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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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22.龍成る妖精とゲオルギオス

 メリュジーヌの屋敷に、老いも若きも、ドラゴンへの変化(へんげ)の能力を持った妖精達が集まりました。小さな妖精とは違って、人間ほどの体格の、肉体を持っている者がほとんどです。

 中には、布で隠した額に石を持っている者や、同じく布で額の三つ目の瞳を隠している者も居ます。ドラゴンそのものになる者の他、自分の使役している動物を、龍に変化させる能力を持った者も居ました。

 会議のためにホールに集められた龍族達は、テーブルの上に乗せられている羊皮紙の世界地図を見ています。その世界地図の中で、一点の青い光が、大陸の上をじりじりと東に進んでいるのです。

 やがて、奥の間から響いてくる靴の踵の鳴る音に、みんな耳をそばだてました。

 数分も待つことなく、海の女主人が姿を現しました。メリュジーヌは、庶民にとってはとても平服に見えない、素材の軽い襞の多いドレスを着ています。それが彼女の普段着なのです。

 メリュジーヌは、片手にステッキを持っていました。何かの術のための杖と言うより、唯、地図を指し示すだけのステッキのようです。

「今日は、私の『若い友人』のために、集まってくれてありがとう」と、メリュジーヌは言います。「皆の安全に関わる事だと言う旨は、伝わっているか?」

「ゲオルギオス以外の、我等の天敵と言うと?」と、老兵士の姿をした人物が言います。

「星を食おうとしている赤子が居る」と、メリュジーヌは語りました。「神なる者に成り代わらんとする輩だ。星の核を食い、力を蓄えて、地上に這い出ようとしている」

「人間の神が変わったところで!」と、笑う者も居ます。「我々に何の不利益がある?」

「その『人間の神』が、狂っていたとしたら?」と、メリュジーヌは説き伏せました。「万物の基礎となる者が、狂気の中に居る存在であったとしたら、この星の秩序が覆されるのは確かだろう」

「でも」と、今度は少年の声がしました。「物理的な法則が変わらなければ、この世界で龍が生きることは可能だろ?」

「硫酸の雨が降るようになってもか?」と、メリュジーヌは威圧的に説きます。「今、星に成らんとして居ている者は、それすらもやりかねない」

「メリュジーヌ。その情報は、セリスティアから?」と、女性の声。

「その通りだ。彼女はもう動いてくれている」

 そう告げたメリュジーヌは、テーブルの上に置いてあった地図の、移動する青い点を、杖で示しました。

「セリスティアは、大陸東部へ、ゲオルギオス協会の制圧に向かった。しかし、今の彼女は霊体だ。そして朱緋眼を失っている。彼女の手助けに、手を挙げる者はいるか?」

 メリュジーヌがそう言うと、さっき「でも」と言い出した少年が、挙手しました。「僕が行く。星を食おうとしてる者についても、セリスティアから直接話を聞きたい」

「私も行く」と、体に蛇を巻き付けている女性も言います。「ゲオルギオスとは因縁がある」

「他は?」と、メリュジーヌが聞くと、ホールに集まっていた者達の中で、数名が手を挙げました。どれも、ゲオルギオスを好く思っていない妖精達です。

 手を挙げた者達は、片目に眼帯をしている者や、片手の指が数本無い者、牙の一部が抜けている者でした。彼等は強力な魔力を以ても治癒できないほどの痛手を受けたことがあるのです。

 何せ、ゲオルギオス協会の狩人達は、龍達に体の一部を取り戻させないために、素材を手に入れたら「状態回復」と同じ種類の術をかけられないよう、素材に封印(シール)をしてしまっていたのです。

 自然治癒力に任せても体を治せなかった者達が、先の体の一部を欠損した龍族達でした。


 龍の鱗をはぎ合わせて作った楯、龍の角を先端に取り付けた槍、鋭利な牙をそのまま使ったナイフ、骨から削り出した細身の長剣等々、ドラゴン関係の商品が並ぶ店頭に、物珍しい物を吟味しに来る客は後を絶えません。

 新しい文明である圧縮機関製品でも、まだドラゴンの鱗より硬く軽い素材は作れていませんでした。

 ドラゴンの角の強度は鉄で作る槍の何倍もあり、牙のナイフは鋼鉄と同じ強さを持っているのに難しい手入れをしなくても、水でさっと洗えば切れ味を取り戻します。骨から削り出した剣は軽く丈夫で、女性の愛好家も多かったのです。

 無駄のないシックな服装の若い女性が、真っ二つに折れたドラゴンの骨の長剣を、武器屋に持ってきました。その手は鍛えられており、どうやら武芸を嗜む、何処かのお嬢様のようです。

「折れてしまってるけど、商品価値はある?」と聞いてきます。

 武器屋はしっかり吟味してから、刃の中ほどから折れているだけなので、短刀二本に作り替えられそうだと目星をつけました。

「ご安心を。多少相場より安くなりますが、買い取れますよ」

「じゃぁ、お願いするわ。それから、新しい刃を試してみたいのだけど」

 お嬢様がそう言うので、武器屋は幾つかのドラゴン製品を持って来て、交渉を始めます。

 そんな様子が、「ゲオルギオス協会」に加盟している店舗でのやり取りでした。


 その昔、龍狩りの名手に、ゲオルギオスと言う人物がいました。伝説化されている彼の物語の中でも、人々を困らせていた恐ろしいドラゴンを、槍で「退治した」と言う話がたくさんあります。

 その人物の名を付けられたギルドが、ドラゴンハンター達の集まる「ゲオルギオス協会」です。

 かつては「名だたる勇者」達の集まりとされていたゲオルギオス協会ですが、今では薬や武器や工芸品を作るためのドラゴンの体の一部を集めるだけの、一般のギルドとそう変わらない仕事をしていました。

 もちろん、そのギルドに登録しているからと言って、「真っ向からドラゴンと戦う事に意義を見出す」と言う必要はありません。龍族達が人間に化けている時や、眠っている時、もしくは薬や煙で麻痺させた状態で、目当ての体の一部を切り取ってくれば良いのです。

 素材と呼ばれるドラゴンの体の一部が手に入れば、ギルドからは報酬が支払われ、素材は調薬師や鍛冶屋や工芸師に売られて商品になり、その商品を求める者達に販売されます。

 ドラゴン達が何処かに集まっていると聞くと、「ゲオルギオス協会」の人間は何処からともなく嗅ぎつけて来て、彼等にとってはお宝の山である、ドラゴン達の体を引き裂く機会を狙うようになるのです。

 幸い、メリュジーヌの屋敷での会合は、知られることは無かったようですが。

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