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最強の能力者、能力者に出会う

「……いきなり何のつもりだ。異能? さっぱり分からんな」


 俺は突然首筋にあてがってきた冴羽にそうとぼけて見せた。


 彼女の目には明らかな敵意が宿っている。


「嘘をつかないで。さっきの沢井を倒したのもあんたの異能の力でしょ。あんなスピード、並の人間が出せるわけない」


 先ほどの沢井とかいう男を圧倒したのも能力の力と見抜いてたか。

 どうやら本当に異能の存在を知っているらしい。


「……クク、まさか異能の存在を知るものがいたとはな」

「唯も同じような人間離れした能力を持っていたから。これは親友の私しか知らないことだけど」

「なるほど、それで異能の存在を知っていたわけだな。ところで、いつまでこのナイフを突きつけるつもりなんだ」

「それはあんたが唯の居場所を吐くまでだけど」


 唯の居場所? よくわからないが彼女はなにか勘違いをしてるらしい。


「……何の話だ。赤坂唯の居場所どころか俺は彼女の顔すらも知らないが」

「まだとぼけるつもりなんだ。唯の次は私を狙ってきたんでしょ」


 どうやら俺を赤坂唯をさらった犯人だと思っている。

 いくら否定しても話を聞いてくれそうな気配ではない。


 冴羽は押し当てていたナイフをさらに首筋に食い込ませた。

 だが、自身を大幅に加速できる異能を持つ俺にとってはそれは脅威にはならない。

 俺は能力を発動させると冴羽の背後に回り込んだ。


「ナイフで俺に傷をつけるつもりか? 俺の能力を知っていてその選択肢を取るというなら、随分と舐められたものだな」

「いつ私が”能力者じゃない”って言った?」

「何?」


 俺の周りの地面が盛り上がり、そこから俺を囲うように土が這い出てくる。

 体の周りをあっという間に包み込むと、俺はその場から手足も動かせなくなってしまった。


 冴羽は考えが上手くいったと思っているのか、得意げに立っていた。

 彼女の周りには、竜巻、そして炎が俺を威圧するように渦巻いている。

 まさしくそれは、人を超えた異能の力だ。


「風に土、炎ーー様々な元素を操れる異能か。まさかお前まで異能力者とは思わなかったな」

「私だって驚いた。唯と私以外能力を持ってる人間なんていないと思ってたもん。それにしても自身を加速させるなんてかなり強力な異能だね」


 けど、と冴羽は続ける。


「相手が悪かったかもね。残念だけど私の能力は最強なの」


 俺を囲む土の塊はどれだけ力を籠めようとも崩れる気配はない。そして、拘束される俺に冴羽は風や炎でいつでも攻撃できる状況。

 一見勝負は決したように見える。


「ああ、驚いた。他の者にもこれほどの能力者はいないだろうな」


 数々の異能力者を見てきたが、中でもこの能力は戦闘に特化している。

 もし彼女がキリングゲームに参加したのならば優勝してもおかしくないほどに強力と言っていいだろう。


「君の能力は自身の動きを加速させるっていうもの。けど、その場から動けなければ、その能力を生かすことはできない」

「そしてナイフは俺を油断させるための布石という訳か。中々考えているようだな」

「もう観念したでしょ。さあ、唯の居場所はどこ?」

「だが、詰めは甘いようだな。いつ俺の能力が”自身を加速することだけ”と言ったんだ?」


 俺は腕に絡んでいた土に触れる。

 すると、まるで長い年月をかけ、朽ちるように土が崩れ去った。

 つまり、俺を拘束するものは何もなくなったのだ。


「え……?」

「俺の異能は加速できるのは自分だけじゃない。”この手で触れたもの全てに適応される”。俺を拘束する土に触れることにより、幾万年の時間を一気に加速させたという訳だ」


 どんな物質だとしても、長い年月が経てば朽ち、脆くなる。

 俺が加速させた土の塊は砂になって地面へと還り、土による拘束は意味をなさなくなった。


「う、嘘……! 私の能力が攻略された!? けどっ!」


 冴羽は風元素、炎元素による多数の刃を俺に放つ。どれも見ただけでわかるほどの高威力のものだ。

 しかし、枷が外れた俺にとっては避けることは容易い。

 俺は瞬時に冴羽の隣に立ち、彼女の肩に手を置いた。


「せっかくだ。もう一つ良いことを教えてやろう。俺の本当の能力は加速ではない」


 肩に触れただけで、彼女の周りの時間だけ制止したようにピタリと動かなくなる。

 俺の能力が”自らの手で対象に触れる”という条件を満たしたからだ。


「”時を司る能力”だ。加速と減速、そして巻き戻すことが出来る」


 俺は彼女を減速させ、まるで時を止めたかのように制止させたのだ。

 しかし、彼女の意識は俺の言葉は認識しているはずだ。


「確かにお前の能力は強力なものだった。だが、能力者同士の戦いはそれだけでは決まらない」


 本当に俺を攻略するつもりならあらゆる可能性を考慮し、触れられないほどの炎の壁を自身の周りに張るべきだった。

 自分でも嫌になるが、キリングゲームを生き抜いた者としての経験が勝敗を分けた。


 俺が能力を解除すると、冴羽は飛び跳ねるように俺から距離を取った。


「っ! 君、本当に何なの? この状況で一瞬にして私の能力に対応するなんて……」

「お前とは経験が違う。まあ、初めてにしては中々のものだったがな」

「もしかして、今までもこんな戦いを……」

「ほう、察しがいいな。だが、それはお前が知る必要のないことだ」


 俺は冴羽の勘違いについて誤解を解くことにした。


「さて、さっきの話の続きだ。お前はどうやら俺を赤坂唯をさらった犯人だと思い込み、次は同じ能力者である自分を狙ってきた……。そう考えてやられる前に、とばかりに俺をいきなり襲ってきた。そうだろう?」

「……そうだけど」

「やはりか。だが、これで俺がお前に危害を加えるわけではないと分かっただろう」


 もし俺に悪意があるならば、能力で停止させている間にその時点で冴羽を殺す、もしくは拘束するはずだ。彼女はそのことが分かっているのか、いったんは俺への敵意を収めたようだった。


「じゃあ、なんで今さら唯のことを聞いてきたわけ?」

「彼女が異能力者だったかそうでなかったか聞きたかっただけだ。他意はない」

「はぁ? なんでそんなこと知りたがるの?」

「それは……」


 俺は本当のことを言うのが心の底から躊躇われた。

 彼女が能力者であったことから、この学園での失踪事件はキリングゲームが関わっている可能性が高い。

 しかし、それは彼女の友人はキリングゲームに巻き込まれて亡くなったということだ。

 そのことを、俺に攻撃をするほど友人を想っている彼女に打ち明ける気にはならなかった。


「いや、なんでもない。ただの興味本位といったところだ」

「ふーん。まあどうでもいいけど」

「それとだ。ド派手に戦った後で言うのもなんだが、もう能力を使うのはよせ」

「さっきから訳の分からないことをペチャクチャと……。今度はどういうつもりなわけ?」


 この学園にはやはり運営の監視の目があることはほぼ確定事項に近い。

 この学園だけでなく、奴らの監視は至る所にある。なるべくなら能力は使わない方がいい。

 でなければ、彼女もデスゲームに参加させられることとなる。

 幸いにもここは体育館の裏で、人の目は全くない。奴らには見つかっていないだろう。


「俺は冗談で言ってるんじゃない。お前の為に言ってるんだ」


 俺は真剣にそう冴羽に伝えた。

 俺が急に真面目にそう言うものだから、冴羽は面食らったようだった。


「はあ……。君の言ってること全くわかんないけど、まあ頭の片隅には置いとく。けど、君のことを信用したわけじゃないから」

「ああ、それでも構わない。だが、能力だけは絶対に使うな」


「しつこいなあ、分かってるって」

 しかし、そのタイミングで昼休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。

 冴羽はうんざりとため息をついた。


「すぐ話終わると思ってたのに、最悪……」

「お前がいきなりナイフを突きつけた上に能力まで発動するからだ。やれやれ、余計な手間をかけさせてくれたな……」


 予想外の出来事はあったものの、俺たちは体育館裏を後にした。


 いきなり冴羽が能力バトルを仕掛けてくるのは驚きだったが、俺も見た限りでは誰もいなかったのが幸いだった。

 ともかく、この学園がキリングゲームとつながっているのは明らかだ。

 俺の目的に大きく進歩したといえるだろう。



「あれって帝人くんと冴羽さん、だよね……」


 そして同時刻。物陰から様子を見ていた人間がいた。

 剣崎帝人に最初に話しかけた少女、青峰遥だ。

 あの少年帝人のことだから、何か他組で騒ぎを起こすに違いないと思いこっそりとついてきたのだが、彼女が目にしたのは予想外の出来事だった。


「冴羽さん、何か炎とか竜巻とか出してたけど、あれっていったい何なの……」


 まるで漫画や小説のような超人的な力を目の当たりにして、遥は目を疑うような思いだった。

 先ほどの帝人の動きが目に見えないほど素早くなったのも、すさまじく運動神経がいいのだと思っていたのだがそれも違うような気がする。


 ともかく、遥にとって二人には何か特別な力があると確信するには十分だった。


「それにしても、不思議な力……か」


 遥はかつてそんな力に見覚えがあった。

 それは、帝人の姉である剣崎優子のことだ。

 彼女が看護師で、遥が幼いころに入院してお世話になっていたころ、一度だけそんな力を見たことがある。

 当時重い病気にかかっていた遥だが、もう助からないとまで言われたほどにステージは進行していた。

 もう駄目だと諦めたとき、意を決したように優子が遥に手をかざした。

 すると遥の体が光り輝き、あっという間に苦痛が消し飛んで元気になったのだ。

 それ以来優子は遥の命の恩人であり、彼女には返せないほどの借りができた。

 当時は魔法か何かだと思っていたが、今考えてみれば帝人たちと同じような力によるものなのかもしれない。


「二人はあの力とか秘密にしてるのかな……。私が知ってるって分かったら二人とも困るよね……あんまり本人たちには言わないようにしておこう」


 優子が最後の最後まで力を使おうとはしなかったことを思い出し、遥は今日見た出来事を自分の胸のうちにだけしまっておくことにした。





















































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