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友人からの相談

作者: やまおか

 オレには付き合っているひとがいる。

 初めてできた彼女だった。

 周囲からは釣り合っていないなどとよくいわれる。

 

 彼女とは大学の頃に出会った。

 友人の紹介だったが、第一印象はいいところのお嬢さんといった感じだった。高校もお嬢様学校だったらしく、男に免疫がないからといってオレに引き合わせたらしい。

 

 話を聞いてみるとバイトもしたことがなく、実家からの仕送りで過ごしているらしい。

 正直、最初の方は話も合わず、彼女とはつりあわないと思っていた。だけど、彼女が行ったことがなさそうな場所につれていくと、あれはなに、これはなにと頼ってくる姿がかわいかった。

 

 卒業後、彼女は大手企業に就職することができたがオレは失敗してしまった。

 落ち込むオレを励ましてくれ、親身に支えてくれた。

 デートのときはおごってくれたりと申し訳なかった。

 がんばってねといってくれる彼女を大切だと思うようになっていた。

 

 だけど、彼女とのすれ違いが増えてきた。

 新人教育が徹底している彼女の職場では、休日でもレポートを書かなかったりしないといってかりかりしていた。

 少しの時間でも会えないかと言っても、その日その日で予定が変わることが多いと断られた。

 先輩や上司に誘われると、新人の彼女は断りづらいらしい。

 

 次第に彼女の態度が冷たいものになっていった。

 社会に出たことがないから、わたしの苦労なんてわからないとこちらの言うことには耳を貸そうとしない。

 話を聞いていると明らかにおかしいことがあった。

 上の言うことは絶対といって、雑用も押し付けられて自分の仕事を後回しにしたせいで帰りが夜遅くなっていた。

 

 友人に相談すると、彼女はちょっと思い込みが強いところがあるからとなだめられた。

 それに、新社会人デビューするとそういう一種の万能感みたいなのがあると笑っていた。大学デビューしたときもハイになっていた時期があったから、そのうち落ち着くといわれたが不安はぬぐえなかった。

 

 電話をかけるといらだった不機嫌そうな声が聞こえる。とうとう「もうかけてこないで!」と乱暴に切られた。

 かけなおしてもつながることはなかった。

 

 *

 

 

 いつからだろうか、彼に違和感を感じるようになっていた。

 初めて会ったときはわたしの知らないことをたくさん知っていて頼りになる人に見えていた。

 

 だけど、会社にはいってから彼のそれはただの張りぼてにしか見えなくなった。

 バイトの経験をひけらかすが、責任もともわない勝手なことばかり。

 就職に失敗したときも、面接しにいった会社はひとつだけで、自分にあった場所をえらびたいといって動こうとしない。

 

 彼は働きたいわけじゃないんだとわかった。

 

 外食のときもわたしが代金を払い、ときにはアパートの賃貸料も立て替えることもあった。

 彼への不満は膨らむばかりであった。

 

 少しでも一緒にいたいから時間をつくってくれというが、正直勘弁してほしかった。映画にいこう、自然公園にいこうと誘われるが、その誘いはいつも唐突だった。

 

 友人に相談すると、もう少し様子をみたらどうかとなだめられた。

 しかし、彼への気持ちは冷め切ってしまっていた。むしろ嫌悪感さえあった。

 

 彼からの電話。話の内容は相変わらず自分のことばかり。

 

「もうかけてこないで、さようなら」

 

 電話を切った直後、すぐにかけなおしてきたので着信拒否をする。

 ここまではっきりと誰かに嫌いといったことはなく、悲しい気持ちになりとにかく眠りたかった。

 

 

 ある夜、ふと気配を感じ目を覚ますと、すぐそばに顔があった。

 恐怖で硬直したわたしの頬に生暖かい息があたる。

 

「おまえ、大丈夫か? ああ、こんなにやつれちまって」

 

 その声は彼のものだった。

 逃げ出そうとしたけれど、手足がしばられて身動きがとれない。

 

 働くって本当に大変なんだなぁ。

 最近ちゃんと食べてるのかな? かわいそうに、まともな食事さえできないなんて。

 そうだよな、ちっちゃいころから親のいうことを素直にきくいい子だっていわれて、習い事に塾も続けてきた。

 こんなにくたくたになるまで我慢して働いて、雑用みたいな仕事をこなす。本当におまえはまじめなやつだよ。

 

 ぶつぶつといい続ける彼が怖かった。

 

 おまえ、会社にはいって変わっちまったからな。

 仕方ないよ、あんな眠る時間もほとんどなくて、食事もまともにとれない。おまえは洗脳されているんだ。

 

 オレが助けてやるよ。おまえ、このままじゃダメになる。

 

「なあ、おれたちはまだやり直せる。そうだろ?」

 

 暗い部屋の中で甘えるように囁く彼の声が聞こえた。

 

 

 *

 

 

 最近、友人である二人の雰囲気がよくなかった。

 

 二人とは大学で別々に出会い、3人で一緒にいるようになった。

 お互いに気にしているようだったので、背中を押しみるとだんだんと距離を近づけて付き合い始めた。

 二人きりで出かけることも増えて、寂しさを感じながらも祝福した。お互いから相談を受けることがあったが、砂糖を吐きそうなノロケ話であることが多かった。

 

 卒業を迎えたが、彼は就職に失敗してしまい二人の仲がこじれないかと不安に思った。しかし、彼女が彼を健気に支える姿を見てやっぱりあの二人ならうまくいくとちょっとうらやましくも思った。

 

 だけど、ここ最近二人からの相談の電話やメールが増えた。お互いの不満を占める割合が増えて、だんだんと不安は募っていく。

 

 そこに彼からのメールが一通届いた。

 

「彼女とちゃんと話し合って、わかってくれたよ。会社も辞めることになるかもだけど、そのほうが彼女にはいいと思うんだ」

 

 少し遅れて彼女からもメールが届く。

 彼のものと似たような文面で、仲直りできたことにほっと安心した。

 

 

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