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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集4
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雨の日だって好いもんだ4

 相変わらず外は雨である。傘を片手に、あの頃のメンバーの中から、アヤメとタイガとルイザとシノンが集まって、ガルムの「材料の買い出し」に付き合った。

「この方達は?」と、基地の玄関で待ち合わせていたガルムはアヤメに聞く。

「アンの知り合い。言ってた通り」と、アヤメ。

「はっじめまっしてー。俺、シノンってーの」と、シノンが陽気に声をかける。「いやー、きょうだいってのは似るもんだねー。髪が長かったらアンちゃんそっくり」

「男の子に対しては『女の子に似てる』は失礼じゃないの?」と、ルイザがツッコミを入れる。「私はルイザ……って言っても、何処かで聞いたことあるかも知れないけど」

「この基地で、ルイルイを知らない男は居ねーよ」と、シノンはルイザにグイッと一歩近づく。

「シノンさん。紳士の距離を保たないと、肘鉄が飛びますよ」と、タイガがルイザとシノンの間を分ける。「ガルム君。久しぶり」

「あ。ああ、タイガさん」と、ガルムは緊張を緩めたような表情をした。

「それでは、みなさん、買い出しに行きましょう」

 普段は無口なアヤメが、率先して指揮を執る。先に歩き出し、基地の塀の出口へ向かう。

「へいほー」と、肩に傘を預けたシノンがふざけた返事を返して歩き出し、「よーし、行こう」と言って、ルイザお姉さんとタイガお兄さんが傘を開くガルムを待った。


 繁華街の雨を避けられるアーケードで、ガルムはメモに書いて来た「足りない材料」を買い集める。

 普段は重たさでそんなに量が買えないのだが、四人の大人の手を借り、割と多めの材料を買う事が出来た。

「グラニュー糖って思ったより軽いんだね」と、砂糖の袋を5つ紙袋に入れて持たされたタイガが言う。

「普通の砂糖より、湿ったりしないからかも」と、ガルムは答えた。

「湿気が無い分、軽いのか」と、タイガが返すと、「じゃあ、俺の方一本持ってくんない?」と、一リットル入りの牛乳瓶を片手に六本持っているシノンが言う。「片手に六リットルは、結構くるぜ」

「十リットル持ってるわけじゃないから、行けるでしょ?」と、かさばる小麦粉と膨らし粉を持っているルイザが、意地悪な笑顔を浮かべる。

「ああん。ルイルイの悪魔!」と、シノンは悶えた。

「あの牛乳、全部お菓子で使うの?」と、聞くアヤメは、ゼリー粉やクリームチーズやチョコレートやバターが、雑多に入っている紙袋を片腕に抱えている。

「いいえ。仲間内で、今度『ごった煮会(シチューパーティー)』をしようって言う話が持ち上がってて、僕が牛乳を用意する係なんです」と、ガルムは答えた。

「何々? シチューパーティー? 俺も参加したい」と、シノン。

「はい。まだ参加者はそんなに居ないので、大丈夫ですよ」と、ガルム。

「タイガ坊やも参加しようぜ。男達で鍋をつつき合おうぜ」と、シノンはノリノリだ。

 肩をバシバシ叩かれているタイガも、そんなに悪い気はしないと言う風だ。「あー、そうですねぇ……。ガルム君、本当に余所者が参加して良いんだったら、仲間に入れてくれる?」

「余所者なんて」と、ガルムは慌てたように返した。「その、同じ基地に居る人だし、タイガさんは、どちらかと言うと知ってる人だし……」と、変な事を言い出す。

「そうそう。俺等は一つ屋根の下にいる家族だぜ?」と、シノンは調子に乗る。「じゃぁ、俺とタイガ坊やの皿とスプーンも用意しておいて」

「はい」と、受け答えたガルムの背後から、突風が吹いてきた。咄嗟に傘の柄を掴むと、肩にかけていた傘が、ものすごい勢いで反り返る。風が過ぎ去る頃、傘の骨はバキバキに折れていた。

「おお……」と、その場に居た全員が声をもらす。

 ガルムは片手に、やはり色んな細かい材料がいっぱい入った紙袋を下げており、濡れて帰れる状態ではない。

 そして、ルイザとシノンとタイガは、自分の隣に大荷物を持っている。

「ガルム。アヤメの傘に入れてもらいなさい」と、ルイザが指示を出した。

「え。でも……」と、ガルムが何故かビクビクしていると、「恥ずかしがらない!」と、シノンがでかい声で言い切る。「男と言うものは、こう言う時、恥ずかしがらない! 恥ずかしがられる方が気まずいんだからな」

「はい!」と歯切れよく返事をしたガルムは、常の軍人意識を取り戻し、「失礼します」と一礼して、アヤメの傘の隣に入る。

 アヤメとガルムは身長がほとんど同じくらいで、傘に包まれている、ちょこんとしたカップルが出来上がった。

「はい、カワイイ!」と、シノンが余計なことを言ってから、ルイザが「じゃぁ、帰ろう」と、アヤメの代りに指揮を執る。

「アヤメさん……。えと……すいません」と、ガルムは歩きながら何故か謝る。

「そこは謝る所じゃない」と、アヤメはクールに返した。「本当、すぐ謝る所もお姉ちゃんとそっくりだな」

「だって、何か……。馴れ馴れしいと言うか……」と、ガルムが言葉を探していると、「そう言う発想がそっくりなんだよ」と、アヤメは揶揄うように言う。そして、何かに気づいたように、近くにいるガルムをじっと見た。

 それから、先を歩いているタイガが、隣にいるシノンと会話をしている横顔を見て、アヤメは納得したように何度も頷き、口元を緩める。

「そうか。似てるんだ」と、謎の呟きを残し、アヤメは満足した笑顔を浮かべて黙った。


 アンがタイガに対して気軽に接していたのが、ガルムに似ているからだと言う一つの結論は、アヤメの心の中でまとまったまま、口外されることは無かった。


 後日、夫々の知り合いを集めて開催されたシチューパーティーは、コナーズが持って来た「スルメイカ」とか「タコ足」とか「昆布巻き」とか「カマボコ」とかの変な食材のせいで「闇鍋パーティー」と化すのだが、みんなで「くちゃくちゃ噛まないと噛み切れない食材」を食いながら、それはそれで楽しく過ごしたと言う事である。

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