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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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17.囁き声と緋色の瞳

 ほとんど迷路と言って良い坑道内を、邪気を浄化していない場所を目印に進んで行く。所々、落盤している所を避けて、更に下の穴に潜ったり、壁際ギリギリを伝ったりしながら。

「歩行距離、千メートルに到達。蓄積エネルギー、充填完了」と、アンナイトのアナウンスが、ガルムの耳元と、管制室に響く。

 ある程度の広さがある場所を見つけ、ガルムは腰を落として、右手の甲に左手を押し当てて衝撃に構え、真っ青な光で燃え滾るように光っている右手を、空間軸の歪みがあると言う箇所の直線方向に向ける。

「それじゃぁ、実用実験、開始」と、合図を出した。

「変換エネルギー、開放」

 アンナイトの声と共に、青白い光を放つエネルギーの塊が、ガルムの操っている神気体から離れた。

 物質を壊せるほどの威力を持ったレーザー光線のように、狙い定めて(ほとばし)る。

 この技の実験は試運転の時に何度もやったが、神気体のほうも構えていないと物凄い反動が来る。

 構えていても、操作盤を握っている手指と、魔力吸引でシートに縛り付けられている体に力がこもった。手首と足腰への衝撃を堪え、蓄積したエネルギーを放出しきるまで持ちこたえた。

 一息、ふぅと息を吐く。

 封印のためのエネルギーと言っても、圧縮し続けた結果、何枚か壁も砕いてしまった。

 ガルムはそれによって落盤が起きないか天井を見回したが、研ぎ澄まされたエネルギーは、壁一面を壊す事は無かった。だが、その奥の方で、何かが崩れるようなズズズズと言う音が唸る。

「空間軸異常の閉塞を確認。接近可能範囲拡大」と、アンナイトの冷静な声が聞こえる。

「了解。邪気の発生原因も調べておこう。清掃局の皆さんも十分時間が取れただろうし」と言って、ガルムは一度、ちらっと外の方を見た。

 人間の術で言うなら透視の力で、ガルムは外の清掃員達が術式に十分な魔力が練れていることを確認した。

 その情報も踏まえ、アンナイトは「提案を了承」と応じた。


 余計な歩行距離を稼がなくてよくなったので、出来るだけ短距離を通って、ガルムは邪気の発生していた「空間軸の異常地点」に近づいて行った。

 少し近づく度に、子供の声が聞こえる。

「こっちに来るね」

「そうだね。来るね」

「どうしようか」

「どうしようもないよ」

「みんなはどうしようもないよね」

「私達が話をしよう」

「代表として?」

「そう言う事」

 そう囁き合う声が、ぼそぼそと。


 人間としてカウントされている中に、子供がいるのかとガルムは察した。

 そして、さっき闇の中で見た「緋色の四つの瞳」に近づいて行っているのが、同じ目を持つ者として感じ取れた。

 ガルムの脳内で起こっている「外部取得情報」も、アンナイトは追跡し、記録保存している。

 管制室の中は静かだが、その部屋で兵器の情報を見守っている参謀達は言葉を抑えていられなかった。

 なるべく騒がないように参謀達は言葉を交わす。

「朱緋眼保有者が複数いると言う事か」

「ホーククロー清掃局からの報告通りだな」

「『アダム』と『イブ』の存在か?」

「そうだ。恐らく、まだ器は手に入れていない」

「子供の声だからな」

「朱緋眼を浄化する事は可能なのか?」

「前例がない」

「しばらく動きを見よう」

「レオスカーからの人材は?」

「間もなく到着するはずだ」

 そう言う囁き合いを、ぼそぼそと。


 邪気に邪魔されなくなった空間を、熱感知や反響作用等、光以外の情報で観察しながら、ガルム達は大規模な落盤を起こしている階層に踏み込んだ。

 通路なのか、資源を求めて掘り進んだ結果なのかは分からないが、足元が大々的に罅割れて、更に遥か下にある空間を掘り進んだ跡まで見えている。

 その落盤の中の、まるで掃除をされたように綺麗になっている広い床の中央に、不思議なものがあった。

「扉?」と、ガルムは語尾を上げた。

 ガルムの目には、がっちりと閉じられた、古い金属製の両開きのドアが見えている。それは、さらに下の地面に向かって埋まっているようだった。

「ガルム・セリスティアの視界に『物質外物質』を確認。空間軸の異常は『物質外物質』の向こう側に存在する」と、アンナイト。

「つまり?」

「私の機能では、ガルム・セリスティアの視野に映るものを把握出来ない。脳内処理情報を参照する事で、観察を実行」

「あの扉は、物質的な物ではないのか」と、ガルムは納得する。そして聞いてみた。「何の力に属するものかと言えば?」

「高純度の神気」

「うーん」と、ガルムは唸り、「触らないほうが良さそうだな」と言うと、アンナイトは「変換エネルギーにより、既に封印されている」と答える。

「それじゃぁ、僕達が出来るのは此処までか」と言って、ガルムは一度、ぐるりと辺りを見回した。

 よく見れば、崩落している階層の下の空間に、百人程度の人間が、無気力にうずくまっている。屍と呼ぶには小奇麗で、もしかしたら、意識を失っているだけなのかも知れないと察せた。

 落盤地点の全体の様子をアンナイトに記録させてから、「要救助者を発見。救出作業を」と述べると、「先に、封印直後の音声の発生源を確認する事を勧める」とアンナイトは言う。

「ああ、そう言えば……子供の声が……」

 そう言いながら、もう一度辺りを見回すガルムの視界に、また緋色の瞳がちらついた。

 一瞬見えた方向を見定めると、今度は、透視や霊視ではなく、通常の視覚として彼等が見えた。

 白いシャツとサスペンダー付きのズボンを身に纏った男の子と、膝丈のワンピースを着ている女の子。

 彼等は双子のようにそっくりで、その両目は魔力的な視力を持ち、緋色に輝いていた。

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