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19. 二学期の終わり


 紅葉(こうよう)が終わり、街路樹の下に広がっていた落葉の絨毯もすでに綺麗に片付けられている。


 通学途中、馬車の小窓から外を眺めれば、年の瀬が押し迫ったせいなのか早朝にもかかわらず馬車の往来が多い。

 通り過ぎた店先にはせかせか人が出入りしていて、開店時間が早まっているのがわかる。


「この感じ懐かしいな」

 久しぶりに“師走”なんていう言葉を思い出して思わず呟いた。

 あの頃は街中にイルミネーションがキラキラと輝き、賑やかなクリスマス商戦がどこもかしこにも溢れていた。

 忙しい時期になるけれど、街に出れば楽しい気分になったものだ。


 この世界に生まれてミリシア学園に入学するまでの私は、ほとんど外に出ることのない生活だった。

 貴族令嬢らしいといえばその通りだけれど、こうして季節の移り変わりや街の人々の生活を目にすることはとても新鮮で、それと同時に少しだけ懐かしい気持ちになる。

 



 教室に入ると、女子も男子も集まってワイワイとおしゃべりに興じている。

 今日が二学期最終日であることと、明後日に開催される学園の舞踏会の話題で盛り上がっているのだろう。


「ねぇ、ライラは明後日どんなドレスを着てくるの?」

 集まっていたクラスの女子達が私に気付いて話しかけてきた。


「私とエミリアは同じ色の形違いにしたの。ライラは美人だし、どんなドレス姿を見せてくれるのか楽しみだわ」


 テンションを上げて話しているのは、入学した当初マリーを裏庭に呼び出したアネットだ。

 今では気の置けない友人となったアネットとエミリアが、興味深々といった様子で尋ねてくる。

 この二人は幼少時から交流のあった親友同士で、どうやら舞踏会には『お揃いコーデ』で参加するらしい。


「私は髪色が紫だから似合う色が限られちゃうのよね。でも結構いいドレスに仕上がったんじゃないかしら」


 紫色の髪の毛はこの世界でも珍しい方だ。ファンタジーな世界感だから皆カラフルかと思いきや、案外そうでもない。

 一般的にはブラウンやオレンジ、ブロンド系の割合が多く、四大守護貴族の彼らのようなカラフルであるほうが珍しい。


「私はダンスのお披露目が心配で、まだ皆みたいに楽しむ余裕がないわ」

 マリーがやや困り顔でそう不安を漏らす。


「マリーはダンスが上手じゃない。もし緊張して不安だったとしても、エイデンがしっかりリードしてくれるから大丈夫でしょ」

 私がそう言うと他の女子達も頷いている。

 

 そう、舞踏会というだけあってこの行事のメインは社交ダンスである。

 いずれ私たちは宮廷舞踏会で社交界デビューをすることになるわけだけれど、その練習としてこの学園舞踏会があった。


 ペアとなるお相手は社交ダンスの成績によって決められ、私はディノと、マリーはエイデンと割り振られた。

 そして一部の成績下位の男子生徒は、女子生徒の数が少ないことから女性教員と踊ることになっている。


 この舞踏会はあくまで教育の一環ということで、しっかりとしたプログラムが組まれている。

 一年生から順にダンスを披露していき、その後に食事が振る舞われる予定のようだ。


 ダンスペアが成績で決まると聞いた時、私が良い点を残せばルーク様と踊れるかもしれないと薄っすら期待していた。

 でもどうやらルーク様に限っては聖女選定の要素が絡むため、公平さを考慮してペアは教師と決まっていたらしい。


 そんな風にドレスやダンスのあれこれを話しながら、男子の様子を窺った。

 彼らは彼らで、明後日の話で盛り上がっているようだ。

 ルーク様も楽しそうにお話をされていて、その様子を眺めていたらほんわかと幸せな気持ちになった。


「もう、ライラったらルーク様を見すぎ。話聞いてなかったでしょう」

 アネットにそう言われて慌てて前を向く。さり気なく見てたつもりだったのにバレてた?


「それにしてもルーク様のお相手がライラじゃなかったのが残念ね。でも聖女選定が絡むならしょうがないわよね」

 アネットが同情するようにそう言うと、マリーを含め周囲の女子たちが同意するようにうなずいている。


 でも……私は少しだけ引っかかる気持ちを抱えている。

 来年は、ヒロイン転入という旋風が巻き起こり、その舞踏会が特別なものになる可能性があるから。



 ほどなくして本鈴が鳴り、マルクス先生から二学期最後の挨拶を聞きながら、私は来たる日のことに思いを馳せた。


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