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30. 回心転意


 ルーク様とジュリアを交えたテラスでの昼食は、通りすがりの生徒達に驚きを与えてしまったらしい。皆一様に口を開けてこちらを見る。やはりルーク様が平民制服を着た生徒と一緒に食事をしている絵面はインパクトが強かったのだろう。

 食後にはカトルも合流して、二つのテーブルを繋ぎ合わせて、ジュリア、ルーク様、エイデン、カトル、そして私と賑やかな昼食会となった。



 食事を終えて皆で教室に戻り、私も中に入ろうとしたところで後ろからアネットに声を掛けられた。


「ライラ、今日も食堂に来なかったのね。……そしてルーク様も」

 廊下で引き留められて、少し呆れたようにそう言われた。


「え、ええ。でも明日はきちんと食堂にいくつもりよ」

 なんとなく後ろめたさを感じて語尾が弱くなる。

 その様子を見てアネットはやれやれといったように首をすくめた。


「本当にライラってお人好しよね。ライバルにルーク様の橋渡しをしてあげるなんて」


 皮肉めいた言葉に返す言葉もない。もちろん私にはそれなりの理由があるわけだけれど、端から見れば理解しがたい行動に思えるのだろう。


「やっぱりそう思う?」

 私が苦笑すると、アネットは気が削がれたように肩を落とした。


「はぁ……。別に責めているわけじゃないの。ライラがジュリアのことを考えて動いていることはわかっていたのよ。だけど私は平民のジュリアが、ライラやマリーと肩を並べる聖女候補生だなんてどうしても納得できなかったの。お茶会を経て婚約者候補として選ばれた二人なのに、そんなものが無かったかのように聖女候補生として現れて。

 ……恥ずかしいけれどお茶会で選ばれなかった私には受け入れ難かったわ。人を馬鹿にしているし、それを受け入れているあなたにも少し腹が立った」


 アネットはそこで一度言葉を切って大きな溜息をついた。これまで溜まっていたものを吐き出したのだろう。どこかスッキリとした表情に変わった気がした。


「でもこれって結局、あの娘に八つ当たりしているのよね。望んでここに来たわけではないことは、初めにあなたから聞いて知っていたのに。感情を抑えられずに彼女に辛く当たってしまったと思う。マリーを裏庭に呼び出した日から、私って何も進歩していないわ」


 うつむきがちに話していたアネットは顔を上げて私の顔を見た。


「もし私達のせいで二人の橋渡し役をあなたにさせてしまったのだとしたら、本当に謝りきれない。気を遣わせて余計な事をさせてしまった自分が嫌になるわ。……これからはライラにそんな役をさせないから」


 思いもよらないアネットの告白に私はびっくりした。そして自分の気持ちに折り合いをつけて、こちらに歩み寄ろうとしてくれたことがとても嬉しかった。


「ありがとう。私の方こそ心配をかけてしまっていたのね。でも大丈夫よ。私は聖女になることなんて諦めていないし自信だってあるんだから。だからジュリアがライバルだとか、そんなことを考えて動いていないだけなのよ」


 本心は違うけれど、今はそう言わせてほしい。私のことで気に病んでいる彼女に、余計な心配をかけたくなかった。


「それに今まで彼女と交流してきて、礼儀作法には明るくない部分はあるけれど悪い子ではないと思うの」

「それは、見ていてなんとなく分かるわ」

 バツが悪そうにアネットがそうつぶやく。


「そうね、……私もジュリアをクラスの仲間として接するようにする。今はまだ溝を作ってしまっているけど、そのうち私達もテラスに通えるまでになってみるわ」


 私の予想だけれど、チャキチャキした直情型のアネットと、おおらかで朗らかなジュリアはわりと相性が良いのではないかと思っている。


 自分は良い友人に恵まれていると本当に思う。

 だからこそ、誰かが悲しむようなエンディングには絶対に向かわせないと改めて心に誓った。

 



 そして彼女の言葉通り、その日を境にクラスの空気が変わりだした。

 移動教室の時に私やマリーがジュリアに話しかけると、アネットを始め今までジュリアと関わりを持とうとしなかった女子達がぎこちなく輪に入ってくるようになった。

 初めはちょっとツンツンした感じを出していたけれど、ジュリアの朗らかな空気に当てられのか彼女たちのツンはすぐに取れていく。


 きっとあの話の後、私のいないところでアネットが皆と話し合ってくれたのだろう。そうやって一人ひとりが輪に加わるようになって、以前のAクラスのように雰囲気が明るく変わっていった。





 そして気温も暖かくなり、制服が夏服に切り替わった頃。

 そろそろ精霊祭の時期が近付いてきていた。



「あー、疲れた」


 別室から戻ったエイデンが教室に入るなり口を開いた。相変わらず人を見ると黙っていられないのか、毎度静かに入ってくることはない。


 すでに精霊祭の準備に入っているため、ここのところは舞台の練習に励んでいるらしい。

 今年はとうとうディノとエイデンが舞台に上がり、炎と風の剣舞を披露することが決まっている。


「エイデン、前髪が汗で張り付いてますよ?」

 私の席でおしゃべりをしていたマリーが、手持ちのハンカチをエイデンに手渡した。


「マリーは優しいなぁ、ありがとう。これは明日返すよ」

 嬉しそうな顔をして額を拭う。


「ディノの炎が熱いんだよ。あれを振り回してるあいつが汗一つかかないのはどうなっているんだ」


 そんなことを話していると、すぐ後ろからやってきたディノが話に加わる。

「グライアム家の特性だからな、火や熱に強いというのは」


 澄ました顔をしながらどことなく声が得意げだ。そして一緒に戻られていたルーク様も自分の席に着いてこちらの話に加わった


「そういえば女子の方の舞台準備は終わりそうだと聞いていたが随分と早くないか?」

「それが、ジュリアがあっという間に作っていってしまって」


 後ろを振りかえり、後方の席で女子とおしゃべりをしているジュリアに目をやる。

 一年生の時は聖女役の衣装の刺繍を担当したけれど、今年は模造の作物や花を作る仕事だった。


 布や紙を使って縫い合わせながら形を作っていくのだけれど、これがなかなか手間がかかる。

 特に造花の花びらを再現することが難しくて皆が四苦八苦していたところ、驚くべき早さでジュリアが次々と仕上げてしまったのだ。話によると小さい頃から裁縫をしていて、こういった造花などもよく作っていたそうだ。


「実はもう精霊祭で使うものは作りきってしまって、今は余った布で自分の好きなものを製作しているんです。皆裁縫にハマっちゃって、今一番熱中している授業なんですよ」


 そう説明するとエイデンが羨ましそうな声を出す。


「女子の授業はいつも楽しそうでいいなあ」

「馬鹿言うな、剣術の授業が一番だろ」

「己の気の持ちようだ。学びがあり探求心があればおのずと気分も乗るものだ」


 ディノとルーク様に早々に否定されて、エイデンがむくれた顔で言い返す。

「ディノもアレだけど、ルークは生真面目すぎ! 先生だってそんなセリフ言わないよ!」

「いずれは先生どころか国を治める王になるからな。真面目でないと国は傾く。王様が不真面目だと困るだろう?」

「ぐぬぬ……」


 ルーク様が澄ました顔をして、王子だけに許されるジョークで打ち返す。いつも思うけれど、エイデンにだけちらりと見せるSっ気のルーク様が、本当クールで可愛くてずっと見ていられるんだなぁ。



 そんな幸せを噛みしめながら、今年はジュリアも参加する精霊祭までもう間もなくとなった。



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