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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第五章~緋色の瞳は二人して~
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13.知りたい事たくさん

 サブターナに宿ったルシフ種の力は、操り方によって応用が出来た。

 単純に風を起こすほかに、空気の中に「真空」の部分を作って、その「真空」の部分を対象物に触れさせることにより、生物や物体にダメージを与えることができる。

 それから、「他の元素精霊の力」も吸収する事が出来れば、ルシフ種の力を使って「離れた場所にエネルギー的作用を素早く運ぶ事」も出来る。

 呼吸の止まったばかりの生物の肺臓から空気を呼び出し、また、空気を送り込むことで、人工呼吸器のような効果も起こせる。

「治癒的な力と組み合わせれば、蘇生術を使えるようになるわ」と、マァリは言う。「地上の生物が一番気を付けなきゃならないのは、酸欠による脳へのダメージだからね」

「じゃぁ、呼吸だけ戻っても駄目なのね?」と、サブターナはメモを取りながら確認する。

「そうね。呼吸が回復する事で回復する症状もあるけど、体の何処かが壊れてたりしたら、出血も止めなきゃならないし……内臓にダメージがあったら臓器の回復もしなきゃならない。

 蘇生術を覚えるなら、対象の生物的構造を知識として覚える必要がある。人間を蘇生させたいなら、人間の構造を。猫を蘇生させたいなら、猫の構造を」

「うーん。お医者さんみたいな知識が必要って事?」

「そう。生物の基本構造を覚え込んで、色んな生物に応用するって言う方法もあるけど、どっちにしても頭を使うでしょうね」

「大変そうだけど、他の勉強と一緒に覚えてみる」

 サブターナの前向きな言葉を聞いて、マァリは本当の十五歳の娘のように明るく微笑んだ。

「色んな物を治せるようになったら、きっと楽しいと思う」

 そんな気まぐれを言って見せると、つい最近八歳になったばかりの幼子は、疑う事も無く「本当?」と、意気込んで聞いてくる。

「ええ」とだけ、マァリは答えた。


 精霊術を習って行くうちに、サブターナの知的好奇心は、どんどん助長されて行った。マァリの部屋を離れてからも、城の廊下を歩きながらノートを何度も読み返し、家に帰るまで知識を頭に叩き込む。

 精霊術として蘇生の能力を得るなら、ルシフ種の力だけでは不完全だ。

 マァリから聞かされたとおりに、サブターナは考えた。ノートのページには、読ませてもらった本からメモした事が書いてある。

 精霊術として蘇生を行なうためには、四つの元素の力が必要である。地によって増幅し、水によって流れを整え、火によって熱を与え、風によって送り込む。

「つまり、全部の元素が必要」

 そう結論を出し、結論を出してすぐに、城の外にある「家の入口」に向かった。周りは木々で隠れていて全く家らしい形は見えないが、木々の間に開いている穴を歩いて行くと検査場に出るのだ。

「先生!」と、家の入口に入ってから、サブターナは検査場に行く間に声をかけた。「先生! 話があるの! 居る?!」

「聞こえてます。大声で呼ばなくても」と言う声が、すぐ真横で聞こえた。

 びっくりして横を向くと、鹿と人間を混ぜたような姿をした教師が立っている。いつもはそんな事は思わないが、「先生」の着ている裾に向かって開いたドレスは、丁度お化けのシルエットみたいだ。

「あ、あのね、先生」と、サブターナは気を取り直して言う。「私、蘇生術が憶えたいの。それで、古代四大元素の力が、全部必要なんだけど、それを集める機会ってもらえないかな?」

「蘇生術?」と、教師は怪訝な顔をする。

「そう。精霊術の中に、そう言う術があるって、マァリから教えてもらったの。それで調べてみたら、お医者さんみたいな知識も必要だけど、元素の精霊の力も全部必要だって分かったの。

 だから、精霊の力を集めたいなって思って。もし、外出に制限が必要だったら……誰かを付き添わせてくれて、帰る期限を決めてもらえないかな。期限や約束は必ず守るから」

 そう言って、サブターナは胸の前で指を組む。

 祈られてしまって、少し気まずい気分になったが、教師は知識欲の強い生徒に対して、「少し、先生達でも話し合わせて。すぐに答えは出せないけど、一週間は待たせないわ」と応じた。

「ありがとう!」と、サブターナは気も早くお礼を言う。

 大人に対してお願いをする方法が分かっている子だ、と教師は思った。


 アナンは、魔神の中でも人間に近く、近すぎない者として、ウパロとネヨハ、それからリリスに声をかけた。

「蘇生術に興味を持っている。付き添いと期限付きで元素精霊を集めたい」と、リリスが要点を復唱した。「実に野心的ね。良い子に育ちそうだわ」

「リリス。そう言う事じゃないよ」と、ウパロが言い出す。「まず、サブターナに『蘇生術』を習わせることに賛成の者は?」

 アナン以外の三名が挙手する。

「意外だね」と、ネヨハが言い出す。「反対する理由は?」

「まだあの子が八歳だからよ」と、アナンは言う。「場所を城の外に限定したとしても、何処まで決まりを守ってくれるか……」

「エムツーの事を気にしてるのか?」と、ウパロ。「エムツーの件も、もう半年も前の事だし、そもそも、エムツーとサブターナは違う個体だよ? 考え方だって違う。現に、サブターナは実に理由の分かる利口な子じゃないか」

「だから恐ろしいの」と、アナンは言う。「サブターナは、知識を使う事を恐れない。エムツーとは違う方法で、理由を知ってしまう事だって考えられる」

「知られちゃならない理由もないだろ?」と、ネヨハが言い出した。「何時かは知らなきゃならない事だ。子供の内から、ある程度知っておく必要もある」

「アナン。貴女に自信がないなら、私から話をしましょうか?」と、リリスは言う。彼女は、話術に魔力を用いるのが得意だ。

 理由を知られるにしろ、教えるにしろ、何処かは誤魔化さなくてはならない。そう考えて、アナンは自分が「選ばれた双子」に対して、必要以上に誠実であろうとしているのに気づいた。

 人間めいた感情に囚われるなんて、と結論を出すと、スッと心は落ち着いた。

 そしてアナンは言う。

「リリス。頼んだわ」と。

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