初合
投稿がかなり遅くなってしまいました。
これからも可能な限り1話分の内容を濃くする所存ですので、宜しくお願い致します。
尭景にはじめて生まれた心。それは、ちょっとした『恋心』だった。当然、見た目だけであって、根から『好き』という感情を抱いたわけではない。けれども、その美しい姿は、クラス中を一瞬にして魅了した。
「はい、こちらが今日から皆さんと一緒に生活することになります、南野零奈〈ナミノ レイナ〉さんです。では、自己紹介をしてもらいましょうか」
ナミノレイナ...随分と珍しい苗字だな。でも、レイナって中々かっこいい名前だよな...
それはそうとして、自己紹介...大事な局面だ。この南野さんがどんな人か自分から動かずによく知れる、絶好の。彼女の得意なことや所属部活など、基礎情報を十分に知れるだろう。でも、その反面、もし彼女が少し変わっていたり、変な癖があったり、ましてや根暗だったら...そういう怖さもあった。
自分の胸の鼓動が激しくなるのを他所に、彼女の言動に全霊を向ける。
「えー、東京から来ました、南野零奈と申します。得意なことはサッカーです。一応、昔サッカーチームに所属していました。苦手な事は料理や裁縫とかの手先が必要な事です。私はとても不器用なので..
後、得意な科目は数学です。女子なのに数学が得意って珍しいね、とよく言われてました。部活は、前の学校でテニス部だったので、この学校でもテニス部に入る予定です。まだ来たばっかりで分からないことだらけなので、よければ色々教えてくださると嬉しいです。これからよろしくお願いします!」
彼女がドヤ顔で言い終えた瞬間、教室中から拍手がおこり、再び活気を帯びた。俺も意味はないけど目立つように大きく拍手。そこからまた南野さんについて話が始まったが、そんなことはどうでもよく、俺は心の中で余韻に浸っていた。
「(うぉー、なんだ南野さん、顔だけじゃなくて声も可愛い...しかも、数学が得意でサッカー...部活はテニス部って文武両道...おとなしい見た目なのにスポーツ万能って最強だな...でも不器用らしいから完璧じゃないのか...いやでも、最後の言い切ったぞっていうドヤ顔も可愛かったな...あと、大事なのは性格だよな...南野さん、あの感じだし明るいだろうけど、あと、ついでにむn、)」
「海座くんの隣に」
「はい?」
不意に自分の名前を呼ばれ、思わず声を出してしまった。何が起こったか分からず前を見るとなんと、
彼女がこっちまで歩いて来ていた。 俺は思わず席ごと後退りしてしまったが、彼女は堂々と俺の隣に座る。話を聞いてなかったからかもしれないけど、あまりに突然のことだった。俺の胸が再興するのが感じられる。
そこからは本当に緊張というか戸惑いまくったせいで、記憶にないが、そのとき、かつてないほどのドキドキを感じたのだけは覚えている。
朝の会も終わり、5分間ぐらいの休憩、いや雑談タイムだ。 数名の積極的な女子は早速南野さんのところへ行き、南野さんは囲まれる。一方、俺らは小声で話しはじめる。ある男子が俺に、
「なあ、南野さん超可愛いしさ、お前の隣ってヤバくね?」
うん、実際ヤバイよ。今までに無いぐらい可愛いし。でも、どういう経緯があったのか気になるのでそれを聞いてみる。
「けどさ 、何で南野さん俺の隣に座ることになったの?」相手は何言ってんだよという顔で、
「いや、お前の隣しか空席ないのに逆になんでわざわざ他の所に座るの?」
言われてみれば、確かに。今までずっとぼっちは嫌いだけど、1人席は好きだったからここ数ヶ月1人席で、隣に人がいる状態で授業を受けるという概念をすっかり忘れていた。
「というかお前先生の話聞いてなかったのかよ?まさか、南野さんのことばっか考えてたり?」!!! すっかりと見透かされていた。図星で思わず動揺してしまったが、俺は
「違う!単に俺はあんな長い話、眠くなるし聞きたくないだけだから!俺は南野さんの有無に関わらないでどっちみち聞かないし!」
そう反論すると、
「まあな、確かに聞いても聞かなくても何も変わらないし、どうでもいいよな でも、別にそこまでキレ気味にならなくてもいいけどね〜」
そう言うと相手はそそくさ席に戻っていった。
ったく、何なんだよアイツ...どうせお前も南野さんについて色々思索してたくせに...しかも、あんな可愛い女子が俺の隣席って...こんな都合の良いことそうそう起こらないぜ... やっぱ、ここはチャンスかもしれない...!今までそういうことに全く縁がなくても、この子も0からのスクールライフビギン...まだこのクラスや学校の情勢なんか無知なんだから、こんな俺でも頑張れば...
いや、あんまそういう事に期待しない方がいいな...大体、俺がそんな大胆な事できる訳ないし、そもそも女子と仲良くなるための関わり方なんかもう...ちょっと知り合いになればいいよね...
そんなネガティブな考え事をしていると、もう1時間目開始のチャイム。1時間は社会か...話が多いからついつい眠くなってしまう。
担当の中野先生が入ってくる。最初の挨拶はいつも通りだが、先生も転校生が来たって事は知ってたらしい。触れずに放置して、1人浮かせるのを不憫に思ったのか、
「えっと、新しく来てくれた南野さんだよね?社会って前の学校でどのぐらいまで進めたのかな?」
「室町時代の終わりぐらいまで進めましたね」
「そうなんだ、こっちはまだ鎌倉の滅亡までしか行ってないから、ちょっと反復内容になっちゃうかもしれないけど、ごめんね」
そんな先生と彼女の他愛のない会話の後は、眠気に必死に抗いながらただ淡々と退屈でいつもより長い授業を受けた。
いきなり気になっている転校生の隣で居眠りなんて言語両断だ。いくら未熟な俺でもそんぐらいは分かる。ただ、ここから彼女とどう関わればいいのか...全く想像がつかない。緊張するけど、少し話し掛けてみるのもいいかな...
どうすればいいのかまた色々と考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。
少し緊張したからなのか、眠気とずっと戦っていたからなのか、時の流れが遅かったように感じられた。