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ストリングトーンの虹へ向けて  作者: 夜霧ランプ
エピソード集3
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迷子の隠れ家3

 エナが居なくなってから、ニナは急に大人しくなった。

 縄を解かれても暴れる様子はなく、それまでおむつの必要だった排泄も、岩山を降りて森の中で済ますようになった。

 他人の食事を横取りする癖も無くなり、喋る言葉も落ち着いてきた。

「エナは、さんさいのときから、いっしょにいたんだ」と、ニナはノリスと霊媒に話した。「エナがいるようになるまで、ぼくはあかんぼうとしてあつかわれてた。でも、みためがあかんぼうじゃなくなってから、だれもめんどうをみてくれなくなった。それで、めんどうをみてくれるひとを、よびだしたんだとおもう。それが、エナ。

 エナがめんどうをみてくれるようになってから、ぼくはせかいがぼんやりとしかわかんなくなった。それで、いきのびることだけかんがえてたら、あんなふうになってた」

「それで、エナはどうなったの?」と、ノリスは少年に聞いた。

「ぼくのうちがわにもどった」と、ニナは言う。「だから、その……もう、こまらせることはしないから……」

 そう言って、ニナは上目がちになりながら、「ここにいてもいいかな?」と聞いてきた。

「人間に成れる?」と、ノリスは聞いた。

 ニナは頷く。

 その日から、ニナは正式に蜂蜘蛛の住処の仕事を教えてもらう事になった。


 ノリスが、大きな時計塔の目立つ、湖の近くの町に行った時だ。「探し人」の貼り紙が塀に貼られていた。似顔絵に描かれているのは二人の女の子で、何処かで見たことがある。

 黒い長い髪、大きな茶の瞳、当時着ていた子供用の水色のワンピース。そして、目立つ目元の泣きボクロ。

 ササヤとサクヤだ、とノリスは思い当たった。全身図が描かれていないのは、追い立てられた当時の彼女達が裸足だった事を隠すためかも知れない。

 彼女達の両親が、娘を探しているのだろうか? と思ったが、貼り紙に書かれて居た文章には、「探し人。ササヤ・レイマーク、サクヤ・レイマーク。年齢十歳。どちらか一方の少女をご存知でも構いません。ご連絡はヤイロ・センドまで」と書かれ、そのメッセージの下に、遠距離通信用コードが記されていた。

 蜂蜘蛛の住処に帰ってから、ノリスは霊媒に、ササヤ達を探している人物が居る事を話した。

 霊媒はまるで、そうなることが分かっていたように、「サクヤをヤイロと言う人に会わせよう」と提案した。


 サクヤ達を探しているのが怪しい人ではないことを確かめるため、ノリスは町に出かけた折に、街角にある遠距離通信用ボックスで、「ヤイロ・センド」と通信を取った。

 ヤイロ・センドは、声からして男性のような言葉使いの老女だった。

 ノリスは名を名乗ってから言う。

「サクヤと言う少女を知っています。彼女は、ある家で、他の子供達と一緒に生活しています」と、普通に聞こえるように話し始めた。

「孤児院に入っているのですか?」と、フォンの向こうからヤイロは問いかける。

「そのようなものです」と、ノリスは言葉を濁した。「それで、何故、あなたはサクヤを探しているのでしょうか?」

 そう問うと、ヤイロは「守護幻覚」の話を始めた。ヤイロは物心ついた頃から、父親の命を受けてその研究の手伝いをしており、成人する頃には研究そのものを引き継いだ。

「その研究の答と言えるのが、『ササヤ』と『サクヤ』と言う存在なのです。ノリス・エマーソン。貴女は術師ですね?」

 ヤイロにそう見抜かれ、ノリスは顔を緊張させた。「何故、それを?」と聞き返す。

「声に魔力の波長があります」と、ヤイロは穏やかに言う。「私が探している少女達にも、同じ特徴があるはずです」

「『探している少女達』と言う意味は?」と、ノリスが訝し気に尋ねると、「偽物を用意して礼金をもらおうとする輩が、後を絶えないのです」と、困ったようにヤイロは答えた。


 用心に用心を重ねて、ノリスはまず、ヤイロと雪水湖で待ち合わせをした。その待ち合わせ場所には、こっそりとタイガも()()()()()いる。

 外見的特徴からノリスを見つけたヤイロは、老いてはいるが屈強な執事を後に控えさせ、悪意がない事を示すために、口に笑みを含んでいた。

「初めまして、ノリス・エマーソン?」

 そう聞かれて、ノリスは「初めまして」と答えた。

「ヤイロ・センドと申します」と名乗って、ヤイロは握手を求めてくる。ノリスは片手を差し出して応じた。

 ノリスとヤイロは場所を移し、雪水湖のカフェ・キケリキーで話をすることにした。もちろん、タイガもこっそりと居合わせた。


 ヤイロの話の信憑性や、ヤイロ本人の気質を知り、小さな子供を「実験に使おう」等と考えているわけではない事を問い質してから、ノリスはヤイロにサクヤを預ける事を納得した。

「サクヤにお会いしてもらう前に、一つお聞かせしておかなければならないことがあります」

 ノリスがそう言うと、ヤイロは話を促すように、片手の平を上に向けて差し出した。

「ササヤは既にサクヤの下を去っています。私達が、ヤイロ、あなたに会わせることができるのは、サクヤのみです」

「構いません」と、ヤイロは言い切る。「しかし、ササヤがサクヤの下を去ったと言うのは、少し語弊がありますね」

「どのような?」と、ノリスが聞くと、「ササヤとサクヤは、まだ共に居ます。ササヤが『消えた』ように見えるのは、彼女にしかできない仕事をしに行っているからです」と、ヤイロは答えた。

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