1話にちじょう
ーー願わくば、平和な日々が続きますように。
ーーブロロロロ
自動車が外を通り過ぎる音で、はっと目が覚めた。
すぐに息を殺し、耳をすませる。
……………
(うん、静かだね。今日は(・・・)、大丈夫。)
ほっとしつつ、起き上がり服を着替える。いつもより少しだけゆっくり、丁寧に合わせのボタンを閉める。
目覚まし時計で時刻を確認して、アラームを切る。
ここ数年、アラームが仕事をしたことは1度たりともない。それを思い起こすと、押さえ込んでいた鬱々とした気持ちが湧き上がってきた。
(ああ、だめだめ。今日は特別な日なのに)
慌てて心の奥底ノにしまい直す。
(表面上だけでも。楽しくしないと)
無理やり口角を上げて、笑顔を形づくる。こうすると、少し気分が浮上した。
クローゼットから、いつもは使わない黒い小さな手提げ袋を取り出して、筆箱と上履きだけ詰め込む。
それをかかえてドアノブに手をかけようとして、その前に最後に部屋を見渡す。
水色のカーテンから漏れる陽の光だけの薄暗い部屋。
整然と並ぶ教材。
いつもと変わらない、僕の部屋。
(どうか、どうか今日は正気でありますように。)
冷たい扉に額をつけ、向こう側へ請い願う。
これも、もはや日常となってしまった。それでも、毎日毎日心から深く祈る。
閉じたまぶたの裏に7年前の記憶が映りこんだ。幸せだった日々。でもそれは光のように瞬いて、薄れて消えていってしまった。
溢れ返りそうな郷愁を胸に、僕はそっと部屋を出た。
執筆の都合で傍点の振り方を、
明日は(・・・)
というように変えました。
多少読みにくいかもしれませんが、ご理解くださいませ。