第6話 ここは、地獄の異世界一丁目
2ターン――――2ターンも相手に許してしまうとは……。
肉食動物に噛みつかれ、走れない足を、必死で引きずり、逃げようとする鹿を、狼がゆっくりと前足を、ジワシワ伸ばしながら追うようなものだ。
しかも、その狼は、追いつくた度に足を止め、鹿が逃げる時間まで与えるという、遊びまで出来る。
俺は間違いなく、足を引きずる鹿だ。
そして、鹿をもてあそぶ狼は、目の前の上司――――。
幕ノ内常務の顔が、自然と、卑しい表情を形作る。
「すまないねぇ。2ターンも譲ってもらうとは…………では、遠慮なく行かせてもらうよ」
ターン、幕ノ内常務。
常務は、手元に持つ、4枚の名刺から、1枚を指でつまみ取ると、春風に流すかのように放る。
大手通販サイト、ユニゾンの専務名刺に、並ぶように、力場で浮く。
紅い光柱から、現れたのは、白衣を着た、研究者を思わせる、小柄な老人。
髪は綺麗に抜け、顔はブルドッグのように、シワというシワが、重力に逆らえず、垂れ下がっている。
そんな幻に、前沢課長が、怪訝な顔で警戒していると、幕ノ内常務は丁寧な説明を添える。
「我が社が主催する。ゴルフコンペで、親しくなった。ブルーアイズ・ホワイト製薬の主任研究員だ。前年度の売り上げは、2,000,000円だ」
前沢課長は、常務が自慢気に話す、説明を聞きながら、フィールドに配置された、2枚の名刺の組み合わせに独自の考えを巡らせる。
「商事会社と製薬会社が、ゴルフコンペで、どうやって知り合うんだ? しかも、通販サイトと製薬会社? 関連性のない組み合わせだ」
常務は続ける。
「更に、サポートカード。四田銀行カードを配置。銀行カードは、企業の新規事業や提携事業に融資して、事業を成功させるカードだ」
3枚並んだ名刺を見て課長は息を呑む。
「通販サイト、製薬会社、銀行……まさか?」
「その、まさかだよ、君。ネットショッピングで、ジェネリック医薬品の販売が開始。
そして、その通販サイトと提供を果たしたのが、ブルーアイズ・ホワイト製薬だ。
ネットでの医薬品販売に融資を買って出たのが四田銀行だ。
そして、通販によるジェネリック医薬品の売り上げは急速に伸び、これにより提携を結んだ企業は一気に株価が上昇」
提携攻撃:常務→課長
ユニゾン + ホワイト製薬会 = ストレスダメージ
2,800,000円 + 2,000,000円 = 4,800,000
幕ノ内常務は、古代の皇帝が国民へ、戦いへの、勝利宣言をするかのごとく、高らかに叫ぶ。
「ダイレクト、コンビネーション、ストレスダメージ!!」
課長のライフポイント - ストレスダメージ =課長、残りライフポイント
9,700,000 - 4,800,000 = 4,900,000