夕方の窓辺に
ひんやりとした風はカーテンの形を変幻自在に変えながらわたしのちっぽけな部屋に入り込む。
時間は完全に夜だ。なのに空がまだぼんやりと明るくて、夏至がすぐそこに来ている。なのに三日月が浮かび、うろこ雲が重なる空はまるで冬みたいに透明になって、宇宙は深海のように深い紺色をしていた。
今日は少し冷える。
こんこんこん、と包丁で野菜を切る。ピーマンと玉ねぎ。そしてウィンナー。その間に水を沸かす。塩を入れる。沸かしてる間に、さっき切ったものをフライパンにのせる。油を薄くしいて焼く。そしたら、鍋が沸騰したのでパスタを放り込む。ぐらぐらと五分茹でる。芯がなくなったらザルに移して水を切る。水を切ったらフライパンにのせて、ケチャップをかける。ここでバターを入れる。バターを入れるか入れないかはとても重要なことだ。バターを入れると、とってもうまい。
社会で働くのは面倒だ。社会はどうにも居心地が悪い。仕事帰りに冬みたいな夏空を眺め、小さいけれども他の誰のものでもないわたしの部屋でナポリタンを作るとき、わたしは社会を離れて世界を感じる。
世界で生きるのはとても素敵なことだ。生きてることは根本的に楽しいことだ。わたしは料理が好きだし、本が好きだし、音楽が好きだ。だから世界が好きだ。
だけど、社会で生きるのは大変だ。一歩外に出てさえしまえば、そこには世界があるのに、そのことさえも忘れてしまうときがある。
仕事、やめたいなあ。
今日もぼんやり呟いてみる。
はあ。夜風が少し肌寒い。
カーディガンを羽織り、そっと窓を閉めた。