

 以前実験したときは、亡骸であればそれなりに暴れさせることは出来た。しかし、蜂蜘蛛は蜂の本能のほうが強い。無駄な動きも多く、使い勝手の良いコマとは言えなかった。


 さて、龍族と、古い人類の軍隊と言った、二つの布石を持ったアン・セリスティアは、どのような手を打ってくるだろう。

 彼女は大変用心深い。そして、我々に「見つからない方法」をよく知っている。言葉に出すときは結界を備え、考えを文字に記す事も無い。

 この二つの要因は、別の人物にも言える。

 舞台に上がったと思ったら、東の果ての島にあっと言う間に引っ込んでしまった、ヤイロ・センドと言う名の学者も、言葉と文字の使い方をしっかり分けている。

 そのため、バニアリーモは、ヤイロ・センドが現在どの位置に居るかを正確には把握できていない。

 ヤイロが何を考えていて、何を思って「サクヤ」と言う少女を引き取ったのかの真相は、ヤイロの心の中にしまわれたままだ。

 これも、中々のスリルがある展開だ。閉塞期以降、長年をかけた「エデン計画」は、今度こそ叶うのか叶わないのか。

 バニアリーモは、目の片方を、眺めている地上の一方についと伸ばして見せた。其処には、クオリムファルンで記録した、ヤイロの姿が映っている。

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