彼女からの手紙 51通目
――卒業式の日、私は君に挨拶したかったけど、子どもたちに泣かれちゃってね。
――いろいろ挨拶してたら、君の方が先に帰っちゃった。
――だから、何も言えないままだったね。
――君も私に何も言ってくれなかったね。
――ねぇ、キスしたのって、あの1回だけだった?
誓ってあの1回だけだった。
――こっそり何度かやってた?
――もっとエッチなこととか、してなかった?
――してなかったとしても、したかったんでしょう?
――私の寝顔をずっと見ていた日が何度か会ったのは覚えてるよ。
――それとね、とっておきの秘密があるの。
とっておきの秘密?
――あの日はね、司書室に入ったら、君の方が先に寝てたの、文机で。
――疲れてたのかな?
――確か、司書の先生に新学期の教科書の分配を頼まれた日だよ。
――君が寝ていたのは、あの日だけだったね。
――覚えているかな?
なんとなく覚えている。あれは私が高校2年、彼女が高校3年の春の話だ。
――だから私は、その時にあの日のおかえしをしたの。
――寝ている君のくちびるにキスしたんだよ。
――だから君と私がキスしたのは2回。
――あたしが知らないだけでもっとしてたなら、もっと多いかもだけど。
――気づかなかったでしょ?
また心臓が強く跳ねた。知らなかった。
それに自分が彼女にキスした時はほっぺたにだった。
彼女は私のくちびるにキスをしていた?高校2年の時に?
――じゃあ、ここまで探した君にご褒美をあげよう。
72通目には手紙にキスマークがついていた。
73通目には電話番号が書かれていた。
74通目には住所が書かれていた。
75通目には大学の名前と学部が書かれていた。これだけはもう知っていた。忘れるはずがない。
75通目を探し終えた段階で、外はもう星が出ていた。