彼女からの手紙 22通目
――うちのお母さんはお父さんと不仲で離婚したの。私は東京の方に残っていたかったけど。
――だけど、お母さんは私を連れてここに戻ってきて。それだけなら耐えられた。
――でも、私も住んでいる家に、新しい男を連れて込んでいたの。
――離婚したばかりでお金がなくて、生活が困窮していたのはわかっていたけど。
――性的に多感な時期に、実の母親が父親以外の男とお金目当てで寝ているのは我慢できなかった。
――寝ているっていうより、もっと直接的な表現をすれば、セックスしてたってことね。
――中学の時から、家ではまともに寝れなかったの。
――夜は代わりに勉強してたわ。だから成績も良かったでしょ?
――それで朝日が昇ってから、学校に行くまでの短い時間だけ寝ていたの。眠りは浅かったけど。
――そしてお昼は君の隣で30分だけ寝ていたの。ぐっすり眠れたよ。
――どうせそっちの家からは通えないから、県内の大学でも良かったんだけどね。
――東京の大学に行きたかったの。東京に戻りたかった。
――東京の大学で学費免除になって、奨学金だけの生活を送れるように必死に勉強したわ。
――だから私の中学高校時代の思い出って、勉強したことと君の隣で寝ていたことと、本の内容ぐらいしかないの。
――体育祭も文化祭もスキー合宿も修学旅行もあんまり覚えていない。
――修学旅行なんて嫌いな担任と相部屋の2人旅だったしね。
――必死に勉強して、大学も受かって、学費免除ももらえて、無利子の奨学金も受かったわ。
――大学ではメガネからコンタクトにしたわ。
――初めて部活にも入った。バイトもした。
――何人かにも告白されたよ。
――最初は断ったんだよ。
――君が大学に受かって、東京に出てきたら、私に会いに来るって思ってた。
――でも、君は来なかったね。
――ごめんね。勝手だよね。
――メルアドも番号を教えてないのに、君が迎えに来るって期待してたなんて。
――この村に住んでいたら、ケータイなんて持っていても意味ないのにね。
――私は大学に行ってからケータイ買ったよ。
――だから、あの時、ケータイの番号かアドレスぐらいは聞いてほしかったな。
――ごめん、さすがにわがままだよね。私が教えていけばいいだけの話だもんね。
ふっと、我に返る。外は宇宙人が出てきそうなくらいに綺麗な夕焼けだった。
手紙はようやく50枚、まだ半分だった。