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今でもずっと死にたいあなたへ  作者: 世界の大やん
3章 2人目 余命2カ月の不治の病の女
18/49

幕間

「貴方は僕の人生を否定するのですか?」


少し敵対心を露にしながら飽くまで平静を保っている。


「違う。そうじゃない。」


僕は少し間を置いてから、再び語り始める。


「君の人生がとても辛い事だという事はその通りだと思う。その歳で君にはしんどい事ばかりだった」


「僕の人生で話してない事は幾らでもあります。多分貴方には分からないですよ」


「それはその通りだと思うよ。同じ目に遭わないと本当に同じ気持ちにはなれない」


赤目が口に指を当てながら、うっとおしくこちらを見ている。


陰気女はこういう雰囲気が苦手なのだろう。しどろもどろに「あの、、、その、、、」と取っ掛かりを探している。


「僕の事は分からないくせに、僕の事を分かった風に言って欲しくは無いです」


怒りながらもしっかりと目上を敬っている態度に私は尚更死なせたくない気持ちが強くなった。


「君の事は今日初めて会ったし、君の心のトリガーにも初めて触れたよ」


「心のトリガー?」


周りがざわついている。


「ああすまない。私が勝手に定義づけているモノだ。心の見られたくない場所、自殺したい気持ちになる引き金みたいなモノだ。」


気楽女が”とりがぁー”って何?と横の陰気女に説明を求めている。


「その話はここに居るメンバー以外の誰かにしたのかい?」


不運な男は少し考えてから


「確かに話した事は無いですね。必要なモノではないと思っていたし、聞きたいと管理者さんが言ってたから答えただけです」と饒舌に話す。


「それが君の心にとってどういう影響を齎すか分からないが、話に落とし込んでみて、実際に話して初めて分かる事がある」


「それは否定しませんが、、、でもそんな大層なモノでは無いですよ」


「私は一緒に心理学を勉強している友達がいた。不思議な奴でね。同じ歳なのに偉そうなんだ。私は彼を先生と呼んだ。」


良く分からないが相槌を打っている。


「お互いにその時に抱いた気持ち、感情を丁寧に主観だけでなく客観的に表すんだ。人の気持ちは信用できないものだからね。事実私は何度も彼に救われたし、彼を救った。カタルシス、心の浄化や解放を指すんだが、人に話をして自分だけで分からなかった事や、疑問にしたままの感情に答えを持たせてみるんだ。心理催眠療法とも言う。催眠って言っても”貴方は段々眠くなる”なんて昔からあるセリフじゃないよ」


分かりやすくおどけてみたが、少しスベったな。赤目だけがククッと笑っている。


「何が言いたいのか良く分からないのですが。催眠を僕にしたいんですか?」


純粋に良く分かっては居ないのだろう。ただ知ろうとする時の人の目が私は大好きだった。


「自分の辛い事を話している時に君はどう思った?」


「どうって嫌でしたよ。あんなクソみたいな過去」


「でも君は初めて自分の気持ちを打ち明けた。それにここに居る人間は皆、同じ事を想っていたと思う」


確かに僕の身の上話をここまで真剣に聞いてもらったのは初めてだった。いや一人居た。居なくなってしまった先生が。


そして何故か分からないが、とても気持ちが良かった。気持ちがいいとはまた違うのか?


というよりも僕の人生を他者からどう見えるか知りたかった。そして僕の感情を自分自身でも整理したかったのかもしれない。


「悪い気はしなかったように思えます。先程話した施設の心理職員に話していた時と同じ気持ちになれた気がします」


その言葉を聞いた瞬間に私の気持ちは強く想起される。



全く違う口調で「彼は臆病だった。自分のしている事に自信を持てなかったんだ。俺は人の役に子供達の役に立ててるのかと」


突然の変化に戸惑う。


「彼自身も自分の心、人の気持ちが理解できなかったんだ。まぁ心理学をやっている人間なんて大体そんなものさ。でなければ人の心理なんて勉強しない。ともかく彼のやり方は同じ職員の人達には理解され無いモノだった。施設では独り立ちできる事に重点を置いているから、一人で皿が洗えたり、部屋の掃除が出来るとかが何より重視されているからね。俺にとってはバカバカしいが。」


誰も何も発さない。赤目だけは俯いている。


「君は自分が感情が無いとでも思っているかもしれないが、俺と妹達について話している時は誰よりも感情豊かだった」


「!?」


誰もが目の前の出来事に惹きつけられている。


「君は感情の出し方が分かっていないだけだ。いつだったか君は妹達が部屋の先輩たちにイビられている時に真っ先に庇っていたな。職員は部屋の事は部屋だから、違う部屋の人間に関わって欲しくないと言っていたが、俺は君の行動が嬉しかった。心は考えられてから、後になってから想起するものだ。だがあの時の君は違った。言うなれば考えるよりも先に心が動いているんだ。俺の持論では・・・誰だったけな?ああユングだ。ユングの集合的無意識に近いと思った。とにかく君の中には無意識の中にも君自身を表す感情がちゃんと存在しているんだ。そしてそれは自己の形成を促す。要するに君はとても家族思いってことさ。」


「先・・・生?」


少年の顔をした青年が立ち上がり、姿勢を正している。


「ああ君は本当に家族愛が強いんだ。きっと君が一番欲しかったものだろうからね。小さい頃の愛着障害は君を一生苛めるからね。これは本当に味わったものにしか分からない。だからこそ君は雛鳥に希望を見出したかったんだ」


「あの!それなんですけど!」


女が突然立ち上がり、不運な男を見て、話しかける。


「ウチの話を聞いてほしい。」


その顔はとても気楽なモノには見えなかった。

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