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今でもずっと死にたいあなたへ  作者: 世界の大やん
3章 2人目 余命2カ月の不治の病の女
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気楽ちゃん④

東京に来た。


何が変わるのだろう。場所を変えても私の痛みは変わらない。


痛みが周期的に強くなったり、弱くなったりする。痛い時は人目も憚らず叫んだ。痛くない時はもう痛みが来ない様に何度も祈った。


絵本やアニメで聞かされた、悪い事をした人や考えている人は天罰が下るらしい。


じゃあ私は?何をしたのだろうか。


結局あんなものは幸せな人が考えた幸せの示威行為なのだ。悪人が幸せになる事も、善人が地獄を見る事も等しく起こる。


悪い事も良い事もそれ自体に意味は無い。問題はどうありたいかなのだ。


私は地獄の中でも生きて見せる。絶対に幸せになってやる。その気持ちだけは誰にも否定されたくないし逃げたくない。


私は自分の人生を諦めない。否定したら私の人生が無意味に思えてしまうから。



東京の医者は右往左往していた。故郷の医者も良く動いていたが、ここでは更に忙しなかった。


医者自体が白血球の様に血管を通り、病室で待っている細胞達の悪い所を取り込んで食べている様だった。


有名になって、腕が立つほどに責任も、仕事も増えていく医者という仕事は子供ながらに大変そうだと感じた。


毎日の様に検査をする。何も分からない。どうすれば良くなるのか、何をすれば駄目なのか。


ここでも医者は身体の検査と記録を取りたいと提案してきた。


両親は私の為に住み慣れた土地を離れ、職を失いここにいる。


少なからず謝礼を出すという申し出に両親は首を横に振る。


「お金が欲しい訳では無いです。お金を受け取って子供に人体実験を許すのは、あの子を売るのは違う。」


喉に詰まった気持ちをかみ砕く事が出来ない純粋な父が言う。


「あの子の苦しい姿を見ているのが辛い。今でさえ辛いのに検査を増やしてあの子の負担が増えてしまったら、あの子が死んでしまったら、それが怖くて仕方ないんです。先生」


優しい母はこのままでは良くないと分かっていても決断できない。


「では常に最後の時になるかもしれない事を意識しながら接してあげてください。あの子はいつ死んでもおかしくありません。ここには、悔しいですが、今の医学では治せない患者達が終末医療として尊厳死を与えられる場です。あの子は2年と生きられないと思います」




私の身体からは病院の特殊な鼻に着く何とも言えない匂いが染みついている。


それもずっと居ると気にならなくなってくる・・・本当は段々と鼻が利かなくなっているのだ。


でも誰にも言えないし、言いたくなかった。


言えばただでさえ多い検査項目がまた一つ増えてしまうし、自分の身体が死んでいくのを認めたくなかった。


頑張るしかなかった。普通の人が当たり前の様に出来る事が何倍の労力になる。


やり遂げるしかなかった。将来の為とか信念の為ではなく、ただ生きている人生を認めてたまるもんか。


かっこ悪くても歩くし、這いずりながら階段を登る。


少しでも多くを食べ、嫌いなモノを食べる事は何の苦でもない。これがもしかしたら特効薬かもしれない。


ここに来て良かった事もあった。


同じ様に苦しんでいる仲間がいた。


常に防護服の様なモノ中に遮光ゴーグルを付けた少年、全身の毛が抜け落ちてしまった少女、幽鬼の様にやせ細った少年、寝たきりで話すこともできない少女・・・


ここには救いが無かった。誰も救いを求めてすらいない。



人生のほとんどを病院で過ごしている。


私は気が付いたら9歳になっている。


2年前までの私は比喩でもなく何百回と死にかけた。3歳には耐えられなかった薬や手術はギャンブルで、天秤が傾いている様に生還している。


これだけ死にかけると、夜に眠るのが怖かった。明日は死んでしまうかもしれない。このまま寝たらもう起きないかもしれない。


何の悩みが無く眠れる人達が羨ましかった。夢の中でさえベッドで寝たきりの自分が泣いている。


ああ神様助けて欲しい。居ても居なくても助けてくれるならそれでいい。


痛い。痛い。痛い。


毎日痛くて、苦しくて気が狂いそうだった。


どうにもならない気持ちをベッドに向けて吐き出す。


叩く。叩く。叩く。


どうして私だけがこんな目に。どうして治してくれないんだ。


幸せそうな顔を見せるな。可哀そうなモノを見る目で私を見るな。


気を使う様に言葉を詰まらせるな。泣き出すな。私の方が泣きたいし自分を騙せなくなる。


全部幻想だ。


これから先も治る事は無いこの痛みと共に一生、死ぬまで過ごす。


身体が少しずつ死んでいるのが分かる。


許して。許して。赦して。


もう解放してして欲しい。


人の優しさに触れる度に自分が嫌いになる。醜い自分が、何も返せない自分が。


ままならない自分を殺したい。


こんな身体を捨てて、健康な誰かの身体と替えて欲しい。


この線を抜けば私は死ねるのか?


死ねばこの苦しみから解放されるのか。こんな簡単な事で私は死ぬのか・・・


死にたくない。もしかしたら明日は少しは良くなるかもしれない。


普通の女の子みたいに姉とショッピングや友達と恋の相談の一つも出来るかもしれない。


おとぎ話の絵本を自分で読み聞かせ、想像の中で私はどんな所にも行ける自分を創造した。


そうして眠る。そして眠ったまま心電図が止まり、生き返される。


確かに名医だ。何度でも生き返されるし、もしかしたら私は既にゾンビなんじゃないか?


死体に無理やり脳を移植して死なない身体なのかもしれない。


毎日こんな事を考えていた。


これが7歳まで続いていた。一日の休みもなく。


7歳の時に身体に変化が起きた。痛みが無くなったのだ。


神様は居たのだ。


その頃に母はある宗教の熱心な信者だった。


徳を積むことで人に慈悲の光を与える事が出来るという不思議な宗教だった。


日本と外国の宗教の良い所取りの素晴らしい教えだったが、代表と呼ばれるその人は本物だったのかもしれない。


手をかざすだけ。本当にただそれだけで私の痛みは少し和らいでいた。


上手く説明できないのだが、かざされた部分が少し暖かくなり、手術の消えない跡も消えていた。


7歳から9歳の2年間は私が普通を手に入れる時間だった。


何よりも望んだ普通の生活。家族の幸せそうな顔を見て私は幸せそうに笑顔を返す。

ああ良かった。全ては夢だったのだ。


これからは好きなように生きる事が出来る。母親と共に祈る時間が出来た。


安定した私を見て両親は安心したのだろう。その頃に妹が生まれる。


私の運命の妹が。

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