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流れ落ちた色彩の世界で  作者: 海野そら
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小話-1 少し前、青の国では

別の人視点の話です。挟んでみました。

 

 ────コーヴァン公爵領、当主室



 広い部屋の中、執務机の横で二人の男性が向かい合っていた。


 落ち着いた色合いの調度品は、質が良いことがわかる。それにゴテゴテ、ギラギラとした品のなさは感じられず、この屋敷の主人のセンスが感じられるようだった。




「父上!それでは…誰かがパピリオ・ラキュム湖まで向かわねばならないと言うのですか…?!」


 精悍な顔立ちの青年が、そう父に問うた。



「それしか…方法はないのだ。クラリスは重度の魔凍病と診断された。あの湖畔に咲くパルマタンとリリウム、プリムーシェと泉の水が必要なのだ…。他の材料はこの街でも手に入るが、それだけは…かの湖でしか…手に入らない。」


 父と呼ばれた青年に似た壮年の男性は、悲痛な面持ちで答える。


「出来ることならば…信頼出来るものに頼みたい…。だが、事態は一刻を争うのだ。クラリスはどれだけ手を尽くしても7日程度しか持たないと、そう言われた…。」


 かの湖までこの街から2日から3日かかる。そのため、薬が間に合うか瀬戸際という所だった。


 そして青年は父に言う。


「私が、私が向かいます!今であれば…銀色猫もまだこの街にいます。彼らとともに向かえば…間に合うはずです!いえ、間に合わせてみせます…!ですから、許可を!父上!」



「出来れば…お前に頼みたくはないが…子を二度と失いたくはないのだ。必ず戻ってくると誓ってくれるか…?」


 青年、ジャスパーは唇を噛み締め、それから父に向かって力強く言った。


「誓います。必ず、必ず薬とともに戻ります。お任せ下さい。」





 魔凍病に侵され眠っている妹、クラリスの元に、兄のジャスパーは向かった。


「私は少し出掛けてくるよ、ただ必ず戻るから…。安心して、お眠り。」



 魔凍病は、初期症状は風邪と似ている。熱が出るのだ。そしてその熱が治まった後、体温が下がり続ける。徐々に冷えていく身体を温め、リリウムとプリムーシェという治癒と魔力循環に効く薬草を煎じた薬湯を飲み続けることで、完治する。

 だが、極めて稀に重度の魔凍病に掛かった場合、パルマタンと呼ばれる特殊な花が必要となる。そのため、重度の魔凍病に掛かったものの多くは助からないと言われている。



 そんな妹の額にジャスパーは唇を落とした。

 触れた額がひんやりとしたことに、身体は震えた。


「おにい…さま……?」


 クラリスが微かに目を開け、囁くように言った。


「クラリス、すまない、起こしたか?私は少々出掛けてくるよ。ゆっくりと休んでおいで。」



  「はぃ…。おにいさま…。お気をつけて……。」


 クラリスの返事を聞き、ジャスパーは静かに部屋を後にした。






 数年前から数多く見られるようになった魔獣の影響により、パピリオ・ラキュム湖のあるサクリス・ヴィリディ山周辺は特に危険となっていた。

 それは空気中に溢れる魔法の素、マディアの乱れによって、その循環がおかしくなっているせいだと考えられている。


 そんなところに我が子を送りたくはない。だが、妹のためと願い出た息子を止めることは、テオドール・コーヴァン公爵には出来なかった。








 ────コーヴァン公爵領、冒険者ギルド



「バタンっ!」


 行儀の良い者達ばかりでない冒険者ギルドのドアが大きな音を立て、開いた。


「すまない!銀色猫のパーティーはいるか!?」


 慌てたように駆け込んできたのは、ジャスパー・コーヴァンであった。



 受付に座るシェリーは慌てた様子のジャスパーに答えた。


「銀色猫の皆様なら、ギルマスの部屋におりますが……?何かありましたか?」



「火急のようなのだ、すぐに会いたい!通してもらえるか?!」


 普段の穏やかで落ち着いた雰囲気とは異なり、何かを焦っているような様子に、シェリーはすぐに通すことを決めた。


(おそらく今は、先日の直接依頼の報酬について話して…終わった頃だと思うわ。皆さん知らない仲ではないのだし、急いだ方が良いわね。)


「…分かりました、お通し致します。」


「すまない。感謝する。」

 ジャスパーはそう短く答えた。




 シェリーに案内され、ギルドマスターの部屋の前まで着いた。



 ──コンコン


 シェリーが部屋をノックすると、ギルドマスターであるバルドが顔を覗かせた。


「いまは銀色猫と会議中だったのだが…急ぎの要件か?」


 そうバルドが答えると、シェリーも返答する。


「申し訳ございません。ジャスパー・コーヴァン様がすぐに銀色猫の皆様とお会いしたいそうで…火急の用件だと。お通ししても宜しいですか?」


 そこに焦ったようなジャスパーの声が混じる。


「すまない、バルド!妹のクラリスの件で至急、銀色猫に依頼したいことがあるんだ!話をさせてくれないか?」



 その声は中にいた銀色猫のパーティーメンバーにも聞こえた。


「ジャス?!妹のことってどうしたんだ?!ギルマス、いま話してた件はまた後にしよう。それよりも、ジャスの話を聞いても構わないか?」


 そう答えたのは、銀色猫のリーダーであるカーティスだった。


「あ…ああ、いいぞ。俺も聞かせてもらって構わないか?」


 そうバルドは答え、ジャスパーを中へ招き入れた。



 ジャスパーとバルドが椅子へ座り、ジャスパーは膝の上で拳を強く握り、辛そうな顔で徐に話し始めた。


「実は…妹のクラリスが重度の魔凍病に掛かった。そこで…サクリス・ヴィリディ山のパピリオ・ラキュム湖に向かい、薬草採取を行いたい。猶予はほとんどない、早く行かなければクラリスが…!だから、頼む。俺と湖まで行ってくれないか!?依頼は公爵家から指名して出す。だから…頼む…。」



 銀色猫のパーティーメンバーとバルドはその状況に思わず息を呑んだ。


 そしてカーティスはメンバーと顔を見合わせ、頷く。


「よし、その依頼、受けるぞ。何度も一緒に戦った奴が困ってるのに、断るわけないだろう。」


 それを聞いたジャスパーは顔を上げ、感謝を述べるのだった。


「ありがとう…!よろしく頼む…!!」




 そしてジャスパーとともに銀色猫は、パピリオ・ラキュム湖へ向かった。





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