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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
第四章~女神の矢の射る先に~
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16.八ヶ所目の惨事

 ナズナの術で邪気が抑え込まれている間に、清掃員達は坑道内に「清浄化」の術をかけて回っていた。しかし、奥へ進むほど、押し返すように濃度の濃い邪気が溢れてくる。

 数人がかりの術で抑え込んでも、圧縮された力が跳ね返り、十メートル押し込んでは、数秒間で結界の位置が数メートル後退する。

 濃度計を見ると、一桁まで抑え込まれていた邪気は、術者(ナズナ)の力が消えていくと同時に、二桁三桁と、見る間に増幅して行く。

「強邪気の発生を確認」と、通信を起動して局員はキャンプに情報を送る。

 現場を観察していたノヴァ・ワルターは、「八ヶ所目だ」と口走った。

 国内で、今まで異常のあった七ヶ所目に次ぐ、八ヶ所目の強邪気地点。「四方陣」を二重に使う術を完成させるなら、確実に必要なポイントである。

 地下から、子供の笑うような声が聞こえてくる。そして、打楽器を叩くような音と、何者かの咆哮。

「誰か居る」と、坑道内部に居た清掃員は呟いた。その途端、その清掃員は呟きが止まらなくなり、顎を押さえても、口を塞いでも、「誰か居る」と呟き続けた。

 自分の身に起こった異常を後方の清掃員に伝えようとしても、「誰か居る」としか言えない。

 そしてその呟きは、次々に別の清掃員にも感染して行った。皆、自分の体が自分の意思でコントロールできないと言う恐怖に憑りつかれ、パニックが起きた。


 ハウンドエッジ基地に、緊急要請があった。

 至急、強邪気に抵抗できる人員の出動を求めると。

 事態は一刻を争い、このまま強邪気の発生が定着してしまえば、人類に害を成す術が完成すると報告された。

 基地の参謀は、「アンナイト」の実用を提案し、呼び出されたガルムは更衣室で素早く着替え、兵器の安置室に向かい、操縦席に座った。


 坑道の中はパニックからの恐怖が渦を巻き始めた。気の早い者は、早々に自決する準備をしたが、まだ言葉が感染していない局員に止められた。鎮静の術で強制的に眠らされ、坑道の中から運び出されてくる。

 眠らせた同僚を運び出していたウルフアイ清掃局員は、光が注いでくるようなエネルギーの発生を見止め、空を見上げた。

 白い光が一閃走る。背に白く光る羽のような巨大な腕を生やし、異国の衣をまとった青年の姿の神気の塊が、ふわりと降り立った。

「着地は成功。任務に取り掛かる」と、青年の姿をした神気は言葉に出して言う。

「着地地点確認。本機は任務の補助に取り掛かる」と、ガルムの耳元と、管制室にアンナイトの声が響いた。


 青年の姿をした神気体は、術の準備をする様子もなく、両手を広げただけで、辺り一帯に「守護」の力を放った。

 その力は広くドームのように拡散され、坑道内とその周辺を覆いつくす。

「アンナイト。フィールドの維持。現地清掃員と情報を交換する」

「確認。フィールドを維持。情報の記録保存を開始」

 それだけのやり取りの後、白い神気体は、声の届く範囲の清掃員に話しかけた。

「こちら、ガルム・セリスティア。ハウンドエッジ基地に所属する兵士です。ウルフアイ清掃局員の皆さんで、間違いないですね?」

 人間のように喋るエネルギー体に、清掃局員達は戸惑っているようだったが、数名が答えてくれた。霊体と同じ者だろうと判断したらしい。

「確かに、私達はウルフアイ清掃局員です。この地点の邪気の除去に来たんですが、手をこまねいていまして」

「濃度千を超える邪気に、対応できる人員と時間が、足りないんです」

「最低限、複数名での術の準備をする時間があれば良いのですが」

 それを聞いてから、ガルムは答えた。

「分かりました。皆さんが術式の準備をする間、僕は邪気を抑えます。それから、強邪気の発生源を調べます。時間はどのくらい必要ですか?」

「少なくとも十五分」と、術式の準備を言い出した局員が答えた。「ですが、もし、三十分もらえれば、私達の能力内で出来る最大値の効果を得られます」

「了解」と、ガルム。「三十分……。状況を保つのと同時に、レオスカー清掃局に人員の派遣を申請します。決して、能力を超える無理はしないで下さい」

「分かりました」と、先の清掃員が答え、仲間に指示を出す。まだ行動できるウルフアイ清掃局員達は、負傷者を搬送する係と、術式の準備をする係に分かれた。


 坑道の入り口に入ったガルムは、押し返しては来ているものの、道の奥にある邪気が、まだ結界で防がれているのを確認した。

「アンナイト。分析は出来る?」

「記録魔力を分析中」と、アンナイトは返事をし、数秒も置かずに答えを返した。

「人間の脳に強力な暗示をかける魔力感化が発されている。坑道内部に多数の魔神と人間の存在を確認。直線距離で千五百メートル先、落盤を起こしている地点を中心に、半径十メートルほどの『空間軸』の歪みが発生。本機の機能を超える可能性があるため、『空間軸』への接触は厳禁。接近可能距離は随時報告する」

「分かった」と答え、ガルムは神気体を操って、坑道の奥に進んだ。

 その神気の通った場所から一定の空間が、自動的に浄化されて行く。黒い煙の性質が変わり、青い光を放ちながら、神気体の右手に集まって行った。


 アンナイトが、歩いた距離と、まだ空間軸までの「接近可能地点」であるかどうかを細かく伝えてくる中、ガルムは四方八方に伸びている坑道の中を進む。

 坑道内には密に邪気が蓄積しており、ガルムの右手に浸透してく光も圧縮され、静かに発光が強くなって行った。

「これなら明かりは要らないな」

 そうガルムが独り言ちると、「視界情報は明瞭」と、アンナイトも応えてくる。

「邪気が発生している箇所は分かる?」と聞くと、「空間軸異常地点内部からの、強邪気を確認。接近は推奨しない」と返ってくる。

「うん。出来れば近づきたくない」とガルムは言って、「遠距離から『封印』することは出来る?」と聞き直す。

 アンナイトからは、「変換エネルギー蓄積完了まで、残り四十五パーセント」との回答だ。

「あと半分か」と言いながら、ガルムは、とにかく歩き回った。

 接近可能地点内で、邪気を浄化し続けていると、一瞬、闇の中に燃えるような緋色を見つけた。

 緋色の四つの瞳が、遠くからガルムを見ている。

「なんだ?」と、ガルムは誰にとなく聞く。その瞳の方向に進もうとすると、坑道内の岩壁にぶつかった。衝撃を受けて、「うわっ」と、ガルムは驚く。

「ガルム・セリスティアの思考内に、『魔力起因異色症』を感知」と、アンナイト。

「何それ?」と聞くと、「捕捉した異色症の症状、多数の魂と邪気を吸収する事による緋色の発色。通称、『朱緋眼』」との返事。

 ガルムは、自分の目と同じ力を持っている誰かが少なくとも二名、こっちを見ているのか、と納得した。

「直線では辿り着けない位置にいる?」と、念のために聞くと、「進行方向を障害物に遮られたと言う事は、その通りである」と言う、少し嫌味な言葉が返ってきた。

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