桜の木の下で
桜の木の妖精と出会った四人は願い事を叶えてもらおうとする。不思議な妖精と出会った四人の運命は変われるか…
始まる、高二の新学期が明日から始まる。どうかどうか神様、俺の初恋の田川さやかと同じクラスになれますように…いや、こういう場合は神様よりも桜の木の妖精の方がいいのか?ちょうど桜が舞い散っていた。桜の木の下で目を閉じてお願いしてみた。
何やってんだよ俺。妖精なんかいるわけねえよな…
「おい、そこの若いの」
なんか声が聞こえたような?空耳?
「ここじゃ、空耳ではないぞ」
「誰かいるのか?」
「わしじゃ、桜の妖精じゃよ」
「妖精?」
俺はぶったまげた!いた、声の持ち主が。小っちゃい爺さんが俺の足元にいた。
「驚くのも無理はない。普通わしの姿は見えないものじゃ。お前は運がいいぞ」
「なんで爺さん、そんなに小っちゃいの?」
「さっさとわしを持ち上げろ、見上げるのが疲れるわい」
俺は小っちゃい爺さんを手の平にのせ、まじまじと眺めた。その姿は漫画で見た仙人のように、長い白髪と髭をはやし、顔はしわだらけで、なぜか着物ではなく、ピンクのジャージ姿だった。いかにも胡散臭いがこんな小っちゃい爺さんはみたことがない。ホントに妖精なのか?いや、普通妖精っていうのは、可愛い容姿で背中に羽が生えてるようなイメージなんだけど。
「なんじゃと?おかしなイメージじゃな。羽が生えとるのは虫じゃよ、それにピンクじゃないぞ、桜色じゃ、昔は着物じゃったがな、足がスースーして歳をとると寒くてかなわんのじゃ、だがこのジャージはいいぞ、動きやすい」
「えっ?俺の心の声が聞こえたのかよ」
「わしは妖精なのじゃぞ、お前ら人間と一緒にするでない。お前の名前も知っとるぞ、中島明人じゃろ、好きなおなごは田川さやかじゃったな」
「えー?それじゃ、あのーそのーえーと」
「えーい、じれったいのう。初恋のおなごと同じクラスになりたいんじゃろ?」
「やっぱりお見通しだ。爺さん叶えてくれんのかよ」
「もう遅いわい、クラスはもう決まっとる。もっと早く頼みにくりゃーのう」
「なんだよ、畜生!今からなんとかならねーのかよ」
「お前はお願いしとるのか?命令しとるのか?わしは妖精じゃぞ」
「すみません。お願いします」
俺は頭を下げた。この胡散臭い爺さんに。爺さんはニヤニヤ笑っていた。
「明日学校へ行ったらわかることじゃ」
「はぁ?明日にならないとわかんねーの?」
「楽しみはとっておくものじゃよ」
そして俺にウィンクをした。気持ち悪!
「気持ち悪いとはなんじゃ!おっと、そろそろ帰る時間じゃ」
「帰るってどこへ?」
「決まっとるじゃろ、桜の木の中じゃよ」
「待って、また会えるかなぁ、まだお願いしたいことが…」
「そのおなごのことじゃろ?桜の花が散る前にまた会ってやろう」
そう言って爺さんは、いつのまにか俺の手の平からいなくなってしまった。
なんだよ、そろそろ時間って、まるでウルトラマンみたいじゃねーか。それにしてもホントに妖精なのか?今まで生きてきてこんな体験初めてだった。幽霊だって見たことなかったのに。この桜の木の下にも何度か来たことあったけど、そっか、願い事したことなかった。
ホントにまた会えるかな…叶えてほしい。田川さやかと付き合いたい。
今日は私の二十五回目の誕生日。なのに今日も何の予定もなし。お昼に買ったおにぎりを頬張りながら桜の花びらを眺めていた。随分散ってきたな。「はーぁ」私はため息をついた。
ちょうど一ヵ月前に彼と別れた。彼に好きな女ができたからだ。あの女さえ現れなければ、私は今夜彼に祝ってもらえるはずだった。たった一年付き合って別れた彼。初めて貰ったプレゼントはピンクのバックだった。大事にクローゼットにしまったままだ。今度は何を貰えるのか楽しみにしていたのに。残念でならならない。涙が溢れだした。その時、
「助けてくれー」
何?今の。変な声がした。気味が悪い。
「この鞄をどかしてくれ」
鞄?私は鞄を持ち上げた。
「きゃー虫」
「虫じゃないわい、わしは妖精じゃよ」
「妖精?どう見ても虫にしかみえない」
「さっさっとわしをお前さんの手の平に乗せるんじゃ」
私はこの虫のようなおっさんを指でつまみ上げた。まじまじと見ると、やだ、爺さんじゃないの。投げ飛ばそうとした時
「やめろ!わしは妖精じゃぞ、投げるんじゃない!」
仕方なく、この妖怪のような妖精を手の平に乗せた。
「なんかようかい?」
「…」
「だじゃれじゃよ。顔に似合わず随分とキツイ女じゃのう。だから彼氏から振られるのだぞ」
「はぁ?なんで知ってんのよ。それに余計なお世話でしょ」
「まだ好きなんじゃろう?その男のことが、石井ほのかさん」
ムカつく、私の名前まで知ってるってことはやっぱり妖精?もしかして願いを叶えてくれるってこと?
「ねえ、妖精なら私のお願い叶えてくれる?」
「よかろう、しかし、ただでは叶えられんぞ」
「金とるの?」
「金じゃないわい。わしは妖精じゃ、そんなもん必要ないわい」
「それじゃ何よ。まさか」
私は両手を胸に置いた。キモイよスケベじじい!
「おい、何を勘違いしておる。わしは妖精じゃ、お前ら人間とは違うのじゃ」
「じゃあ何なの?」
「お前さんの胸にきいてみることだな」
「なんですって?あーもう昼休みが終わっちゃう」
「桜の花が散る前にまた会おう」
妖怪のような妖精じじいはそう言って消えてしまった。私は急いで会社に戻った。
今日はいい天気じゃのう。日光浴には最適じゃ。やや、あのおなごはもしや…
そうじゃ、名前は…思い出したぞ、内田さくら。ほんのり桜色した肌は透き通るような白さで、長い黒髪は絹のように滑らかで、わしは一目みたその瞬間、恋におちたのじゃ。懐かしいのう。あの時のことが蘇るようじゃ。彼女は好きな男がいたが、親の決めた結婚を断ることが出来ずに悩んでおった。泣いてる彼女に声をかけたんじゃった。彼女は驚いていたが、わしのことを「貴方様は桜の妖精ですね」ってなんとも品のあるたたずまいでそう言ってくれたのじゃった。ほんに美しいおなごじゃった。それが年月は恐ろしいのう。
「よっこらしょ」
「あ~こらこらババア、そのケツをどかせ!わしの足をそのケツが踏みつけておるぞ」
「何か声がしたような…」
「わしじゃ、妖精じゃよ」
「春だっていうのにセミの鳴き声がする?とうとう耳鳴りがひどくなってきたのかしら」
「セミではないわい、妖精じゃよ」
その声にようやく気付いて立ち上がってくれた。だが今度は足を振り下ろそうとしていた。わしは急いでその場を離れた。
「わしを殺す気か!」
「えー?何これ?」
「だから妖精じゃ、忘れてしまわれたか?あれから六十年の月日が経つからのう」
「ああああ、え?六十年?そういえば…」
「思い出されたか?」
「いや、何も…」
なんじゃよ、なんじゃよ、もうろくしたもんじゃな…あの頃の面影はまるでない。わしはがっくりと肩を落とした。が…
「もしや、私が若かりし日にお会いした、一寸法師!まだ大きくなられてなかったのですね」
バターン、わしはずっこけてぶっ倒れた。
「いつの時代じゃよ!わしも生まれておらん!」
「あの時はいいお話をしてくれましたね。私が駆け落ちするところを引き留めて下さいました」
「そうじゃった。親の決めた婿はあんたを幸せにしてくれると言ったのじゃったな」
「はい。その通りになりました」
「幸せじゃったのじゃな」
「とても幸せでした。ありがとうございます。その夫は三年前になくなり、今は一人で暮らしています」
「ほんにひさしいのう」
「隣町に住んでまして、今日は友人とお花見に来ました。見た目はすっかりお婆さんですが、気持ちは今だに娘のままですよ。あの時とおんなじです」
「わしもじゃよ。気持ちはいつまでも青年のままじゃ」
「オホホホホホ」
「アハハハハハ」
二人は大笑いしていた。何が可笑しいのかいつまでも笑っていた。桜の木の下で…
俺は泣いていた。とうとう会社を首になってしまった。トホホ…でもなんで俺がくびになったんだろう。まさか、社長の車にバカって落書きしたことがばれた?いや誰にも見られてないはずだ。あっ、貯金箱のお金?毎月給料日に百円入れて、飲み会の足しにって、皆ではじめた豚の貯金箱からくすねてしまった。たばこ銭をちょっとだけ拝借した。それとも、トイレの掃除当番ずっとサボってたことがばれた?あとは…事務員のババアの陰口聞かれたか?事務員は社長の奥さんだからな。あーきっとそれだ、だけど本当のことしか言ってないぞ。厚化粧で、不愛想で、ヒステリーでドケチ。あっ、もしかして、社長が気にかけてるあの可愛いさよちゃんとご飯行ったのがばれたのか?
あ~俺はこの先どうすればいいんだ。妻はスーパーで働いてるが、三人の子供はまだまだ金がかかる。いっそこの桜の木にひもでもかけて首吊りでもしたら、楽になれるかもしれない。そうだ、保険金が入る。妻と子供達はなんとか助かる。俺なんか死んでもどうせ悲しまないさ。俺はひものようなものを探し始めた。
「やめとけ」
何か聞こえたような?蚊の鳴くような声がした。
「蚊ではない、妖精じゃ」
妖精?どこだどこだ?妖精はどこだ?
「ここじゃよ。お前の足元じゃ」
俺の足元?いた!ちっちぇ!俺はその藁人形のような生き物に近寄った。
「うわー」
「驚いたようじゃな。無理もない。お前はついとるぞ。わしの姿が見えるのじゃからな」
本当にこれが妖精なのか?もしかして桜の木の妖精?えー俺の想像だと着物姿で黒髪の長い色白の美しい女性なんだけどな~ここにいるのはどうみても、仙人が小っちゃくなったって感じだの爺さんだ。
「そうじゃのう。よく仙人と間違われる。お前さんの想像した妖精はのう、若い桜の木にいるぞ。わしは樹齢三百年も経っとるからのう」得意げな顔
「三百年?えーでも若い桜の木の妖精がいいなぁ」
「若いだけで何もできん、たいして力なぞないわい!」
「それでは願いを叶えてもらえるんですか?あなたはその力があるんでしょ?」
「なんじゃ、言ってみろ」
「たた宝くじで一等を当てたいんです」
俺は頭を下げてお願いした。これさえ当たれば仕事なんてしなくても生きていける。
「お前さん、仕事をくびになったらしいのう。宝くじはのう、やおよろずの神様にお頼みするがよい」
「やおよろず?」
「そうじゃ、八百万と書いてやおよろずと読むのじゃ。その名の通り神々はたくさんおられるのじゃ。地の神、風の神、水の神、そして金の神じゃ。神社に行ってお願するがよい」
「神社ですか?叶えてくれますかね」
「それはなんとも言えん。先ずは神様に好かれることじゃな」
「好かれるって、どうすればいいんですか?」
「いいか、よく聞くんじゃ、今こうして元気で生きていることはありがたいことなんじゃぞ。たとえ仕事を失っても、生きてるだけでありがたいのじゃから、初めにお礼を述べなくてはならぬ」
「お礼を?」
「そうじゃ、その足りない頭でよく考えるのじゃ、前田文雄さん」
「はい。やってみます。どうして名前を?」
「そういうわけで、わしはもう行かねばならぬ」
「どういうわけ?また会えますか?」
「桜の花が全部散る前にまた会おう」
いつの間にかその妖精とやらは消えていた。妖精って願いを叶えられないのか?神様の方が位は高いに決まってるもんな。じゃ、なんで俺の前に現れたんだ?俺は何をやってるんだろう。生きてるだけでありがたいかぁ。死のうとした自分が情けなかった。金運の神社を捜しに行こう。
ヤッター田川さやかと同じクラスだ!俺はついてる!もしかして、あの妖精が?
ないない!偶然だ。そうに決まってる。だいたいあれは妖精じゃねーな。
俺は大好きな田川さやかのことを毎日見てるだけで幸せだった。目が合っただけで、ドキドキして心臓が止まりそうになるほどだ。そんなある日彼女が来なくなった。学校に来なくなって一週間がたった。彼女は入院していた。彼女の病気は白血病。俺はショックだった。せっかく同じクラスになってこれからだと言う時に…彼女は治るだろうか。なんとか元気になってこのクラスに戻ってきてほしい。俺に何か出来る事はないのか…
あっ妖精、妖精にお願いしてみる?でもあれは…いや信じよう。それしかない。ヤバい、桜の花びらが散ってしまう。散る前にもう一度会おうって言ってた。
俺は急いであの桜の木の下へと向かった。もう大分花びらが散っていた。
「妖精さん、お願します。出てきてください」
「おう、来たか。待っていたぞ」
妖精の爺さんは木の枝に座っていた。やっぱり小っちゃい爺さんだ。俺は少し不安だった。
「あの、俺の好きな彼女が病気で、治してください。お願いします」
「そのおなごとは同じクラスじゃったろう?お礼の言葉がまだないぞ」
「それは偶然だろ?もう遅いって言ってたじゃねーか」
「なんじゃって?」
聞こえてねえのかよ。
「ありがとうございました」
俺は頭を下げた。本当に願いを叶えてくれるなら、なんだってする。
「よかろう。しかしそのおなごの病はなかなか難しいのう」
「そんなこと言うなよ。なんとかしてくれよ」
俺は両手を合わせてお願いした。
「なんでもするって言おったな」
「はい。なんでもします。だから彼女の病気を治してください」
「わしの力だけでは難しいのじゃ、それでじゃ、よいか、百本の桜の木を回り、一本一本にお願いするのじゃ。木の幹に手を添えて心の底から願うのじゃぞ。お前にできるか?」
「百本?そんなにあるのかよ」
「簡単なことじゃ。本気でそのおなごのことが好きならできるはずじゃ」
俺の体はやる気に満ちていた。やるしかない!一本一本に願いをこめてくるぜ!がすでに爺さんの姿はなかった。はやっ!もう消えちまったのかよ。
あれからなんの変哲もない毎日を送っていた。私の前に現れたあの妖怪、じゃなかった妖精。私の胸に何を聞けばいいのか全然わからなかった。そんなある日、数人の友人達と食事をしていた会話の中で、驚くような話があった。私の彼を奪ったあの女の話が出たのだ。
「ほのかさぁ、どうして彼と別れたの?」
「それは…彼に好きな女ができたから」
「その女って西川静香じゃない?」
「そうだけどそれが?」
「その女って性格いいみたいだよ。とにかく優しくて気が利くって評判」
えっ?そうなの?私は信じられなかった。まるで私と正反対の女。
「驚いた!あの男どうやってそんな女と知り合ったの?」
「それがさ、あんたの元カレが仕事でミスった時に助けて貰ったらしいよ」
「それで彼はその女のことが好きになったわけね。私はすんなり振られたわけだ」
その場がシーンとなった。私はこの場から急いで立ち去りたかった。
「ほのかならまた彼氏ができるわよ。大丈夫よね、皆」
「そうよ。大丈夫よ」
もう何も聞こえなかった。ただ皆の苦笑いだけが目に焼き付いた。そういうことか。私は性格が悪いから彼に振られたのね。今更どうすれば悪い性格をなおせるの?皆と別れた後一人ぼんやり歩いていた。いつの間にかあの桜の木の下まで来ていた。
「こんばんは。やっと気づいたようじゃの」
出たな、妖怪、じゃなかった妖精。あれ?夜のせいか、このじじい輝いて見える。気のせい?
「気のせいじゃないぞ、わしは光ってるんじゃよ」
蛍かよ!何の為に?
「あんたによく見えるようにじゃよ」
「私に?確かにこんな暗闇じゃ、気が付かないわね。踏んづけてしまいそうだわ」(笑い)
「おいおい、恐ろしいことを言うでない」
「私どうしたらいいのかな?振られた理由はわかったけど、これから先私は彼氏ができるの?」
「そんなに彼氏がほしいのかい?」
「だって、誕生日に誰からも祝ってもらえないのは寂しいもの」
「人に優しくするんじゃよ、男だけじゃないぞ。おなごにも優しくしていけば必ずみつかるはずじゃ。あんたに似合う男が現れるじゃろ」
「ほんと?いつ?いつになったら現れるの?」
「焦るでない!いつか必ずじゃ。まぁ婆さんになるまでには見つかるじゃろ」(笑い)
「何よそれ、婆さんって!真面目にやってよ」
「わしは真面目じゃよ。果報は寝て待てと言うじゃろ」
果報じゃなくて彼氏なんですけど…だめだ、もうろくじじいめ!
「もうろくなどしとらんわい。ただ、わしも歳をとりすぎたわい。来年またここで逢えるかのう。彼氏ができていたらお礼に来るのじゃぞ」
「ホントにできたら来ますよ。彼氏と一緒に」
私は素直な気持ちでそうつぶやいた。あれ?じじいは?消えた。もう桜の花びらがほとんど散っていた。今年はちゃんとしたお花見しなかったな…
俺は神社巡りに奮闘していた。近くの金運神社は全てお参りした。残念ながら宝くじはまったく当たらなかったが、次の仕事をみつけることができた。これは神様のお陰?俺は神様に好かれたのか?いや、宝くじが当たってないのだから、やっぱり好かれて等いないのか?
あの爺さんに言われたことが気になって、毎日家の掃除をしたり、特にトイレ掃除。散歩して落ちてるゴミを拾ったり、人の影口を言わないようにしていた。俺なりに好かれるようなことをしてみたが、これで良かったのだろうか?いや、まだやり足りないのかもしれない。
だけどわかんねーよ。あと何をどうやればいいのか。そんなことを考えながらあの桜の木の下まで来ていた。
「変わったようじゃな。前よりいい顔しとる」
今何か聞こえた!爺さんか?
「妖精じゃよ」
「妖精さん、仕事が決まりました!ありがとうございます」
ホントは神様のお陰だと思うけど。俺は頭を下げてお礼をした。
「宝くじはハズレたようじゃな。しかし仕事が決まって良かったのう。それが一番いいことじゃぞ。人間は汗かいて働かにゃいかん。そうすれば必ず幸せがやってくるぞ」
「いいこと言いますね。さすが妖精さんだ!」
「そうじゃろう」得意気
「俺間違ってませんかね。これでいいんですか?」
「そうじゃのう、今度の仕事ではしっかり働くのじゃぞ。丁寧にそして納期を守ってしっかり働けばくびにはならんぞ」
「そういうことか…俺は勘違いしていたんだ。仕事を怠けていただけだったのか?」
「そういうことじゃ」
俺は目が覚めたような気がした。いや寝ていたわけではないが。よし!これからは家族の為にもっと頑張るぞ!その時風が吹き付け桜の花びらが一斉に散った。そして爺さんの姿も消えていた。
俺は百本の木々を回った。何日もかけて一本一本に願いをかけて回った。早くしないと桜の花が散ってしまう。本当にこんなことで彼女の病が治るのだろうか。俺は不安と焦りの中で木々に頼るしかなかった。そしていよいよ百本目の木の前にやって来た。その木はひときわ大きく、何本もの枝が太い幹から生えていた。見事なたたずまい。なんてたくましいんだ。そしてなんて神々しいんだ。こんな桜の木は見たことがなかった。樹齢ももしかして三百年以上かもしれない。桜の花は美しかった。
最後の木に思いを込めてお願いした。両手を添えて「田川さやかの病をお治し下さい。お願いします」すると両手がほんのり暖かくなった。生きてる。この木は生きてる。まるで今にも動き出しそうだった。もちろんどの木も生きてるに決まってるけど、この木は特別にそう感じた。この木には本当の妖精が棲んでるに違いない。爺さんに聞かれたら怒られそうだが。そうして俺は、あの爺さんにいわれた通りに百本の桜の木に願いをかけ終えた。
それでも不安でならなかった。このままでは桜の花が全部散ってしまう。彼女は助かるのか?病は治るのか?いったいどうなんだ?爺さん!教えてくれ!爺さんは現れなかった。
逃げた?まさか願いを叶えられなくて逃げたのかよ!じじい!出て来い!
三日後、田川さやかが回復に向かってると友人から聞かされた。彼女に合うドナーが見つかり手術は成功したと聞かされた。俺は天を仰いだ。ありがとうございます!良かった。本当に良かった。爺さんにお礼に行かなくては。桜の木の下までやって来た。
「妖精さん、じじいなんて言ってごめんなさい。だから出てきてくれよ。彼女が回復したんだ。ありがとうございました」
「しっとるわい、良かったのう」
えっ、何処?見えないよ。何処だよ?
「ここじゃよ。ほら、お前の頭の上の枝におるわい」
「爺さん、ありがとうございました」
俺は今まで以上に頭を下げてお礼をした。そして今度こそ彼女が俺と付き合ってくれますように。この願いは簡単だよな。
「その願いは無理じゃの」
「なんだよクソじじい!」
「妖精じゃ」
そして風が吹き、桜の花びらは一揆に散りだした。
おわり
最後まで呼んでいただきありがとうございます。この世には不思議なお話が沢山ありますが、こんな妖精がいたらいいなって思い書いてみました。ちょうど桜の花の季節ですから。ちょっとクスって笑ってもらえたら嬉しいです。