それは何ですか?
ちょっと短いかなぁって思ったので少し増やして見ました、けけけ、決してうまく纏まらなかったとか、あ、止まんないとかなったとかそう言うわけではありませんのことよ?
place:始まりの町ノルン
「ぼ、ぼ、防具を、くださいっ」
「……は?」
一人の女性生産職プレイヤーに声をかけた潤は氷点下の声色で迎撃されることになった。
もともと生産職にも防具職人だけでなく武器職人やアクセサリー、消耗アイテムに至るまで、さらにそれらのジャンルの中でも細かく住み分けがされているとなればその辺りの事情を一切考慮せず無茶なお願いをした潤の方に問題があったと言えなくも無かった。
◆◇◆◇◆◇
place:始まりの町、ノルン:軽食処ハロハロ
「と、言うわけでだ、あたしは重鎧を作ってるんであってあんたの欲しがってる革鎧なんかはあたしの専門外だよ」
「むう、そうだったか、知らなかった、ごめんなさい」
「いや、良いんだけどね、それよりあんた、他の生産職の心当たりはあるのかい?」
「いや、誰も居ない……今まで誰とも話してこなかったし」
そう潤が告げた途端一気に空気が重くなり、潤を見る目は一気に同情や憐れみを含んだものになった。
「あ、ああそうかい、ほら、今あたしと話してるし、生産職仲間紹介してやるから、な?」
「……むう、同情?」
「い、いや、ほら、あれだよ、えっと、ほら、将来有望な奴との顔繋ぎみたいな」
「DEX振りの斥候弓と?」
「うぐっ、いや、それは、ほ、ほら、まだ検証の進んで無い分野使うプレイヤーだし?」
「…ぷぷっ慌ててる」
どんどん暗くなっていく空気とそれにともなう彼女の慌てっぷりは潤がとうとう我慢しきれなくなった所で霧散した、そもそも潤は今まで人と話したことが無かったことを大して気にしてはいなかったし、それをネタにするだけの心の余裕も未だ失っていなかった。つまりはたんに彼女をからかっただけなのであった。
「あ、てめぇからかったのかよ」
「可哀想な子扱いするからつい…ぷぷっ」
「よっしゃその喧嘩買ってやろうじゃないか、表出ろやコラ」
いつしか二人の間には親密な空気が漂い、いかにも楽しげに笑っていた、潤の初めてのフレンド、椿との出会いだった。
◆◇◆◇◆◇
place:始まりの町、ノルン:ウェキナス服飾店
「…ここ?」
「ああ、割りとふざけたやつだが布と革の扱いにかけてはこいつより上手い奴をあたしは知らないよ」
「…そう、じゃあ、行く」
「あ、おいちょっと待てよ!」
そう言ってすたすたと店舗へ入ろうとする潤を慌てて捕まえる椿、猫のように持ち上げられることに潤が少々不機嫌になる。
「むう、何?」
「何?じゃねぇよ、あいつ…ウェキナスがログインしてるかもまだわかんねぇだろ?」
「…確かに、所でそのウェキナスって言うのが名前なの?」
「?ああ、そうだが?」
どうやら本気で言っているようであった。
◆◇◆◇◆◇
place:始まりの町、ノルン:ウェキナス服飾店
「へぇ、で、その子がアタシの鎧が欲しいって子?へぇえー」
ウェキナスはログインしており、現在時間も空いているという事ですぐに会うことになったのだが…はっきり言って潤は全力で後悔していた、禿頭巨漢の漢女なんて聞いていない、それ以前にゲームなんだからもっとそれっぽいアバターにしろよ、とか、全力で現実逃避をすることでなんとか精神の安定を図ろうとしていた。
しかし現実逃避による精神の安定は時に甚大な被害をもたらす…例えば今数センチの距離から漢女にじろじろ見られるだとか、そういう時に。
「うん、良いわ、それで僕、何が欲しいの?」
「え?あ?男!?」
「え、あー胸当てと布も扱うなら短めのローブもお願いしようかな…」
椿と潤の声が重なる、椿は潤が男であった事に驚き、潤は性別を正しく認識された事にいささかの感動を滲ませながら自分の要望を伝えた。
「あら椿ちゃん、女の子だと思ってたの?いーい?女の子っていうのわね、体の奥から滲み出る色気があるものよ、アタシみたいにねっ」
ウェキナス、セクシーポーズからのフェロモンアピール、とどめにバチコーンっとウインク、一瞬感動しかけた潤はやはり生気を失いかけていた。
「ああ、そうそう、潤ちゃん?だったかしら、ごめんなさいね、ローブはすぐに用意出来るのだけど、胸当てはオーダーメイドになるから少し値段が張るわよ?」
「うっ、因みに、おいくら位で?」
「そうねぇ、椿ちゃんのお友達だし、お安くしておいて最低でも10000ミルス位見てなさいな」
恐る恐る尋ねた潤に返ってくるのは慈悲の無い自費出費の宣告だった。
「あーうー、稼いでから出直して来ます…」
そう言って背中に哀愁漂わせながら出口へ向いた潤に、朗報が投げ掛けられた。
ゲームなのに漢女…これいかに、いや男の娘してる主人公にブーメランしてるとか言わないたげて?