プロローグ 月が誘う予想外の出会い
同じカドカワBOOKSで書籍化されている、港瀬つかさ先生のとこの子たちと、クロスオーバー作品を連載することになりました。
妹が異世界に聖女として召喚されてから、数ヶ月が経とうとしている。
巻き込まれた形で召喚された私も、すっかりこちらでの生活に慣れてしまった。毎日、妹のために食事を作りながら、ときには異世界人たちと晩酌しつつ、日々楽しく過ごしている。
季節は春の盛りを迎え、夜になっても肌寒くなることが少なくなったことから、よく「酒好きな知人」と一緒に、縁側で月見酒と洒落込むことが多くなった。
その日も、突然押しかけてきた「酒好きな知人」と、夜空に浮かぶ月を眺めながら、杯を傾けていたのだけれど――。
「ほほ。ヒトの子よ。明日は満月。きっと面白いことが起きるぞ」
「……ティターニア?」
「酒好きな知人」……妖精女王であるティターニアは、大きな月を背に笑みを浮かべた。
彼女は、とある晩にひとり晩酌をしていた私の下に現れた、所謂「人外」という奴である。
それも妖精の女王――正直、なんでこんな凄い存在と一緒にお酒を飲んでいるのか、自分でもよくわからない。彼女はあの晩以来、夜になると足繁く私の下を訪れるようになった。
機嫌を損ねると、呪いを振りまくこともある存在。酒を心から愛する、気まぐれな妖精女王――正直言って、恐ろしくもあるけれど、どこか魅力的な彼女との晩酌を、私自身楽しんでいる部分もある。
ティターニアは、手の中の杯を飲み干すと、ちらりと庭に視線を向けた。
「異界から聖女とお主、そしてこの家が召喚され、どうやら世界の境目が曖昧になっているようじゃ。最近、退屈しておったからのう。愉快なことになりそうじゃの。良きかな、良きかな」
「ちょ……それって、どういうことなんです!?」
妖精女王の不吉な予言に、慌てて問いただしてみたけれど、彼女は上機嫌で酒をねだるばかりで、明日何が起きるのかは教えてくれなかった。
「ああもう!」
若干、苛立ちを感じながら、青白い月の光が照らし出す庭に目を遣る。
明日……一体、何が起きるというのだろうか。
――きっとまた、大変なことになるんだろうなあ。
今まで自分に降り掛かってきた、異世界らしい不思議な出来事を思い出しながら、月を見上げる。
――ええい。明日になればわかることだもの。今から悩んでても仕方がないよね!
私はやけっぱちになって、思い切りビールを呷った。
そして次の日の夜。
私の目の前に現れたのは、黒髪に大きめの眼鏡を掛けた、優しそうな少年。
唐突に、庭の茂みの中から現れた彼は――。
「……ええと、あれ? ここはどこだろう」
おっとりと慌てる様子もなく首を傾げ、私を見つけると「こんばんは!」と丁寧に挨拶をしてくれたのだった。
彼の名は「釘宮 悠利」――彼との新しい出会いが、また様々な事件を起こしていくのだけれど――その時の私は、のほほんと我が家を見てはしゃいでいる男の子に、どういう反応をすればいいか、只々戸惑うばかりだった。