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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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19.祭りの意味

 外では、ウルフアイ清掃局員達の張った結界の上から、レオスカー清掃局の術師達による「封印」が成されている。生物や魔性の者、そして悪性の魔力は外に出れないだろう。

 ガルムはちょっと考えた。

 神気体は通れるかもしれないけど、救助した者をどうやって運び出そう、と。

 そこで、坑道の内部に留まったまま、外に居るはずのレオスカー清掃局員に連絡を取った。通信を起動し、名を名乗り、一秒で良いので封印を緩めてくれと頼む。

 国内各所の強邪気汚染地帯を清掃し続けて来たレオスカー清掃局員も、強邪気発生源に「人間」がいるとは思っていなかったようだ。

 実際、タイミングを決めて一秒だけ封印を解いてもらい、神気体が瞬間的に移動する時と同じ方法で、一気に人質達を外に送り出した。

「全員、意識を操られるタイプの魔力感化と、強邪気による邪気罹患にかかっているので、病院に運ぶ前に浄化します。皆さんも、その人達に近づかないで下さい」

 ガルムは一斉通信でそう頼んでから、神気体を最初に着地させた位置に戻した。

 突然、真っ白い、背に羽のような腕のある青年の霊体のようなものが目の前に現れると、事情をぼんやりとしか知らないレオスカーの清掃員達は「おお」と声をもらしていた。

「君が、ガルム・セリスティア?」と、近くに居たレオスカーの清掃員が聞いてくる。「その術は何だい?」

「ガルムは僕です。それから、術の事はトップシークレットです」と、サクサク答えて救助者のほうを向く。「じゃぁ、浄化します」

 魔力を練る事も無く、神気体が両手を広げて前に突き出しただけで、浄化エネルギーが広がり、救助者の体から青白い光が煙のように立ち昇る。

「これで大丈夫です。それでは、救助者の病院への搬送をお願いします」

 そう言ってから、ガルムは清掃局員達の方を見て姿勢を正し、敬礼をして「それでは、本機は帰還します」と述べ、神気体を雲の中に隠すように空に引き上げると、アンナイトのエネルギー照射を停めた。


 実際に、長時間、実働現場でアンナイトを操作してみて、ガルムは思った。

 座る部分の角度が悪いせいか、長時間体を縛り付けられているのと同じ状態にあったためか、坐骨神経痛になりそうだと。

 アンナイトが「就寝」した事に気付いた整備士が、「お疲れ」と声をかけて来る。

 ガルムはイヤホン付きのゴーグルを外し、「チーフ」と、整備主任に声をかけた。「椅子の角度が変えられるようになりませんか?」

「うん……。多少は体の動きを取り入れるように、調節してみる」と、整備士は案外あっさり意見を飲んでくれた。

「結構、簡単に調節できたりするんですか?」と聞いてみると、「いや、今回の操作中に、かなり身体がガタガタ揺れてたから。相当辛いんだろうなって思ってね」と、整備士は返す。

「今のままだと、戦闘向けでは無いですね」

「今回、戦ってたんだ」

「いや、攻撃を避け続けていたと言いますか」

「ああ、避けるだけで、あれだけ負荷が掛かるんだね」

 そんな会話をして、ガルムはアンナイトの改良点を整備士に伝えた。

 どれだけ負荷がかかっていたかは、操縦の様子を間近で観ていた整備主任のみぞ知る、になったが。


 強邪気発生地点には、人間が囚われている可能性が出てきた。

 その推論から、軍はレオスカー清掃局の人員を連れて、三度、東部森林地帯の要岩を調べた。軍人達も呆れたが、またしても要石は砕かれている。

「どれだけ命中率が良いんだ」と、誰となく雷に対して愚痴をこぼした。

 レオスカーの局員の中でも、精神感応能力に優れている者がいた。名前はネリア。

 彼女は、かつてのドラグーン清掃局の騒ぎが公的に発覚する前に、いち早くレオスカーに所属を変えており、経歴には汚点が無いとされた。

 そんなわけで、ネリアはその能力を以て、地面の下に人間がいないか探る事となった。

 現地に着いた時から、ネリアは「多数の人間の意識がざわめいている」と直感した。恐らく、地下の数十メートル下には、人間が集まって騒げるほどの空間がある。

 そこで、たくさんの思考が「眠り」についている。

 ネリアは、それを隊に伝え、地下空間に居る人間を救出できないかと提案した。

「何処かに、入り口があるはずです」と言うネリアの言葉から、要岩のある岩石地帯が広く調査された。


 要岩の地下から運び出された人間達は、極度の邪気侵食により、皆「通常の意識」は維持できていなかった。

「仲間達のために祈らなければならない」と口走る者も居れば、実際に祈りのためのに舞い踊る者達も居た。踊る者は次第に憑依状態になり、奇声を上げたり咆えたりしていたので、鎮静の術で眠らされたまま、意識の中の興奮を抑える治療が成された。

 そんな人間達の中に、モニカ・ロランが居た。彼女は比較的理性を維持しており、憑依状態になったりはしなかったが、救助されてしばらくの間、「大地の赤子を起こしてはならない。守らなければ。祭りを続けなければ」と述べていた。


 魔神達は、邪気噴出地点を、何者かから守っていた? と言う新しい仮説が出てきた。それならば、現在封印されていると言う、魔神達が活動して居なかったらどうなるのか。

 ガルムとアンナイトの集めた情報から、魔神達は「アダムとイブ」を育てるために、邪気を利用しているらしいと推測された。

 異空間から放たれる邪気を、イブにあたる少女は「向こう側のエネルギー」と呼んで居た。

「『向こう側』のエネルギーを嫌うのね。貴方は『エデン』の敵だわ」

 そう言っていたイブの言葉と、双子の間で交わされたボソボソ会話、そして彼等を連れ去った生き物の存在から推察するに、「アダムとイブ」になるであろう子供達は、神気を帯びた存在――恐らく魔神――からの庇護を受けていたのだろう。

 エデンと言うのが、組織の名前なのか何なのかは分からないが、重要なキーワードであるとされ、参謀達に告げられ、中枢システムに記録される他、通信兵達の共有データの中に保存された。

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