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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔物が美味しくて冒険者やってます

作者: エリマキトカゲ

初投稿!いえい!何でもいいから感想貰えたら幸いです。変なとこあったら言ってください。よろしくお願いします。

 これはとあるCランクのしがない冒険者の物語である。


 名前をライル·グラトニルと言い、アマノニア王国の国境付近にある小さな村で生まれた。成人式後、単身で王都へ移住。現在は害獣や魔物の駆逐を職業とする中格冒険者として活動している。犯罪歴は特になく、冒険者ギルドでも気さくで有望なルーキーと、悪評らしい悪評は特に聞かない。街中でも年寄りの荷物を運ぶのを手伝って飴ちゃんを貰ったりしている、普通の心優しい青年だ。


 こうして彼の履歴を見ても特に変わった所は見当たらず、むしろ実に平凡な人生を歩んでいると言えよう。この履歴を見る限りは、だ。

 しかし彼、ライルには誰にも明かすことのできない秘密があったのだった……


○●○●○●○●○●○


「こちらが討伐依頼の報酬となります。ご確認下さい」


 外は夕暮れが近づき、気温がグッと下がってくる時間帯になってきた。1日の仕事を終えた冒険者たちは報酬を受け取ったり、酒場で飲み合ったりして、冒険者ギルド内は大層賑わっていた。


「はい。確かに100銀貨貰いました」

「では、また明日も引き続き当ギルドをご利用下さいね」


 頭部から覗く猫耳を揺らしながら、眩しい笑顔でこちらを見つめてくる受付嬢にいつもの如く心臓を揺すられながら


「も、もちろん! じゃあ、また明日」


 と、青年は少し上ずった声で返事をし、ギルドの扉をくぐり抜ける。早朝に依頼を受注しにギルドへ訪れ、夕方に報酬を受取り、また明日に備えて家への帰路につく。これがこの青年、ライル·グラトニルの日課だった。


 一般的な冒険者と同じ生活スタイル。しかしライルの一般的では無い所、彼の悩みの種であり、また生き甲斐でもあるもの。それは彼の自宅で行われる。


「♪〜」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら自宅に着いたライルは、鞄の中に忍ばせていたものを取り出して台所へ向かう。

 鞄の中から取り出したもの、様々な色のゼリー状の物が詰まった容器の蓋を開けると、ライルは鍋の中で煮詰めているスープにそれらを全て流し込んだ。


 頃合いを見てスープを器に移し、夕食の支度をする。色とりどりのゼラチン物体が浮かぶスープを前に座り、スプーンで掬って口内へ運んでゆく。


「……!!」


 液体が口腔内へと流し込まれた瞬間、複数の独特のフレーバーが絡み合い、鼻先まで広がってゆく。色ごとに異なる特有の香りと旨味が一緒くたになって口の中で溢れ出し、しかし濃すぎず、むしろ爽やかなフレーバーとなって溶け合う。ゼラチンは噛むまでもなくジュワァッと形を崩して喉元を流れていった。


 このスープに浮かぶ無数の派手な蛍光色をした輝く物体、その正体はライルが今日の狩場で捕まえて来たスライムという魔物だ。






 この世界では生まれながらに特有の能力、スキルというものを持つ人間が少数だが存在する。例えばそれは一瞬で場所を移動できたり、空中に浮かぶことが出来たり、生物と会話が出来たりなど、千差万別である。

 そして、ライルもそうした能力を生まれながらに保有していた。


『味覚反転』


 これがライルの持つスキルの名前だ。名前の通り、というかそのまんまだが、これは一般的に美味いと思われるものが不味く感じ、逆に不味いとされているものが美味く感じることが出来るという、能力だ。

 本来強力且つ圧倒的とされるスキルだが、ライルはこのどうしようもなく役に立たない能力に幼少の頃から長く苦しめられてきた。

 このスキルのお陰で仲間と碌に食事をすることも出来ないし、またこんな出来損ないのスキルを知られでもしたら周りから蔑みの目を向けられるのではないか、と恐れて誰にも相談することも出来なかった。未来は絶望だった。


 しかし、そんなライルにも転機が訪れた。冒険者稼業を始めて数ヶ月、ライルは気づいてしまったのだ。魔物がこの上なく美味なことに。


 以来、ライルは未知なる味を求めて事あるごとに魔物を持ち帰り家で調理して食べるのだ。

 因みに魔物を食べるとその不味さからショック死したという事例もある。


 そしてただ美味なだけではない。微量ではあるが、体内に取り込んだ魔物の能力を吸収することも可能だ。


「明日はどんな魔物に出会えるかなぁ~」


 ライルは王都に来る前では考えられなかったような笑顔で食事を続けた。


○●○●○●○●○●○


 翌朝、いつも通り早く起きてギルドに行くと、カウンター付近は何やらただならぬ雰囲気で満ちていた。

 取り敢えずいつもお世話になっている猫耳の受付嬢に聞いてみる。


「えっと、何かあったんですか?」

「あ、ライルさん!実は街から10キロ程離れた所にドラゴンが発見されたんですよ!」

「ド、ドラゴン!?」


 ドラゴンとは魔物の中でも最上位クラスの超危険モンスターで、出現すると街の1つか2つが消えると言われている。


「この後直ぐにランクC以上の冒険者へ強制依頼で討伐隊を編成することになっていますので、ライルさんにも後ほど収集がかかると思います。しばらくギルド内で待機していて下さい」

「わ、分かりました」


 これは完全に予想外の出来事だ。これじゃあ予定していた魔物の捕獲が出来ない…。

 落ち込んでいたライルだったが、ふと気づく。


「ドラゴンを…食べられる?」


○●○●○●○●○●○


「見えたぞぉ!!各自戦闘に備えろっ!!」


 先頭を歩いていた上位冒険者が声を張り上げた。

 集まった50人ほどの冒険者たちがそれぞれの武器を手に取る。その中でライルも自分の愛剣をするりと鞘から引き抜いた。


 前500メートル程先の草原に見えていた黒いゴマのような物体が物凄いスピードで近づき、大きくなっていく。


 それは紛れもなくドラゴンだった。全体で10メートル以上も有りそうな強大な翼を広げてこちらに向かって滑空してくる。全身をビッシリと覆う漆黒の鱗が紫色の禍々しいオーラを出し、見る者をすくみ上がらせる威圧を放っていた。


「あれがドラゴン……」


 ライルも実際に目にするのは初めてだったが他の冒険者もライルと同じように初めて見る者が多かった。中には早々に戦意を喪失して地べたに座り込むものもいた。


「どんな味がするんだろう…。爬虫類だから煮込んで柔らかくしたほうが良いのかな…それとも茹でて…」


 何やらブツブツと呟くライルの眼は完全に捕食者のそれになっていた。


「第1と第2部隊は左右に分かれて回り込め!! 3、4部隊は遠距離攻撃用意…発射!!」


 炎や氷、雷などの魔法が生み出した超自然現象物体がその他槍や弓矢と混じって標的に着弾する。堪らず翼を折りたたんで地面へ着陸したドラゴンに、冒険者たちが背後から一斉に攻撃を開始した。


「グ、ギャアオオオオオオオオン!!!」


 ドラゴンは悲鳴の様な雄叫びを上げたかと思うと、口を大きく開けて空気を吸い込み始め、その胸部はみるみる膨張していった。


「まずいっ、ブレスだぁ! 避けろー!!」


 誰かがそう叫ぶやいなや、ドラゴンの周りは青白い炎で燃え上がり、何人かが犠牲となる。


 混乱と極度の恐怖状況に陥った冒険者たちは散り散りとなって走り回った。


「駄目だ! 一度距離を取って陣形を組み直すんだ!!」


 リーダーらしき冒険者が叫んで指示を飛ばすが、今回戦っているのは国の訓練された兵士や騎士ではなく冒険者。少人数で強力な魔物を倒すことができるがこれ程大規模な編成で行動したことのない彼らが直ぐにたち直せるかと言うとなかなか厳しいものがあった。


「こんなの人間が倒せるわけが無いだろぉっ」

「俺もう帰る〜っ」

「アァアアアァ! 腕がぁっっ!!」


 そこは正に阿鼻叫喚といった様になっていた。多くの者が負傷するか、恐怖で動けなくなっている中、一人の青年が悠然と立ち上がって走り出した。

 それは勇気かそれとも蛮勇が成せる技なのか、ともかくドラゴンにたった一人で向かっていける者はそう居ないのは確かだ。ならばその姿は勇敢と言うに足るものだったろう。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ライルは走り出した体勢からそのまま剣を前へ突き出し、その心臓を目掛けて突っ切った。

 しかしそんな真っ直ぐで分かりやすい攻撃を相手が気づかないはずがない。ドラゴンは再び大きく息を吸うと、目の前の人間に向かって強力なブレスを浴びせた。

 

「あああぁあぁああ!!」


 勇敢にもドラゴンに立ち向かって行った青年はそのまま焼かれて跡形なく消えてしまった。


「あぁ、やっぱり駄目だったんだ…」


 彼の勇敢な姿に心動かされた冒険者達は再び絶望のどん底に突き落とされる。その時だった。


「!? グギャアアァァアア!!!」


 目の前の脅威が突然、口から大量の血を吐き出して苦しみ始めた。

 よく見てみれば、先程ブレスに焼かれて死んだはずの青年、ライルが剣をドラゴンの心臓へ突き刺しているのが見えた。


「ど、どうして…!?」


 実は先程焼かれて消えたものは昨晩ライルがスライムを食べた事によって獲得したスキル、『分身』を使って生み出した分身体だった。ライルは、ドラゴンが自身の分身に気を取られている隙に懐に潜り込み、最初の射撃で鱗の装甲が剥がれていた心臓部へと剣を突き刺したのだった。


「っ! 今がチャンスだ! 攻撃しろぉーっ!!」


 ドラゴンが苦しんでいるところへ冒険者たちが一斉に攻撃を再開する。やがてドラゴンは徐々にその動きを弱めてゆき、最終的にはピクリとも動かなくなった。


「か…勝ったぞーーーーー!!」

「うをあああああああああああ!!!」


 こうして街の脅威は絶滅したのだった。


○●○●○●○●○●○


 その晩、酒場は大いに盛り上がっていた。


「ガハハハハ! おら、竜退治祝だお前が飲まんでどうする!?」

「そうだ!お前さんがいなかったら皆くたばっちまってたかも知んねぇからなぁ。本当感謝してるんだぜ?」

「昇進おめでとう!『竜殺しの騎士』さんよ!」


 ライルの周りには今回討伐隊に参加したメンバーたちが揃って酒を飲み合い、ライルの昼に見せた勇敢な立ち回りについて熱く語り合っていた。

 そしてライルは今回の討伐でランクはBに上がり、また『竜殺しの騎士』という2つ名が付いた。報酬としてドラゴンの素材を少々、そして肉もしっかりと貰ってきた。ギルド長は肉を何に使うのか、と不思議そうな顔をしていたが、ライルは愛想笑いを浮かべてやり過ごした。


「にしてもよぉ、あれ、どうやったんだぁ? 俺にはどうもお前さんが完全に焼け死んじまったようにしか見えなかったんだがぁ?」

「俺も気になっていたんだ!」


 周りの冒険者たちがライルに聞いてくる。


「ああ、あれですか」


 早く帰ってドラゴン肉を食べたかったライルは適当に答えた。


「気合です」


 それが後日どんな噂になっているかも予想せずに。


○●○●○●○●○●○


「はぁ~〜疲れた〜。本当皆飲み過ぎだよ…」


 ライルはその後も質問攻めにあったがのらりくらりとかわしてようやく自宅にたどり着いた。

 そして今回報酬で貰ったドラゴンの肉を取り出す。


「むふふふふふ」


 気味の悪い笑みを一人で浮かべながらライルは食材を台所へ運ぶ。

 色々と調理法を悩んだが、結局肉は肉だけで食べたいと思ったのでそのまま焼いてステーキにすることにした。他に備え物としてウォータースパイダーの揚げ物とマンドレイクのサラダにポイゾンフロッグの溶解液で作ったソースを掛ける。デザートには先日捕まえたばかりのスライムの残りで作ったゼリーがある。


 誰かが見たら吐きそうなメニューである。誰も人間が食べるものとは思わないだろう。ちなみにライルは人間だ。


「…いただきます」


 焼きあがったドラゴンの肉からは紫色のキラキラしたオーラが流れており、なんとも香ばしい香りを放っていた。ゴクリ、と生唾を飲むとフォークとナイフで一口サイズに切り分け、勢い良く頬張った。


 流石は伝説のドラゴンだ。その味もまた伝説級だった。肉の旨味が口の中で爆発し、噛んでも噛んでも肉汁が次々と溢れ出して洪水のようだった。そしてライルの瞳からも洪水のように涙が溢れ出した。


「う、うまい。うまずぎる。いぎででよがっだぁぁ!」


 味を例えるとするならば、黄金で出来たの波の上でサーフィンをしているかの様な心地よい疾走感と豪華な雰囲気。そんな風に感じた。

 この為に冒険者をやっている。そう改めてライルは実感したのだった。


 その後興奮しすぎたライルは口から青白い炎のブレスを吐いてしまい、テーブルセットを1つ無くして泣いた。


○●○●○●○●○●○


翌朝再びギルドのカウンターにて。


「ではクエストの受注を確認しました。お気をつけていってらっしゃいませ」

「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」

「あ、そういえばライルさん、昨日のドラゴン討伐で気合と眼力でドラゴンを失神させて剣の1振りで両断したって本当ですか?」

「……え?」

 

 ライルは『竜殺しの騎士』の他に『気合だけでドラゴンを気絶させる男』と言われて怖がられていた。


「昨日の間に何が起きたんだ…」


 噂とは怖いものである。そしてギルドを出て街を歩いていたら、すれ違った子供に大泣きされてライルの心は深く、深く傷ついたのだった。 

また別物になりますが短編を書いてみたいとは思っているんで、見かけたらよろしくお願いします。

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