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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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29.エデンの島

 クオリムファルン全土を使って仕組んでいた、四方陣の一方が、完全に機能を失ったと、エムツーとサブターナは聞かされた。

 二重の四方陣が完成すれば、この島国の大半を「魔神達も生きて行けるエデン」に作り替えることが出来たはずなのに。

 地中から溢れさせていた、「向こう側のエネルギー」が、新たに二ヶ所で封じられたのだ。

「時を遡ると、四年前の、北の鉱山を封じられた事が重大だ。あれに代わるエネルギーを発生させられなかった」

 そう発言し、会議の指揮を執っているのは、ぬめぬめと形を変える黒いゲル状の生物だ。エムツーとサブターナは、その生物がとても高い地位にあると知っているため、顔や姿勢が緊張して強張っている。

「古い人類達は、四方陣の一方を封じるだけでは、満足しないだろう。彼等はこの陸塊の『完全なる支配』を目指しているからだ。自分達が『大地の赤子』を育てているとも知らずに」

「ユニソーム」と、エムツーが呼び掛けると、ゲル状の生物は「目玉」らしいものを、エムツーのほうに向けた。エムツーは尋ねる。「大地の赤子が育ったら、僕達は滅びるの?」

「いいや。育たせない」と、ユニソームは不定形な体を震わせながら答える。「今も、大地の赤子とは、地上での生存権を争っている。大地の赤子は、自分が内包するためのエネルギーを欲している。我々が必要とするエネルギーと、同種類の物を」

 サブターナも疑問を口にする。「古い人類が、大地の赤子に滅ぼされた後で、私達の住む世界を作ることは出来ないの?」

「エネルギーと言うのは、常に有限なのだよ」と、同席した男性の魔神が、ユニソームの代りに言う。「大地の赤子は、星ごとエネルギーを食いつくす気なんだ。奴が完全に育った後では、我々は地上で呼吸する事も出来なくなるだろう」

「そう……」と、サブターナは呟き、口を閉じる。

「それじゃぁ、僕達は、どうすれば良い? 古い人類と戦う? それとも、大地の赤子を攻撃する?」と、エムツー。

「攻撃は、何度も仕掛けている。雷と、風と、水によって」と、ユニソームが答える。「しかし、大地の赤子も雷と雨を操る。古い人類達には、彼等の愚かさを知ってもらう必要がある」

「愚かさ?」と、エムツーは復唱した。

「エムツーよ。怖い夢は見るか?」と、ユニソームは聞いてくる。エムツーは首を横に振る。半獣の姿をした魔神が、「サブターナは?」と聞く。

 サブターナは少し視線を伏せ、「時々見る」と答えた。「みんなが、蒸気みたいに消滅しちゃう夢」

「それを毎日見るようになったら、どうする?」と、ユニソーム。

「寝不足になっちゃう……」と、もじもじした様子でサブターナは答えた。「怖くて、途中で目が覚めるから」

「それを奴等にも見せてやろう」と、威厳深くユニソームは言い切る。「少し『向こう側』のエネルギーを使う事になる」

「夢が怖くてぇ、私ぃ、目が覚めちゃぁ~う」と、エムツーがくねくねしながら、本人には絶対に気に入らないはずの気持ち悪い女の子の()()()をしてみせる。「それでぇ、寝不足なのぉ~ぅ」

 サブターナは、「やめてよ!」とかなんとか言う前に、エムツーの頭に、思いっきり拳骨をぶち込んだ。

 エムツーは、自分から仕掛けた嫌がらせなのに、「痛い! 殴った!」と文句を言う。不当な扱いを受けたとばかりに。「先生! サブターナが殴った!」

 同席した、教師である半獣の魔神が、「殴られることをしたからよ」と、優しく唱えた。


 新たに獲得した二件の「勝利」は、クオリムファルン国内の数箇所にある、夫々の基地の軍人達を安心させていた。四方陣の一方を完全に封じた事で、最悪の事態は免れたか、もしくはその事態に至るまでの期間が延長された。

 ハウンドエッジ基地の一部でも、ガルム・セリスティアとアンナイトの働きにより、邪気を完全に封印し除去できた、先の鉱山跡での功績は陰ながら讃えられている。

「ガルム」と、別の部屋の数名の同僚達が、廊下で主役を捕まえた。「お前、甘いもの好きだろ?」

「いや、苦手ではない程度だけど」と答えると、その同僚達は「後で良いもの持って行くから、部屋で待ってろよ」と囁く。

「分かった」と言って、ガルムは居室に戻った。が、いつのタイミングで、同僚達が何を持ってくるのか分からないので、気軽にシャワールームには行けない。

 シャワーは明日の朝に使う事にして、一応服だけ部屋着に着替えた。引きずらない程度のゆったりさのボトムスと、フード付きトレーナーに。

 そこに、難しい顔をしたノックスが戻ってきた。テーピングされているのに太っている右手の四本の指先を、上に立てたまま。

「いってぇ」と、ノックスは挨拶も無く、だしぬけに愚痴る。「なんであそこで手が滑るかな~?」

「どうしたって?」と、ガルムは、大体想像は付くが聞いてあげた。

「ナイフの手入れしてたら、刃先が砥石にトゥルン! ってなって、ナイフが百八十度回転して、指先にザクッとな」と、ノックスは、恥ずかしいのか、ふざけているのか、笑い混じりに返してくる。

「なんで治癒してもらえなかったの?」と聞くと、「いや。状態回復はかけてもらったんだけど、何故か鬱血が止まらんのよ」とノックスは言う。「なので、このテーピングの下で膨らんでるのは、ガーゼではなく、肉です」

「何処かの毛細血管が繋がって無いんじゃない?」と言って、ガルムはノックスのテーピングで融合している指先を、恐らくちょっと傷むだろうと言うくらいの力加減でつついた。

「痛っ……くない」と言って、ノックスは不思議がる。膨れ上がっていたテーピングの指先を押すと、クシュッと粘着布が縮む。触れても痛みが無いので、「え? 何? なんかしてくれた?」と、驚いている。

「いや、嫌がらせで突っついただけだけど」と、ガルムは真実を言う。

 ノックスは何度か、テーピングの上から指先を触ってから、思い切ってテープを外してみた。

「治ってる」との事だ。

「ホントにお前、何もしてない?」と聞いてくるので、「嫌がらせをしただけ」とガルムは答える。

 術師の意思がないのに「治癒」の術が発動するはずも無いし、何が起こったんだろうと、二人は首を傾げた。

 そこにゴンゴンゴンと言う、ノックが聞こえて来て、「どうぞ」も言う間もなく。外側からドアが開けられた。

「功労賞ー!」と言って、さっきガルムを呼び止めた兵士達が、でっかいシフォンケーキと、お菓子が大量に入った紙袋、それからジュースの瓶を持って乱入してきた。

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