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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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25.魅力的な彼女の

 染めたような鈍い青色の髪を持つ、碧眼の少年は、名をトーラと言う。龍族の血を引いており、人間の姿とドラゴンの姿を、使い分けることができる。

 彼は好んで少年の姿をしているが、年齢は四桁を超える。アン・セリスティアが、異国の組織を潰そうとしていると言うので、協力するために大陸を移動中である。

 縮力列車で、のんびりと。

「本当、ちんたらしてるよな」と、良い所のお坊ちゃんのような、黒のスリーピースを着た少年は、窓に肘をかけ、頬杖をついて言う。

「『普通』に移動するわけには行かないんだから、仕方ないだろ」と、目の前の席の魔女は言う。彼女の名はシェット。変化(へんげ)ドラゴン達が集まる時は、何時も自分の体の周りに巨大な蛇を纏っている。その蛇は、シェットと契約してる龍族の一種である。

 今のシェットは、胸元がだいぶ開いたヒラヒラのドレスを着て、暑苦しくない薄衣のボレロを羽織っている。ドラゴンに変化できる蛇は、彼女の持っている鞄の、小さな小瓶の中で睡眠中だ。

 シェットは人間で、若い女性の姿をしているが、やはり年齢は四桁を超える。

 彼女とドラゴンは、出会った当時に争いに巻き込まれ、互いが生き延びるために魂を分け合ったのだそうだ。

 そんな事を思い出しながら、トーラはメリュジーヌの「セリスティア」への信頼と依存度は、重症だと認識していた。

 今でこそ、龍の姿と人間の姿を自由に変化できるメリュジーヌであるが、セリスティアと出会うまでは「永遠にドラゴンで居なければならない呪い」にかかっていた。

 かつては、特定の日に下半身だけが蛇に変化し、その姿を見られたときに龍化が固定されてしまうと言う複雑な呪いを受けていたのだ。そして、当時の夫に半身が変形(へんぎょう)した姿を見られ、龍化が固定された。

 セリスティアは、メリュジーヌの体にかけられた魔力的な因縁を追って行き、呪いの解除に成功した。

 しかし、完全に呪いを追い出すことは出来なかった。その代わりに、呪いを本人の意思でコントロールできる余地をくれた。

 それからメリュジーヌは、ドラゴンとしての力を使い、ある海沿いの国を襲っていた海の怪物や、他国の海賊を退けるようになった。その働きがこの十年足らずで人間達に認められ、「海の女主人」と呼ばれる地位を手に入れた。

 メリュジーヌはルックスで得してるよな、とトーラは物思いに耽ってみた。

 ドラゴンに変化しても美しく、人間の姿になった時はグラマラスな特級の美女だ。どちらの姿も美的な妖精なのだから、人間は彼女に「魔性」より「神聖」を感じるのだろう。

 人間の姿をしている時のトーラは、皮膚の色が少し浅黒い整った容姿の、自分で思うにも美少年を繕っている。しかし、ドラゴンの姿になると、顔中に気泡のような皮膚のふくらみが出来て、其処から毒液と炎を噴き出す……と言う、決して美しいと言えない容貌になってしまう。

 だからこそ、完全にドラゴンに変化して戦うのは好きじゃない。龍化は羽と胸の下までの、部分的な変化だけに留めて、顔から毒液を噴き出すのは避けている。

 それにしても、セリスティアの手助けと言うのは、どう言う事をすれば良いのだろう。メリュジーヌは、セリスティアが「戦いに行った」とは言っていなかった。

 ゲオルギオス協会に何かをして、ドラゴンに対しての敵意を削ぐのかも知れない。すごく怯えさせるとか、すごく驚かす? と、トーラは考えたが、そう言う事をすると、一部の人間はかえって「ドラゴンは敵だ!」と言って、元気になってしまう。

 どんな手を使うんだろうと思いながら、ちょっと横を見た。他の旅の連れ達が、人間の商人からお茶を買って渇きを癒している。

「僕にも一つ」と言って、トーラは金属硬貨を一枚、商人に渡した。


 現地に着いてみて、セリスティアと待ち合わせて直接話を聞くまで、三十六時間が経過した。一日半を移動に費やしたが、龍族達はけろりとしているし、霊体のセリスティアも疲れている様子はない。

「まぁ、平和的な作戦を考えてみたんだけど」と言うセリスティアから、「ドラコニットにそっくりの物質は作れる?」と聞かれた。

「そう言うのはバネッサが得意だよ」と、トーラは、指が数本無い手を手袋で隠している、老女の姿の龍族を手で示す。

「それで、そのドラコニットもどきをどうするんだ?」と、シェットも聞く。それはみんな聞きたい質問である。

 セリスティアから、平和にゲオルギオス協会を乗っ取る作戦を聞いて、龍族達は「ほー」と言って頷いた。そう言う風に意識を操作すると、人間はそう言う考え方もするんだな、と言う所に感心したのである。

「積年の恨みを晴らすには、機会が悪いな」と、眼帯をしている男性の姿をした龍族が言う。「未来の方向を考えたら、セリスティアの作戦のほうが有意義そうだ」

「ご理解ありがとうございます」と、アンは丁寧に答えた。

 その間、バネッサは子守歌のようなものを唱えながら、手袋に包まれた両手を擦り合わせている。ドラコニットを作る時に似た魔力を練っているようだ。

 本来のドラコニットは、龍が額に魔力を集め、その力を宝石のように硬化させて、体の一部として生命力を与えて作る。なので、本物のドラコニットは……取られるとき、滅茶苦茶痛い。石の大きさと、魔力をかけた年月によっては、激痛のあまり、ショック死する龍もいるくらいである。

 そんなドラコニットは、人間の世界ではどんな毒にも効く薬になるとされており、貴重で高価なものとして扱われている。実際人間の体に、どのような影響を及ぼすかは、龍族には理解不能なのだが。

 おまけに、龍からドラコニットを得た者は勇者と呼ばれ、人間の寿命の時間だったら殆ど一生涯、何処へ行っても名前を言うだけで、遊んで暮らせるのだ。

 実際に薬用効果が無くても、名声のために龍から魔力の石を奪おうと考える野心家は、いくらでもいる。

 そんな、希少なドラコニット……もどきは、さっくりと五分くらいでバネッサの手の中に現れた。

「はい。使う時はあなたの魔力を込めてね」と、バネッサは言いながら、セリスティアに脈を打つ石を渡す。「人間をそそのかすなら、人間の魔力のほうが『それっぽく』みえるから」

「お手間をかけます」と言い、アンはバネッサから受け取った黒い石に、霊体の持っている魔力を注いだ。詳細な詮索をするほど、魅力的な術にかかるような魔力を。

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