2話よわいこころ
ーー願わくば、この弱さがあなたの中に見つかりますように。
部屋をでて、目の前の長い廊下を見て、胸が締めつけられた気がした。
僕の部屋は廊下の突き当たりにある。隣に同型の部屋がひとつあり、その奥は物置、トイレという構造になっている。そして、トイレの正面に下り階段がある。
ここから1階に降りるには、この廊下を反対の突き当たりまで歩かなくてはならない。
その道のりが、ひどく長く感じる。
たった8歩。大股なら5歩の距離。
それが、つらい。
僕はいつものように視線を落とし、できるだけ床だけを見るようにして、ゆっくりゆっくり隣の部屋の前を通り過ぎる。階段までたどり着いたら、あとは逃げるように一気にかけ下りた。
いちばん下まで降りた瞬間、胸中に罪悪感が広がった。
(あ………ちがう。ちがうよ。怖いんじゃないんだ。)
「ごめんね。……僕の心が弱くて。」
僕は顔をくしゃりとゆがめて、階上に謝った。でも返ってくるのは静寂で、当たり前だとわかっているのに、落ち込んでしまう。
とぼとぼと洗面所に向かうと、そこには先客がいた。
「…おはよう、お父さん。」
「おはよう、ゆう。今日は随分と早いね。」
父が柔らかく微笑み、挨拶を返してくれた。父は細身で童顔なので、年齢の割に若く見られることが少なくない。いまは洗顔をしていたのか、前髪がほんのり湿っていた。
父と立ち位置を変わって、僕が鏡の前にたつ。寝ぐせをなおして、制服を整える。目につくシワを全てのばし、ホコリを払い落とす。
横で僕の行動をじっと見ていた父が、しみじみと呟いた。
「ああ…そうか。今日は特別な日だったね。」
父の方に顔だけ向けて、ほんの少し笑ってみせた。心から笑えていたと思う。
目を戻すと、鏡の中の僕のいつもと同じ制服が、いつもより少しだぼついてみえた。