表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

7話がらすくず

ーー願わくば、あなたの体が壊れてしまいませんように。

母は髪を乱し、猫背のまま大人しくなった。

父が立ちすくむ母にそっと近付き、壊れ物を扱うように抱きしめる。


「…緑?…大丈夫だよ。今日はもう休もう。」


父の腕の中で母の頭がふるりと震えたのが見えた。

正気なら快活な母が、今はひどく弱々しく僕の目に映っていた。


「ゆうはもう出なさい。遅刻してしまうよ。」


頭だけ振り返って父が優しく小声で言った。

確かに予定していた時刻よりも、随分と遅くなってしまっている。


「わかった。お父さんは?」


「緑を寝室で寝かせてから、仕事に行くよ。僕はまだ時間に余裕があるからね。」


「お願いね。……これは?」


これとは、キッチンの惨状のことだ。

父が大きなガラス等の欠片は集めて端っこに寄せてあるとはいえ、まだキャベツやまな板や目に見えない小さなガラス屑が散乱している。

これを綺麗に片しているような時間はないが、このまま放置して出掛けるのもしのびない。


「仕方ないよ。これをやっていては僕が遅刻してしまう。ああでも、緑が家にひとりでいるから心配だなあ。」


そうだ。起きだして、ぼーっとした母が、気づかずにここを通ってしまう可能性がある。


「…じゃあ、飲み物と軽くつまめるものだけダイニングに置いて、キッチンは立ち入り禁止にすればいいんじゃないかな?ガムテープとかで。」


「ああ、それはいいね。」


父がふわっと母を抱えあげた。

父はどちらかと言えば細身でそれほど力持ちではない。けれど、母がここ7年で痩せこけ、驚くほどに軽くなってしまったので、そんな父ですら母を軽々と持ち上げられる。もちろん、僕も。


「ゆう、あとは僕がやっておくから。行ってらっしゃい。」


「うん。行ってきます。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ