役割
「やあ、調子はどうだい?」
地上より遥か上空、雲の上。ふかふかの雲に横たわり、暇そうにしている雷神の許へ、風神が訪れ声を掛けた。
雷神はむくりと起き上がると、風神に向き直り言った。
「どうもこうも見ての通りさ」
時間を持て余しているのであろう雷神の様子は誰の目から見ても明らかであったが、かといって、決してやる事がないのではない。風神は聞いてみた。
「君には地上に雷を落とすという大切な仕事があるはずだが…。何か訳がありそうだな。良かったら話してくれないか」
風神の言葉に、雷神は語り始めた。
「雷を落とす意味を見出だせないのさ」
「意味?」
「そう、意味だ。今までは気にもしなかったんだが、ある時、僕の落とす雷には何の役割があるのかと、ふと考えたんだ」
「ほう」
「例えば、雨は地上の渇きを潤し、植物の成長には必要不可欠なものだ。風神、君の生み出す風だって、鳥が大空を飛ぶのに重要な役割を担っている。それに比べて、僕の雷はどうだ。地上に落とせば、人間に有り難がられる事もなく、逆に疎ましく思われる始末だ。僕の雷にはどんな役割があるというのだ。意味を見出だせなければ、やる気もなくなるというものだ」
一通り話を聞いた風神は頷き言った。
「なるほどな…、雷神の悩みもわかるが、この世に意味のない事なんてないんだぜ。だから、君の雷にだって何らかの役割があって、何処かで役に立っているはずさ」
「そうかなあ…」
「そうさ、雷を落とすなんて、世界で君にしか出来ない凄い事なんだ」
「ううん、何故だか君の言葉を聞いて、そんな気がしてきたぞ!! 僕は凄いんだ!!」
「そうだ、その意気だ。さあ、地上に雷を落とそう」
風神に元気づけられた雷神は、近くに置いていた仕事道具である雷太鼓をバチで勢いよく叩き、太鼓から発生した無数の雷は、「ゴロゴロ」という轟音をあげ、地上に降りそそいだ。
雷神が単純な性格である事を知っていた風神は、ポケットから電池残量が十パーセントを切ったスマートフォンと充電器を取り出すと、太鼓が発生させた雷で充電をしながら、
「それー!! 頑張れー!!」
と、いつまでも雷神を応援していた。