第7話 ストレスは健康に良くない
「ぐわぁぁぁぁあああああ!?」
課長は、思わず名刺ケースを投げ、膝は震えて、力なく地に落ちる。
投げたケースから、名刺が滑り出て、桜吹雪のように舞い、地に落ちる。
い、胃がよじれるぅぅぅ……。明後日の商談に自信が持てなくなってしまうぅぅぅ……。
し、しっかりしろ! まだ、勝負は終わってない!
課長は震える手で、地面に散らばった名刺を無造作に拾う。
5枚の名刺を、扇のように持つと、片膝を付き、再び立ち上がる。
前沢課長は、うつろな目で彼方より、こちらを見下し、この身に苦痛を植え付ける、冷血な上司を見つめ。恨みつらみを巡らすと同時に、尊敬すら覚えた。
さすがだ…………何ら関係ない、製薬会社の人間すらも、ブレーンにするとは。さすが、常務に登り詰めるだけはある。
どんな人間も、人脈として取りこむ営業能力と、顔の広さ。得た人脈を、最大限活用する、卓越した経営手腕。
俺もあやかりたい……。
だが、俺はアンタじゃない! アンタのように、部下を踏み台にする、鬼畜上司にはなりたくない!
ターン、前沢課長。
「俺のターンだ! 大手パソコンメーカー、ネムEC。海外事業部、部長名刺! ネムECは前年度の売り上げが3,800,000円」
召喚された、ネムEC。海外事業部、部長は、海外ブランドのスーツを着込み、見事な七三分けの髪を見せつける男だ。海外出張が多いせいか、肌は麦色に焼けている。
課長と主任研究員は、通過儀礼を果たし、名刺を交換する。そして、二つの幻は、交換した合った名刺を眺めている。
そして――――。
ブルーアイズ・ホワイト製薬、主任研究員の幻は、盛大に爆発する。
攻撃:課長→常務
役職:部長>主任研究員
ネムEC - ホワイト製薬 = ストレスダメージ
3,800,000円 - 2,000,000 = 1,800,000
常務 - ストレスダメージ = 残りライフポイント
10,000,000 - 1,800,000 = 8,100,000
遠くで、異世界数字の竜巻に、串刺しにされた幕ノ内常務が、よろめく姿が見えた。
苦痛から解放された、幕ノ内常務がこちらを、ゆっくり睨みつける。
その眼光は、修羅からはいでた者の、この世の苦行が、なんたるかという、真理を知った目だ。
前沢課長は息を呑み、次なる苦行に耐える為、身構える。
ターン、幕ノ内常務
幕ノ内常務は、あらゆる顔面のシワが寄り集め、ほくそ笑む。
それは、まるでトランプに描かれた、カードのジョーカーのごとく、不適な笑いだった。
「部下とは言え、決闘の場で手を抜くのは失礼だからね。ここからは本気で行かせてもらうよ……大手コンビニチェーン。エイト&Lホールディングス。重役名刺を配置」
投げた名刺が紅く光り、重役の幻が召喚される。
重役の腹は、風船のように膨らみ、スーツのボタンがはち切れそうになる。
髪は白髪で統一され、月明かりに照らされると、銀色に輝いた。
「このまま部下にやられっぱなしでは、上司の威厳に関わる。行くぞ! ネムEC、部長名刺に攻撃!」
攻撃:常務→課長
役職:重役>部長
エイト&L - ネムEC = ストレスダメージ
6,000,000円 - 3,800,000円 = 2,200,000
課長のライフポイント - ストレスダメージ = 課長、残りライフポイント
4,900,000 - 2,200,000 = 2,700,000
「ふんっ、にゅぅぁぁあああああああ!!!」
前沢課長は苦痛に耐えようと、もがくが、強烈なストレスダメージにより、もがき苦しみ、身体をよじる。
正気を取り戻した、課長の攻撃が始まる。
ターン、前沢課長
「負けるかぁ。俺のターン! 三つ子物産。専務カードを召喚! 三つ子物産は、前年度の売り上げが、4,800,000円」
「三つ子物産か……私が君に紹介した、ブレーンではないか? ついに、恥も外聞も、己のプライドすら捨てて、勝ちを取りに来たか。全く、情けな……」
常務が、垂れるこうべを言い終わる前に、前沢課長は次の手札を切る。
「そして、次の行動は攻撃ではなく、サポートを使う――――コネカードを使う!」
その言葉を聞いた常務は、眉を潜め、悪態を付く。
「コネカードだとぉ?」