第13話 勝利の美酒は、高らかに……
前沢課長は、ほうれい線をつり上げて、静かに口を開く。
「さぁ……土下座の準備は出来たか?」
「や、やめろぉぉぉおおお~」
幕ノ内常務の魂の叫びを無視して、課長はマチダ・ナノテックス、会長名刺に、指示を出す。
「行くぜ! シィット・ブラック・スーパーバイザー・オン・ザ・ダブル・リターン・アタァァアアァク!!(クソ上司に、倍返し)」
攻撃:課長→常務
役職:会長>相談役
マチダ・ナノテックス ― ホンバ = ストレスダメージ
10,000,000 ― 9,400,000円 = 600,000円
常務ライフポイント - ストレスダメージ = 常務、残りライフポイント
6,100,000 - 600,000 = 100,000
異世界数字の猛攻に、幕ノ内常務が悶絶する。
「ぐわぁぁぁぁあああああ!!?」
幕ノ内常務は、手に持った名刺を投げ放し、よろめきながら片膝を地に着け、一張羅の、グレースーツを汚す。
桜吹雪のように、彼の名刺が舞った。
憔悴した前沢課長は、そんな彼を見て。これ以上、立ち上がらないでほしいと願った。
しかし―――――その願いは、無残にも打ち砕かれる。
常務は不適な笑いを浮かべて立ち上がる。
「ふふふ、まだだ! まだ終わらんよ! 私のターン!」
幕ノ内常務は、地に落ちた名刺を、2枚握りしめ、1枚を投げ放つ――――。
「巨大ショッピングモール。ジーオンをフィールドに配置! ジーオンは前年度の売り上げが、8,000,000円!」
まだ生きている、エイト&L、重役名刺の横に並ぶ。
紅い光柱が、不気味に輝き、精悍な顔つきの、中年幻が現れた。
「馬鹿な? リーマンショックカードで、景気は落ち込んでいるのに?」
「だから君は、半人前沢なんだ! ここに、合併カードを配置する」
「合併カード!?」
「合併カードは、景気が落ち込んだ時に発動する、サポートカードだ」
常務はもう1枚の名刺を、天に向かって投げる。
名刺は頭上で砕け、白銀の雪を思わせ、舞い落ちる。
「これにより、エイト&Lホールディングスとジーオンは合併! エイト&ジーオンと改名し、合併により、双方の資産を合わせて15億円に登る。
相乗効果で売り上げが一時、跳ね上がり、国内で指折りの企業になる。
そして、新会長が、新たな会社を統べる!」
「そんな馬鹿な……」
エイト&L + ジーオン = 合併、売り上げ
3,800,000円 + 8,000,000円 = 118,000,000円
1枚の名刺が合体し、太陽よりも眩しい、黄金の輝きが、コロシアム全体を照らす。
それは、まるで、創世記より、神が光りあれと、発したことのように、神々しかった。
黄金の光りが消え、代わりに、光輪と共に姿を現した、新会長は、ヘラクレスのように強靱で、ゼウスのごとく、全能さを感じさせる男。
いや、どこにでもいるハゲ老人だが、虎のような眼光を放ち、口に、Vの字で逆立つ鬚を蓄え、袴を着て、杖を含めた3本の足で、仁王立ちにする出で立ちが、彼を大きく見せ、引退間近の、老体だということを忘れさせた。
並外れた、経営手腕を、持っているというのが、出会った瞬間に解る。
前沢課長は言葉を失う。
負けた…………俺の名刺は、次の攻撃に耐えられない……完敗だ。
負けを悟り、脳が思考を止め、真っさらとなった。
幕ノ内常務は、狂ったように、身体を震わせて笑い、声を裏返す。
「うんにゅひょへへへへへ――――私の、私の勝ちだぁぁぁああああ!」
上司の、不気味な笑いで、気分が悪くなる。
だが、呆然と立ち尽くす、前沢課長にある疑問が、山から登る、日の出のごとく浮上する。
「――――待って下さい」




